楽しみで賞

 よし、次の表彰いっちゃいましょうか。


 おおっと、これはあなたもお待ちかねのあの賞ですよ!

 「旅行楽しみで賞」!!


 いやあついに受賞してしまいましたね、この賞を。


 受賞の感想は?

 この気持ちを今一番誰に伝えたいですか?


 え? 愛する彼女に? まあ!


 あー! 待って待って。お待ちになって。

 いいじゃない。自分でインタビューして、自分で答えて、自分で照れてもいいじゃない。


 本当はレッドカーペットだって用意したかったんだから。

 でもね、真っ赤ってなかなか無いの。

 百均に無かったから、断腸の思いで断念したわ。


 それに比べたらね、ほらかわいいものじゃない。

 レッドカーペットが手に入っていたら、私はドレスだったし、あなたはタキシードよ。

 こんな! 2LDKで! 恥ずかしくないのかしら! 


 ね? たかが小芝居くらいいいじゃない。


 あー、知りません。知りません。今は式の最中です。静粛に。

 はい、静粛に。



 ではでは「旅行楽しみで賞」。

 えー……いよいよ来月に迫った沖縄旅行楽しみですね。

 よってここに表彰いたします。




 ……違うわ。ネタ切れじゃないわ。これはね……緩急。

 私のリードセンスとエンターテイメント精神の結実よ。



 いやー、何にしても楽しみね、沖縄。

 大学生の頃に一回行ったけど、あれ以来だから、本当に久しぶり。

 二日目に予定しているウミカジテラスだっけ。前行った時はなかったもんね。

 そういうこともあるんだねえ。楽しみだなあ。


 もちろん、また行くところも楽しみだけどね。

 一番の楽しみはやっぱりあそこ。「おきなわワールド」。


 ヘビがねえ、本当に可愛いよねえ。

 あんなにヘビが可愛いなんて知らなかった。

 帰ってきてから、飼うかどうか真剣に検討したもん。

 めっちゃ「へび 飼い方」で検索しちゃったもん。

 餌の冷凍マウスが無理で諦めたけど、それがなきゃ絶対に飼ってたね。

 はあ……また触れるなんて夢みたい。


 でも、ごめんね?  

 その気になれば別のところでも触れるヘビのために貴重な旅行日程をもらっちゃってさ。


 ……うん! もちろん、最高の笑顔を見せてあげますとも! 

 サイリウムだって持ち込んでいいよ! 私は許す!



 あー……でも、やっぱりもう少し長くいたかったなあ。

 まあよく四日も休みが取れたとは思うけどさ。

 あと一日、いけるはずだったのに……。


 前行った時は、一週間くらい滞在したんだっけ?

 さすが大学生。時間だけはあったねえ、本当に。  


 だがしかし、悪いことばかりでもないよね。

 時間と引き換えに私たちには手に入れたものがある。


 そう、それはお金。

 なんてったってタイムイズマネー。

 はあ、私たちの時間はお金になってしまった……。

 これが資本主義。


 人生は持っている手札で闘うしかない。

 それがデュエリストの宿命ならば。


 つまり、私たちは金の力で楽しむしかない! 


 ふふふ、成りたくない大人になってしまったね、私たち。

 美ら海の浜辺で失ったものを数えながらさ、一緒に札束で頬をはたきあおうね。



 え? うん。相当浮かれポンチですよ私は。

 だって旅行自体がだいぶご無沙汰だからねえ。本当に楽しみだなあ。


 大学生の頃はあんなに旅行したのにね。

 こんなに行きにくくなるなんて思わなかった。


 昔は四十七都道府県全部制覇するぞなんて言ってね。

 勢いがあったよ、あの頃の私たちには。

 だけど今やこんなに冷静沈着、泰然自若。


 前は新しいものが見たい、まだ見たことないものを見たいっていう冒険みたいな気持ちが旅行のモチベーションだったけど、今はあんまりそういう気持ちは無くなっちゃったな。

 いや、もちろんありはするんだけど、昔行ったところにまた行くのも凄く素敵だなあって思えるようになったの。

 同じところにいっても感じ方は全然違うだろうし、前はああだった、こうだったって話すのもきっと楽しい。


 昔さ、京都ばっかり何度も旅行する友達がいて、ちょっと不思議だったんだけど、今は何となく気持ちが分かる気がするんだよね。

 どれだけ見ても見足りないっていうのもあるんだろうけど、思い出があると、それだけで景色が複雑に、しかも自分だけの色を放つようになるからなんだろうね。


 何かさ、二回目の沖縄もまだなんだけど、三回目四回目のことまで考えちゃったよ。

 もし子どもができてから来るなら遺跡よりは海かなあとか、年を重ねてから来るならもっと文化みたいなのに興味があるのかなあとかさ。


 それでさ、その時はきっとはじめて行ったときのこととか、今度のときのこととか思い出すんだよ。

 「あのときのあなたはこんなことを言ってた」とか「ここはやっぱり素敵だね」とか話すの。


 なんか、そんなこと考えてたらすごく嬉しくなっちゃって、こんな賞を作っちゃいました。

 この賞はね、昔幸せだったなって思い出があって、今楽しみだなって喜びがあって、もっと遠い未来にもわくわくしている希望があって、そうして受賞した栄えある賞なんだよ。


 ね? ネタ切れなんかじゃないでしょ?


 あ、ちなみにこちらの副賞はまだ用意していません。

 なんと今回の副賞は前代未聞の歩合制となっております。


 だから……楽しい思い出いっぱい作ろうね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る