その5


ぴょんぴょん!


ドアの横の小さな扉から、ジュナのウサギ、カモミールとアールグレイが飛び込んできた。カモミールは口に手紙のようなものを咥えている。


「二人とも、一体どうしたの!?」


ジュナが急いで手紙を開けると、そこには信じられない内容が書かれていた

「僕の家が、攻撃された。庭がめちゃくちゃになってる。ティエラ戦争が始まったんだ。作戦を立てて、僕らの陣地を守ろう。僕のいるところに、みんなを集めてきてほしい。 リッキーより」


「ついに、始まってしまったのね。もう時間がないわ。リッキーのところへ急ぎましょう。」


「動物の言葉が分かる」少年リッキーの家はジュナの家より少し離れた、大木の一番上にある。太い枝の間に小屋と、植物が育つ庭があった。だけど、今はひどく土が荒らされている。屋根もはがされていて、丸裸の小屋になっていた。僕たちがリッキーの家に着くまでに、何度も大きなドーン、という音を聞いた。僕は思わずシュナに聞く。

「一体、ローザ王国の皆は、どうやってここが攻撃できるの?」


「ローザ王国は、特別な「フィラー」を使うの。自動操縦型のフィラーで、中に植物をダメにしたり、物を腐らせる「薬」が入ってたりするのよ。そのうち、あっちの子供たちがこっちに入ってくるはずよ。」


その指示を、全部王国のローザ女王が、したということだろうか?一体、愛(めぐ)ちゃんはどうして人の物を奪ったり壊したりするんだろう?


僕たちがドアの近くに来たのを確認すると、リッキーが中から出てきた。

「さあ、中に入って。おや?新しいお客さん…君たちはねずみとワタリガラスだね!ようこそ。」

リッキーは、レイブンとルークを見て、すぐに元の姿を見抜いた。褐色の、黒い髪のパーマの少年。多分、海外の小学生だ。リッキーの家は全部木で出来ていて、中には、金属の欠片やねじが沢山入った道具箱がいくつも積まれていて、白い鳩が何羽も木の枠で出来た窓に止まっている。


「君は、ジュナの友達かな?僕はリッキー。よろしくね。」

手を差し伸べるリッキーと僕が握手をすると、ジュナが僕たちを紹介した。

「真琴(まこと)さんって言うのよ。今のローザ女王、「夏目(なつめ)愛(めぐ)」の知り合いで、探しに来たのよ。レイブンさんとルークさんは、真琴(まこと)さんのお友達。」

「みんな、よろしく。早速だけど、作戦会議開始だ。さっき僕がはじめの攻撃を受けたことで、王国と砦の、「ティエラ戦争」が開始された。僕たちは、決して攻撃はしない。だから、砦を守ることが第一優先だ。それから、この合戦を始めた王国に、止めさせる。」

「それは、僕たちに任せて。僕たちが王国に行って、ローザ女王を説得して、「ティエラ戦争」をやめさせるよ。」

「真琴(まこと)、本当かい?それなら、僕はフィラーで君を援護するよ。シュナ、君の友達のミナ達には守りに入ってもらう。シュナ、君はそれでいいかい?」

「ええ、異論はないわ。だけど…一つ問題があるの。ローザ女王の住むローザ城の入口の鍵は、女王様の大事にしている「猫」なの。私達人間が入れないようになっているわ。」


「それは…。君達の友達に手伝ってもらうことはできないの?」


僕は二人を見たけど、二人とも首を横に振った。


「「平和の砦(へいわとりで)」の動物は皆王国に把握されてる。絶対に入れてくれないよ。」

会話を聞いていたレイブンが、何かを思いついたように言った。


「なあ、俺に考えがあるんだ。俺、さっき変な薬飲まされて、一瞬カラスの姿に戻ったんだ。あの薬で、俺とルークを元の姿にしてくれないか?俺とルークが合体して、鍵の代わりになれたりしねえか…?」


ルークが、驚いた顔でレイブンを見る。


「なるほど。確かに、試してみる価値はあるかもしれない。君が飲んだのは、「時戻りの薬(バックトゥザパスト)」と言われている薬で、シュナが、良く知ってるよ。」


「ええ、モス夫人のお粉をいただいて、作れる貴重なお薬なの。」


シュナはそう言うと、つけていたエプロンのポケットから、紫色の液体が入った小さな瓶を取り出した。僕は、レイブンとルークと顔を見合わせた。


「でも、失敗すると、姿が永遠に変わってしまう危険な薬よ。それでも、試して見る?」

「あの、私もレイブンさんの作戦に賛成です。どんな姿になっても、ご主人様の為ならへっちゃらですから。」


ルークが力のこもった声でそう言うと、僕たちの決断に押されたのか、ジュナは覚悟を決めて、小さなふたつの瓶を二人に手渡した。


「さあ、これを飲んで。良いわね?効果は30分だから、時間に気を付けるのよ。」


二人は、すっと「時戻りの薬(バックトゥザパスト)」を飲み干した。姿が見る見るうちに小さくなって、レイブンはカラスの姿に、ルークはねずみの姿に変わった。


「何だか、体がムズムズしますね…。成功したみたいですけど…。」

「うん、成功だ!あれ?君、片方の翼がないの…?」

リッキーがレイブンの姿を見て驚く。

「ああ、父さんと色々あってさ。でも平気だ。ステージをクリアしたら、絶対取り返すから。」

へへっ、と笑うレイブンの姿を見て、リッキーが思い出したように何かを探し始めた。

「もしかして、もしかすると…。」

リッキーはそう言いながら、木でできた飛行機の翼のようなパーツを道具箱から引っ張り出した。パタパタと動かして見せると、滑らかに動く。

「これは僕の友達が飛ぶ練習を手伝うために作ったんだけど、きっと君にピッタリだと思う。これで、君はもう一度飛べるはずだ。君が翼を取り戻すまでの応急処置だけど。」

それを見た瞬間、レイブンの目がぱっと輝いた。

「マジか…!?俺、前みたいに飛べるのか?」

リッキーが頷くと、レイブンの失われた片方の翼に、木製の翼をはめて、ベルトで止めた。レイブンがそっと動かしてみると、本物の翼みたいに、ピッタリとハマった。


「俺に、ピッタリだ…。リッキーは天才だな!」

「僕の友達のおかげさ。さあ、急ごう。薬の効果が切れるまでに、お城に入らないと。」

ルークが、翼を動かして、僕の肩に乗ると、レイブンの上にルークが乗った。僕はルークとレイブンに話しかける。


「ルーク、レイブン、君たちは先に行って。王国が君たちに気づく前に向かって、ローザ城の中に入るんだ。僕たちもすぐに合流するから。」


二人は頷くと、窓から飛び立っていった。

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