葉桜
たこ爺
プロローグ
「………」
彼は、何も言うことなくただ佇み
そして
絶望していた。
「なぜ……自分はどこで間違っていたんだ?
長崎まで、ついてこさせたことか?
軍に入ったことか?
この国に居続けたことか?
なぁ、何が間違いだったんだよ。和子、教えてくれよ。鉄男、晴也、笑って、出迎えてくれよ。父ちゃん、帰ってきたぞ……」
そこにはただ一人、ただ一人で泣く一人の漢(おとこ)がいたのだった。
― 一九四二年(昭和一七年)四月
「こちら、五五七号機着艦の許可を求む。」
陽が翼を照らし風が少し暖かくなってきた頃、
一応陸上での着艦訓練を受けてはいるが、実際の着艦は初めてになる。さすがに緊張するというものだ。
『こちら管制、了解。着艦を許可する。これからは私が誘導する、慎重にやれ機をぶち壊したら招致せんぞ。』
そう、ただでさえ初めての着艦な上に乗っているのは練習機より貴重な戦闘機である。壊したらただでは済まない。
緊張に緊張が重なり、青葉の手は震えている。
『どうした新米?機体がふらついているぞ。落ち着くんだ。焦ってもいいことはないぞ。』
た、確かにそうだ。落ち着け、深呼吸、深呼吸…
『よし、いいぞ。進路そのまま……』
ドスン
機体に衝撃が走りフックがワイヤーに引っ掛かり機体は急停止する。
その衝撃に思わずつんのめりそうになるが、何とか抑える。
機体から降り、潮の香りと重油の混ざったあの独特なにおいを目いっぱい吸い込む。
機体が傷ついてないか心配になりつつも、あとを整備士達にまかせ着任の報告をしに艦内を進む。
艦内は、活気に満ち溢れておりとても騒がしい。
― 同 小隊待機室前―
さて、このドアの向こうには新たな同僚達が待っている。
緊張した心を落ち着かせ意を決してノックする。
「入って」
「失礼します!」
中には三人の人物がおり狭い部屋の奥で待っていた。
「ただいま第一航空戦隊空母加賀第五〇二航空隊第五小隊に着任いたしました。青葉 智徳一等飛行兵です。よろしくお願いいたします」
「うん。報告ご苦労。青葉一飛といったね。私は小隊長の
「
「
それが、彼らとの出会いだった。
そして簡単な自己紹介を終え息つく間もなく待ち構えていたのは、陸(おか)とは比べ物にならないほどの地獄のような訓練だった。
朝は陽がのぼる前に起き、朝食をとったらすぐにその日の訓練内容の確認、それが終わればすぐに訓練が始まった。それは夜間訓練を含めて長時間続いた。訓練が終わった後も反省会があり、寝るのもそう早くはない。
そんな中でも支えてくれていたのは同じ小隊の人たちだった。
鮫島小隊長殿はとても優しい。そして、その冷静な頭脳を駆使した操縦の腕は他の小隊長達の中でも群を抜いていて中隊長にも勝るほど。出世しようと思えば階級も幾許か上がるそうだが、本人曰く『このままでいい』らしい。実に惜しいと新米ながら思う。支那戦線ではネームドにもなったのだとか、しかし、その二つ名は教えてもらえない。そして、普段から南雲一飛曹殿とはとても仲が良く、常日頃から互いを高め合っている。
南雲一飛曹殿は、とにかく荒い。がたいがいいのが追い打ちをかけ、正直怖い。だが、話してみれば別段悪い人ではなく、とてもおもしろい人だ。ちなみに操縦の腕はピカイチで小隊長にも勝っており、第一航空戦隊では文句なしの一番だ。ただ、本人が人の上に立ちたくないと言って聞かないらしい。実際のところは小隊長の下で飛びたいだけなのではないかと管内では噂されているが本人は否定している。本当だとしたらとても面白いと思うのだけど
最後に鈴木一飛だが、とても仲良くさせてもらっている。階級も同じで南雲一飛曹殿より気遣いが必要ないのが大きな理由だ。腕は自分と同じぐらいか、少し上、その分気を合わせやすく一緒に飛びやすい。だが、少々気が弱く実戦になったときに戦えるのかと心配されている。だがまあ、なんとなく大丈夫な気がする。
ちょっと癖がある人が多い我が小隊だが、楽しく、そしてより高みを目指して頑張るつもりだ。
―一九四〇年(昭和一五年)一二月二日 御前(ごぜん)会議(かいぎ)後―
「ついに……決まったな。」
「ええ。しかし、とうとう阻止できませんでしたね。」
「しょうがない、では済まされないのだがな。あの、ハル・ノートを貴官も見たのであろう。あれは、到底受諾できるものではない。これまでの外交努力の一切を踏みにじってきたのだからな。仕方あるまい。」
「それもそうだな……中佐、機動部隊に向け伝達。ニイタカヤマノボレ一二〇八。」
「分かりました……復唱!『ニイタカヤマノボレ一二〇八』を機動部隊に伝達します!」
「うむ。頼んだ。」
こうして太平洋での開戦は決定した。青葉達の所属する第一航空戦隊の目標は太平洋の要衝。真珠湾である。
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無線は、戦闘シーン等で話す部分が少なくなってしまわないようにするためにしています。ご了承ください。
空母加賀は佐世保が母港となっておりました。
艦内はとても荒れていたという話も、描写する予定はありませんが有名な話ですね。
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