監査(薬局のほうです)
@J2130
第1話 電話でのご連絡
「もしもし…、こちら東京都福祉保健局健康安全研究センター広域監視部連携薬局担当の△△といいます…」
6月の中旬になり、雨の日が続いていたころ、僕がとった電話からこんな声が響きました。
若い女性からの電話でした。
「はい…、いつもお世話になっております…」
なんだ…、不安しかない…。
「〇〇薬局様は地域連携薬局の認定をとられてますよね…」
*****
2021年の8月から施行されているのですが、将来薬局が目指すべき機能として国は二つの形態あげました。
ひとつは地域連携薬局。
これは薬局も積極的に地域にかかわり、外来患者だけでなく他の薬局も含めた医療機関と密接に連携をとり、今以上に地域の人たちの健康に貢献して欲しいとのことで、自治体が薬局の申請のもと認可するものです。
認可して頂くと、証書が送られ、薬局の店舗に貼ることができます。
この薬局は「地域連携薬局」と開示できるのです。
もうひとつは専門医療機関連携薬局というもので、がん等の専門的な薬学管理が必要な患者に対して、他の医療機関との密な連携を行いつつ、より高度な高い専門性が求められる特殊な調剤に対応できうる薬局であり、これも申請し認可してもらうものです。
どちらも調剤料の加算にいっさい関係ない、お金のとれないものですが、国は積極的に申請をうながしてきています。
うちの薬局は当然地域連携薬局を目指し、昨年認定されました。
大変な苦労がありましたが、ここでは省略します。
こういった政策が造られたのはおそらく、地域に必要とされないと、薬局も生き残れませんよ…との意味だと僕は解釈しています。
あと、国はお金がないので自治体だけでなく、薬局も地域医療に深く携わって欲しいのだと思うのです。本音はね。
我々の狙いとしては、将来は要件がもっと厳しくなるであろうから今のうちにとっておこうという意図もありました。
お金にならないものですが、そういったことでなく、実際に地域に貢献しているという自覚はあるので。
当薬局では学校薬剤師で2つの小学校を受け持ち、休日輪番の薬局に人を派遣し、ワクチンも配っていますし、地域の医療機関とも密接に情報交換もしています。
在宅医療にも積極的で医師と同行して薬を処方していますし、薬のお届けも頻繁にしています。
創業から80年の薬局ですので親子孫の3代で来局されている患者様もいらっしゃいます。
規定ができるはるか以前から”街の薬局”だと思うのです。
*****
「お忙しいところ申し訳ありませんが…、監査にうかがいたいのですが…」
監査…
監査か…
「忙しいですよね…、すいません…」
この地域連携薬局の認可は実は1年ごとに更新となっています。
この6月から更新の受付をしており、妻と僕はまた資料を集めて準備をしていました。
そんな矢先でした。
まだ更新の資料を集めたばかりで手元にある。
印象を良くしておこう…
「監査…いつぐらいをご予定ですか…」
「あの…、7月1日ではどうでしょうか…?」
ほっとした感じで相手は応えました。
金曜日、あと2週間くらいある…
いけるか…?
「通常業務中なので、処方箋が途切れる13時から14時くらいならいいのですが…」
「いいですか…? それでしたらその時間にうかがいます…」
声がはずんでいる。
こちらはかなり落ち込んでますが…。
「ええ、駐車場ありますから車でいいですよ」
歓迎するつもりで…。
「あ…、バスで行きます…」
駅から徒歩0分なのに…バスでくるか…。
「わかりました、でも車でくる場合には教えてくださいね…」
ということで、監査でした。
先方様は非常に丁寧な対応でした。
我々も普段から卸さんやメーカーさんから情報収集しておりまして、この地域連携薬局、国が思っているほど申請が来ていないようなんです。
知り合いではやめるところもありました。
去年からの制度なのでまだまだなのでしょうね…。
国というか先方様は認定を増やしたいのだと思います。
本当に丁寧でした。
でも監査は嫌です。
もう今日まで心が重くて…。準備もあるし、さらに月末だし。
もう…!
*****
ここまで7月1日の夜に書いたのですが、気疲れがひどく寝てしまいました。
*****
「社長、7月1日、地域連携薬局の監査です…。いっしょにいて頂けますと非常に助かります」
「おおそうか!」
立ち合いをお願いしました。
義父である社長は、以前この区の薬剤師会会長でした。
その他にもいろいろと役職を務められ、石原都知事の感謝状やらなんやらが社長室には貼ってあります。
社長は不思議となにかのイベントのように嬉しそうです。
***
どきどきの監査当日。
電話を受けて以来、ずっと気持ちが沈んでいましたが今日で終わります。
14時近くになってから…
やって来ました。
若い女性とご年配の女性。
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