コックロビンは死んだ。
* * *
コックロビン(Cock Robin、こまどり)は死んだ。
* * *
ナギはあの戦闘を生き延びた。
死者を4名出して、戦闘不能、負傷者も多数。ナギも多数の中の1人であったが。そして、生き延びた事実を知ったのも戦闘後の話だった。
「大丈夫だった」
そう声をかけたの医療スタッフのミカだった。そして、ナギ自身はベットの上。
ナギにとっては彼女、ミカとは面識もあり、医療スタッフであることは分かっていた。ただ、ナギの記憶は戦闘中からこの場面に転換しているため、今の場所も状況が読み切れていない。
ただ、少しずつ頭で整理して、戦闘不能になっていた事実に辿り着いた。
「今は、まだ安静にしているといいわ」
その言葉とは裏腹にナギは現状を把握するためにコアを使い、ネットワークにリンクする。だが、いつもなら些細なことなのにどこか痛みを感じた。
そして、その情報からナギはある事実を口に出した。
「ミヤコは死んだ」
そう、あの戦闘でナギは気を失っている内に終了したが、その間も仲間達は必死に人類の敵、バカピックの大軍を相手にしていた。
実際、ナギが気を失ったのも善戦した結果であり、恥じるべき話ではない。
そして、その最中に4名が戦死。
それはネットワークの情報から引き出した事実。
「悪いけれど、確認までにこの戦闘で亡くなった4名の名前を言える」
ミカは酷な話をしたことは分かっている。だから、顔を暗くしている。それでもこれは確認しておきたいことだった。
そして、その事実はナギはたった、今知ったことだった。
「まずはミヤコ。次にケイティ、ヴェラ、そして……」
「もういいわ。辛いことを聞いて、ごめんなさい」
自分から聞いたことであっても、ミカは謝った。特にミヤコとナギは同期で、相部屋で暮らしている仲。それが自分の知らない内に死んだのであれば、落ち込むのも普通である。
それが少女達、ファミネイの定めであっても。
「ひとまず、コアの機能も使えているようね。一応、聞いて貴方は頭を怪我していた。そのため、体自体は動かすことも難しいはずよ。今の状態でコアを使えば、うまく制御はできないから、使用はしばらく避けてね」
とはいえ、戦闘要員のファミネイにとってコアは自身のすべてであるといえる。
コアの観測機器は五感であり、通信機能は口と耳、動力源は身体機能にも関わる。コアがあっての生活しか知らない彼女達にとってはコアの使用不可は体の機能を奪われたようなモノである。
「しばらくはベットでの寝たきりになるから、してほしいことがあれば、そこのボタンで知らせてね」
それはナースコールである。ようやく、ナギは自分が置かれている状況を完全に理解し始めた。
ここが医療施設であることに。
本調子なら、コアでできる行為も今ではボタンを押して知らせる必要がある。ナギにとって不便である。
とはいえ、その体もミカが言う通りで体はあまり自由に動かなかった。ボタンすら押すのは困難である。
今、ナギのコア機能の一部が使用不可となっている。ミカがそのように処置したのだ。
ここの医療スタッフは医療用スキルだけでなく、エンジニアのスキルが必要となる。戦闘要員のファミネイの治療がメインであり、彼女達には両方の特性を駆使しなければいけないからだ。
また、この医療施設は基本、戦闘要員のためのモノ。
他のファミネイも病気や怪我なら見てくるが、常に死に直結し、怪我は日常茶飯事の戦闘要員には、ここを利用する者は後が絶たない。少々のことは寝れば、大丈夫な普通の子にまで手が回らないからだ。
また、一部のメンテナンスでもここを利用される。だから、コアに繋がった少女達には医療知識とエンジニアで見なければ治療が行えない。
こうして、コアに制限をかけるのもエンジニアの能力、またその制限加減は医療知識でないと判断が付かない。
ナギは自由のきかない状況にひとまず寝ることにした。
* * *
ミカは現在の医療状況をハヤミへと報告に来ていた。
「ひとまず、先の戦闘での重負傷者はおおよそ回復となりました」
「そうか」
「特にナギは半分近く頭を吹き飛ばして、かなり生存は危ぶまれましたが、ひとまずは問題はなさそうです」
