第6話 ダ・カーポ

 転生、それは現代的陰キャなら誰もが夢見る現象だ。

 強くて楽しいニューゲームで、ハーレムつくって、チート無双して、俺つえーして、ハッピーエンドを迎える。

 きっと誰もがそう考えただろう。

 …ん?なんか既視感があるな。

 まぁいいだろう。


 俺もこれが夢じゃないと気づいた時はそうだと思った。

 チートして、無双して、ハーレムできると思った。

 俺つえーできると思った。

 でも現実は違った。


「GYAOOOOOOOOOOOOOOOO」


 ティラノサウルスもどきみたいなのが俺に向かって吠えてくる。

 これが現実である。

 …うん、終わったな、これ。

 とても短い人生だった。

 なんか階段で足を踏み外して無様な死に方をしたと思ったら、なんか洞窟の中にいた。 助けを呼ぼうとしたらそもそも声が出なかった。

 移動しようとしたら足が爬虫類みたいになってて超歩きづらかった。

 それでも頑張って歩いてたんだけどふと水溜りを見たら竜になってた。

 

 竜、というかドラゴン。

 大きな翼と歩きづらそうな足、バランスを取るのに適した細くしなやかで先にヒレみたいなものがついた尾。

 ポケ◯ンをやり込んだ俺からすると明らかに「飛行、竜」タイプのあいつ、要するにワイバーンみたいに見える。

 というか、多分合っていると思う。

 なぜならここに証拠があるからだ。


 「種族名:ワイバーン」


 俺の視界の右下にある三つのゲージとその上にあるコレ。

 「ゲーム世界に転生しちゃった!てへぺろ!」ってやつだということだろう。

 そして俺は考える。

 あれ、俺、敵モブなんじゃね?

 俺ワイバーンってことは、狩られるんじゃね?

 RPGかと思ったら、狩猟アクションだったのか?

 全身の震えが止まらない。

 初めて自分を死へと手招きするものを感じたのだから当然だろう。

 死にたくない、死にたくない。

 さっき死んで目覚めたばっかりなのに死ぬとか嫌すぎる。

 じゃあやることは一つ。

 狩猟だ。


 というのも、こういうタイプのゲームだと大半は敵を倒すと強くなれる。

 要はレベル上げである。

 幸いなことに見た感じだとモンスターはたくさんいた。

 しかもRPG序盤の雑魚と呼ばれる魔物たちである。

 スライム、ゴブリン、大蝙蝠、ゴブリン、オークに毒蜘蛛。

 たくさん倒したよ、それはもうたくさん。

 最初は翼を使って飛ぶとか考えられなかったけど、なんだかんだでできるようになったからよかったよ。

 でもその結果がコレだよ。

 

「GYUOOOOOOOOO」


 ティラノサウルスもどきが俺の方に突進してくる。

 俺は小さい体を生かしながら避ける。

 回避技をを積んだわけでもないのに避けれるのマジサイコー。

 ちなみに、今の俺は体のサイズでいうと、鳶ぐらいしかない。

 しかも、飛ぶのに特化しているパターンが多い「ワイバーン」である。

 避けるのは簡単じゃあないが集中すれば安定する。

 だが………手詰まりだ。


 今の俺の攻撃手段は3つしか無い。

・足の爪で引っ掻く

・翼で叩く

・噛み付く

・すごいビーム new!

 以上だ。

 そしてそれらはこのティラノサウルスもどきには通用しないのだ。


ん?すごいビーム?new?​どうい​うことだ?

 ん?どういうことだって、どういうことだ?


 何かこの技?があることに強烈な違和感がある。

 まるで、ないはずのものがあるような、空白のはずの場所が埋まっているような、そんな感覚だ。

 なんだかとても気持ち悪い。


 おかしいな、これじゃまるで‥…。

 いや何もおかしくなくないか?

 いやいやいや、なんだ今の。

 おかしいぞ俺。

 何か大切なことを忘れている気がする。

 思い出せ、思い出せ、思い出せ。

 なんだこの違和感は、なんなんだ!


 ………だめだ、思い出せない。

 おっと危ない、さっきから雑念が多いせいで回避行動が雑になっている。

 非常に良くない。

 一旦このことは忘れて今に集中しよう。

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