その3
「父さん、ごめん、俺どうしても真琴(まこと)と一緒に最後まで行きたいんだ。跡取りの話、後で必ず戻ってくるから!」
僕は二人を両腕に抱きかかえて、急いでクレイブの屋敷から飛び出した。
「全く、手のかかるせがれだ。人間の世界(ぼくら せかい)に、一体どうしてそこまで惹かれるのか、理解に苦しむわ。このまま逃げ切れると思うなよ。ミレイ、あいつを追え。」
「クレイブ様、おまかせください。」
僕は「忍びの里」を懸命に走った。けど、何かがおかしい。さっきより忍びの里の土地が狭くなってる。ていうか、見る見るうちに遠くから地面がなくなっていく。僕がさっきミレイと歩いてきた道がすっかり消えて、「忍びの里」だけ取り残された。これ以上、前に進めない!後ろから、ミレイと門番たちが追いかけてくる。
「おいっ、真琴(まこと)!どうする?」
普通なら、僕は崖の下を流れる川に飛び込んでたかもしれない。だけど、もしあれが本物の水じゃなかったら、大けがをしてしまう。こんなに簡単に、地形を変えられるなんて…。なら、こっちにも考えがある。
「僕が来た道が、全部簡単に外せる…ってことは…!」
僕は、一番初めに崖から降りる時に地面を掘って、階段の形を作ったことを思い出した。その時のフィラーは、さっきいくつか拾っておいたんだ。今は小さなピースになって、僕のポケットにいくつか入っている。イチかバチかで、僕はフィラーを崖すれすれのところに投げた。
ポワンッ!
その小さなピースは、目の前で膨れ上がって、崖から一段、階段を作った。身を乗り出したら落っこちそうだけど、十分歩けそうだ。
「こ、ここを歩くんですか?ご主人様!」
「大丈夫だから。しっかりつかまってて!」
僕はそこから何度もフィラーを投げて、間隔をあけて階段を作って、二人を抱えたまま飛び移って、下に降りていった。ミレイ達は、もう後ろを追いかけて来なかった。地面に着くと、僕は二人を降ろした。良かった。全員無事だ。
「ハア、ハア…。レイブン、ごめん!君の大切な翼、取り返せなかった。」
「心配すんなって!場所が分かっただけでも上出来だ。それに、真琴(まこと)が来てくれなかったら、俺は一生帰れなくなってたからな。それより…なんでねずみの姿のままなんだ?」
「確かに、変ですね…。でも、それはレイブン様だって同じなのではないですか?」
「俺は、確か変な薬を飲まされて、この姿に…。」
その時だった。二人の体がいきなり光に包まれ始めた。
「わっ、な、なんだ?」
二人の体はどんどん大きくなって、人間の姿、「ヒューマノ」に変化した。
「もしかして、薬の効果が切れたのか? ふう、やっと戻れたぜ!」
レイブンはどこか嬉しそうにしてるけど、僕はルークの人間の姿を見て驚いた。ルークは、真っ白なシルクのワンピースみたいな服に、白いふわふわの髪の毛をして、トレードマークのサングラスの代わりに、黒目がまん丸でくりくりっとしてて、ねずみの姿だった時のひげと鼻がちょこんと付いて、耳が頭の上にある。両足をぺたんと曲げて地面に座って僕たちを見上げていた。なんか、まるで、女の子みたいだ。
「ルーク、それが君のヒューマノなんだ!思ったより、小さくてびっくりしちゃった。」
「わたくし、まさかこんな幼子のような姿になるとは…。」
おどおどしているルークの姿を見て、レイブンが吹き出した。
「ハハハ!なんだよ、その姿!お子ちゃまみたいだぞ。」
「笑わないでくださいよ!レイブンさんだって、あんなに偉そうに話したくせに、姿は少年じゃないですか!」
どんな姿だったとしても、親友のルークも、レイブンも、僕の隣にいることがすごく心強い。僕はルークを起こして、今自分たちが立っている場所を確認した。
「ねえ、ここってさ…。」
僕が周りを見渡すと、そこにはいくつもの崖と、崖に囲まれた家と、奥に巨大なお城が見える。一つ一つの家は、色も形も大きさも全部違って、僕は目がチカチカしてきた。
「こんなに家が沢山あって、どうやって生徒を見つけるっていうんだ?」
「…。待ってください。ご主人様、何か奇妙な音が聞こえてきませんか?」
ルークが、大きな耳をそばだてる。
「あっちです!あの二つの崖の間から、何者かが近づいてきます!」
ルークが指さす方向から、2匹のウサギが飛び出してきた。体が、ピンクと黄色だ。2匹とも頭に小さな帽子が乗っていて、花柄とキャンディー柄のエプロンをつけている。
「エプロン…?ウサギ…?君たち、待って!僕たちは敵じゃないよ!」
僕がそう伝えると、2匹は僕たちを囲んで、ぐるぐると回り始めた。レイブンは参った、って顔をして僕を見る。
「何だいきなり?おいおい、俺たちを放っておいてくれよ…。」
動物なら、僕の話が分かるかもしれない、そう思った僕はウサギに話しかける。
「君たち、これくらいの背の女の子を知らない?夏目(なつめ)愛(めぐ)ちゃん、って言って、僕の弟の友達なんだ。」
僕が話しかけても、ウサギは理解していないみたいだった。2匹の会話も聞こえてこない。
「どうしよう、僕、この子たちが言っていることがわからない…。」
「ご主人様がお分かりにならないなんて、不思議ですね…。」
ルークが僕の陰に隠れながらそっと覗いてそう言った。
「あなた達、どちら様?私のティーパーティーのお客様?」
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