ナギは戦闘の最中、頭を吹き飛んでいた。即死もありえたが、幸運にも周りの援護と応急処置で命を取り留めた。頭が吹き飛んだ際もボディースーツの機能ですぐさま、保護と出血等の流失防止でテーピング処理されていた。
基地内に搬送されてからは、再生治療の大手術。とはいっても集中医療装置という装置によって自動で行われたのだが。
ただ、ナギの救出の際にミヤコは死亡、その他何名かは負傷、戦闘不能も1名出した。
この状況下でナギを見殺しする判断はハヤミは出さなかったし、周りもしなかった。その判断が正しかったか、間違っていたかは何も言わないでいる。
どちらにしても、この戦果は死者無しには成立しなかった事実はある。だから、酷なことだが議論した所でナギが死んだか、ミヤコが死んだか程度の差でしかない。
救出して、なおナギが死んでいれば、違った議論になっただろうが。
「これで周りも少しは気が楽になるだろう」
ハヤミはそう語る。ひとまず、戦闘による死亡者は4名までで済んだこと。救出した者達のどうであれ苦労が報われたこと。再度、酷ではあるが、ミヤコの死が無駄にならなかったこと。
それらの想いがこうして、1つの結果として残った。
「ただし、戦闘で問題なしの判断はできかねます。基本的には楽隠居をおすすめしますが、現状ではそれは厳しいことは把握してます」
楽隠居とは戦闘要員からの引退を意味する。楽隠居後は普通のファミネイ同様、人類の世話をする、命の危機がない平穏なモノになる。
だが、死者だけでなく戦闘不能も出しているだけに、今は多くの戦闘要員は欠員が出ている状態。
戦闘要員は72名という上限がある。
これ資源、生産能力などでコスト、戦力的にも余裕を持って維持できる数ではある。また、過剰な戦力が都市にとって危惧されている点もある。そのため、都市側が制限を設けた上限でもある。
「都市には戦闘後すぐに4名の補充は依頼しておいたから、そろそろ来る頃なのだが」
「あれから、もう2週間ですか」
上限の72名はあるものの予備はすぐさま用意できる体勢が取られている。
ただ、すぐ用意したファミネイは多少能力に見劣りがあるため、どのくらい時間をかけるかは緊急性でバランスを見ることになる。
通常であれば、2週間ほどでなら問題のないレベルとなる。
「ひとまずは使わないにしろ、今はナギを戦闘の頭数に入れるしかないな。この先、他の者も楽隠居させないといけない場合もあるからな」
「では、次はルイスの治療に入ります。代用を触媒にして再生治療を行いますので、比較的、早く回復すると思います」
ルイスも先の戦闘で戦闘不能になったが、幸い応急処置のみで事は足りていた。それでも両足首がなくなった、大怪我である。
他の重傷者で再生治療を行える集中医療装置で満杯だったため、この程度の怪我でもまだ軽傷扱いにされたルイスは後回しにされたのだった。
「この後はケアになるか」
「ええ、これから問題が出てくることになります」
「戦闘における恐怖心か。バカピックの恐ろしい所はあの外見、行動のユニークさで恐怖心が薄れること。数機で来る分にはまだいいが、こうして時たま、やってくる大規模戦闘で思い出させてくれる。奴らが軽蔑される馬鹿ではなく、単なる人類の敵、破壊者であることを」
このように死と常に隣り合わせの戦闘は日頃少ない。それでも、戦闘自体の大小の関係なく死のリスクは付きまとっているのだが。
だから、ファミネイ特有の軽い性格も、大規模戦闘を初体験すると陽気に振る舞っていても、影のある性格に変わることもある。そうなると戦闘では使いづらい。
下手をすれば、そういった理由から楽隠居となる。
「もっとも、戦いを知らない都市にとってはいまだバカピックは軽蔑される馬鹿でしかないのだがな」
都市は戦いの現状を知らない。それに消耗品であり、低コストなファミネイの犠牲で安全、安心が得られるのなら、安いモノとも考えている。
だから、懐の痛まない戦いであれば、人類の敵も軽蔑すべき存在で済んでしまう。
「とにかく、時間をかけて構わない。良い方向でケアを進めてくれ」
