第15話 異世界で生きるということ

「あと何匹倒せばいいんだ」

「知らん、それより生き残ることを考えろ」


 魔王軍の軍勢との集団戦が始まってからもうかなりの時間が経っている。

 仕事の都合上、体力自慢が多い冒険者でも流石に疲れが見えて来ている。

 しかも奴らの数は一向に減らない。

 まずいな、もうそろそろ精神がすり減り切る時間だ。

 だがもう少し耐えればいい。

 あいつが間に合えばそれでいい。


 魔王軍の軍勢が馬鹿みたいに多いのは最初から分かっていた。

 ベテランスカウトによるとこの町に着くのはちょうど1日後らしい。

 ならばこんな泥沼の戦いになるのは予想がつく。

 そして一旦泥沼に入ると抜け出すのは厳しい。

 最初は勝利は絶望的かと思われた。

 だが希望はあった。


 冒険者にはランキングというものが存在する。

 数ある冒険者の中でも強者100名のみが参加できるランキングだ。

 初めて冒険者になったものは自分が試験に受かったことで浮かれている場合が多い。

 そんな新人に突きつけられる第一の壁がこれである。

 

 圧倒的な実力差、それは全てを覆す。

 俺も今でこそA級冒険者の一人としてランキングに参加しているが、俺が新人の頃は酷かった。

 

 いわゆる「異世界人の年」である。

 ある研究所が起こした事件により、異世界人が大量に運ばれてきたのである。

 異世界人は次元を渡って来る際に強大な力を得る。

 あるものは無から財宝を生み出し、あるものは竜巻を吐き出して、あるものは竜を従えた。

 まさに赤日夕書の終末のようなとんでもない時代だった。


 なんやかんやあって異世界人の大半は異世界に帰っていったのだが、ここに残るメンバーも数名いた。

 それが現トップ20の面々である。

 一人一人が一騎当千、いや一騎当億ぐらいの強さがある。

 

 そう、我々の希望はその異世界人達だ。

 A級1位、アーサー・ペンドラゴンが、最強達の中の最強が、ここまで来れる距離にいるのである。


 冒険者協会はその最強に連絡を取った、そうして来る手筈になった。

 本人いわく、着くのはちょうど1日後らしい。

 つまりはこの町の冒険者達で1日守りきれば、我々は勝てるのである。


 俺はなまくらになった支給品の剣をゴブリンに力技で突き刺す。

 そして帯刀していた相棒を抜く。


「行くぞ、雷鳴迅雷切り!「その必要はないよ」」


 俺が技名を叫び、発動しようとした瞬間、目の前に茶髪の少年が舞い降りる。

 

「来ましたか、騎士王」

「君にそう呼ばれるのは、少し恥ずかしいな」


 アーサー・ペンドラゴン、通称騎士王は敵の軍勢を睨む。

 そしてまずは空間魔法で穴を開き、そこからから一本の剣を引き出した。

 黄金の煌びやかな剣だ。

 そして騎士王はそれを抜く。


「鏡力反転」


 騎士王が何かを呟いた瞬間、大きな結界が戦場を覆う。

 そしてアーサーは大きく剣を振りかぶり、振り落とす。


 グチャ


 その瞬間、全ての魔物が破裂した。

 戦場が赤く染まる。

 先ほどまでの騒がしさは消え去った。


 そして、冒険者達の大きな歓声が戦場に響き渡った。

 

 魔王軍への容赦のない痛快な一撃を褒め称えるもの、騎士王の実力を生で実感した優越に浸るもの、町を守りきったことに喜ぶもの、他にもさまざまな声が響き渡っていた。

 俺は彼に話しかける。


「来るのに1日かかると言っていませんでしたか?」

「僕の知り合いがいる町のピンチなんだ、誰だって飛んでくるさ」


 あれほどの魔力を使用したあとなのに息切れひとつしていない。

 むしろ戦場を静かに見つめている。

 俺は今、目の前にいる最強の底知れなさを実感する。


「急げばすぐ来れると教えてもらえれば、もう少しどうにかなったかもしれないのに」

「それは、申し訳なかった」


 彼は冒険者達の死体を見てなぜか悲しい顔をする。

 大切なものを失った、そんな顔だ。

 彼は戦いの中で死んだのに、そんな顔をするとは不思議だ。

 

「ミリア君はいるか」

「彼女ならその死体の中に転がってますよ」


 彼は私が答えた瞬間、絶望を味わったような顔をする。

 知り合いがモノになっただけなのに、相変わらず変わった人だなと思う。

 

 彼が一瞬だけ私の方を見る。

 そしてすぐ、向こうを向いてしまう。

 

「少し、休憩して来る」

「移動疲れなら、寝るのが一番ですよ」

「ああ、ありがとう」


 彼は私に背中を見せながら去って行く。

 いつも通りのはずの彼から発せられた言葉は、不思議と少し悲しそうだった。

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