「分かりました。できるだけ、善処します。戦闘だけが仲間を支えることではないので」
ミカは自信を持って語った。これが自分達の本分だから。
* * *
ナギの回復は脅威的であった。
生存自体にしても、少し奇跡的だったのに、それが治療後、1ヶ月という期間で戦闘要員として復帰できるほどになるとは誰も考えていなかった。
しかも、負傷する前よりも能力も上昇している。
ただ、それは誰から見ても無理をしていることは分かっていた。自身の能力がただ死にかけたことで向上するなどあり得ない。
特に欠けていたモノが再生した復活劇では普通にリハビリが必要なだけである。
「確かにこの成績なら、基地には必要な存在だな」
ハヤミはナギを執務室へと呼び出していた。ハヤミの他には秘書であるシノも同席させている。
アキラに関しては適当な用事を言いつけ、席を外させている。
「だが、無理をしている以上、この成績であっても不要だ」
ハヤミは言い切った。その言葉にナギは暗い表情になる。
「とはいえ、それほど頑張る理由を聞こうか。それ次第では戦闘要員として続けることを認めよう」
その言葉は一応、ナギに対する配慮であるが、実際はその気はなかった。
下手な頑張りはいざという時に困ることになりやすい。また、損壊したことで肉体的に爆弾を抱えていることなど、実戦では命取りになりそうな要素だらけであるからだ。
とはいえ、頑張り自体は褒めないといけない。ファミネイにしては珍しいことでもあるし。
「ミヤコに会いたい」
ナギは迷いもなく、そう語った。
「それなら、のんびり過ごせば可能な話だぞ。頑張る理由にはなるまい」
ハヤミはそう語る。ナギもそれは分かっていた。シノもそれに関して、突っ込みを入れない。
ミヤコは死んでいるのだ。
「いいえ、私の望みは……」
ナギは一瞬、言葉に詰まったが、それでも想いをそのまま言葉にした。
「もう一度ミヤコと一緒に戦いたい」
ナギの発言にハヤミは少し頭を悩ませる。別に先ほどからとんちかんな発言している訳ではない。
「難しいが、無理ではない。だが、そのリスクは自分が良く分かっているだろう」
ハヤミのその言葉に、ナギは頷いて答えた。
「分かった。私の一存でできることだが一度、周りとも検討して返事をする」
ナギは表情を明るくさせるが、ハヤミはそこまで優しくない。
「だが、その望みは私が決断するのではない。あくまで私は本当に問題がないか確認するだけだ」
ここに来て、ハヤミの方がどう捉えていいか悩ませる発言であった。そして、その発言に対してこう続ける。
「問題なければ、お前がその決断をしろ。私はその実行を許可するだけだ」
「ということだ」
ハヤミは今度はミカとターニャを呼んでいる。
「よろしいのでしょうか。あまり、好ましくはありませんが」
医療スタッフ代表のミカにしてもこの対応。『ミヤコと一緒に戦いたい』に対する反応として。
「それは分かっている」
「とはいえ、無理に反対する理由はありません。急ぎの際はやむを得ませんから、今もそのときですから」
エンジニア部門担当のターニャもいたって冷静に答える。
「そういった側面でも、確かにこの望みは反対する気もない」
ミカとターニャはナギの望みに対して別々の意見を述べていた。それでもできないという意見はなかった。
「この望みを叶えることは容易だ。この場でも絶対的な反対意見はないのだから。1つ議論したいのはこの望みが良い方向であるかだ」
ハヤミは2人に対してそう語る。
「恐らく、それは不幸な結果になるかもしれない。だが、心残りがあるにしても安らかな余生が幸福な結末といわないかもしれない。ナギは前者を選んでいる。我々はその意見を元にどちらが良いか考えたい」
ハヤミがこの2人を呼んだのはその道に携わる者として、どうあるべきか聞く為であった。技術的な問題の有無は初めから分かったいた。問題ないと。
ただ、問題点は今からする議論にこそがある。
「あの少年にはこの件は話しているのですか」
ミカが語ったことに、ターニャもうなずきで相打ちをする。
「いや、話していない。自分のコマに専念しろとだけ伝えている」
「それでよろしいかと。あの子ら皆、新人ですから、無傷でもケアは重要です。それに周りの余計なことまでとなれば、負担は多いでしょうから」
ミカはそう言うと黙り込んだ。
「で、意見は」
「結論の出るはずのない議論ですので、言葉にして話し合っても余計に迷うだけと思います。素直に今の思いだけで決めるのが良いと思います」
ターニャはそう意見を述べた。その方が手短で終わる意図もあった。
確かに、とハヤミも手短で迷いなく進められると、その意見を判断する。
「では、賛成か反対のみの意見を聞こうか」
少しの間を置いて、お互い、意見を言い合う。
「私は反対です」
ミカは初めの意見を変えていない。
「反対はしませんので、賛成です」
ターニャも同様。意見は変えていない。
「私も反対はしない。ゆえに賛成だ」
ハヤミはそう答える。そして、結論は出た。
「決断はナギに委ねている。この場ではミヤコの早期蘇生を問題なしと判断する」
そう語り、この場の議論は終えた。
* * *
少しの時間を経て、ミヤコは帰ってきた。
ファミネイは人工生命体である。それは死んだとしても、同じモノを作り出すことは可能である。記憶もコアにバックアップされている。だから、死んでもすぐさま復活することも可能である。
ただし、ハヤミらがそれに関して議論するほど、全く問題がないわけではない。
1つは同じモノであること。つまり何も知らない新人ではなく、酸いも甘いもかみ分けたベテランを作ることになる。
ただ、これは成長性を犠牲にする。カレンらの新人のような成長の可能性をなくなるため、デメリットとなる。ただ、急ぎの補充としては戦力の現状維持となるため、この点はメリットとなる。
「寝ている所、無理をいって済まない」
執務室でミヤコの帰還を迎えていた。
「いえ、構いません」
「まあ、コア内とはいえ確認はしていたから、極端に無理は言ってはいないがな」
ハヤミはそんな軽口を言うが、実際にコア内の記憶は人格も含まれており、それと会話することも可能。そして、その際の記憶も残すこともできる。
「自身らを初めとする補充はすぐに完了したが、その後の負傷者のケアで楽隠居となった者がいるため、早々の復帰となったことは詫びておこう」
負傷者の中には回復しても戦闘には無理と判断された者、精神的な負荷で戦闘が困難と判断された者達が楽隠居となった。その補充で早期蘇生したミヤコがこうしてやってきた。
そもそもの補充には自身の欠員という内容もあったのだが。
「まあ、その辺の詳細は後で話そう。ひとまず、聞いているように今回の帰還を望んだ者もいる。すでに呼んでいるから、再会を喜んでくれ」
その言葉でナギは執務室へ入ってくる。そして、ミヤコの前に立ち、こう語った。
「お帰り、ミヤコ」
ナギにとってミヤコの長い黒髪は好きだった。小さな黒い目も好きだ。そして、小さく、丸いスタイルを本人は気にしていたが、ナギは嫌いではなかった。
だけれど、今のミヤコはあの黒髪は短くなっている。顔立ちもすらっとして違っている。印象はかなり違っている。
それでもミヤコといえる部分があれば、それはナギにとってミヤコだ。
「記憶内では確認できているわ。一応、初めまして、ミヤコです」
ミヤコはまるで初めて出会ったようにナギに対して、そう挨拶した。それはまるで別人の物言いだった。
いや、本来は別人が正しいのだ。たとえ、同じモノを作り出しても、誤差がある。それに今回は全く同じに作られていない。
そして、性格は後天的に決まる。それは記憶をそのまま入れたとしても、それを処理するため、頭脳は必ずしも同じと処理しない。
それはたとえるなら同じ芸術作品や映像作品などを見て、皆が共通の感想を抱けないことと同じである。
ミヤコと呼べる部分はあっても、もはやそれをミヤコと呼んでいいのだろうか。
その考えがまとまらないまま、ナギは語り始める。
「ああ、自分がショックだったのだ。ミヤコは死んだんだ。この世から去ったんだ。その肉体はなくなり、記憶だけがコアの中へと行った。コアの記憶は『亡きミヤコ』。本当の存在は眠りについている。でも、記憶を無理矢理起こさなきゃ、今頃まだコアの中で昼寝をしているだけなんだ。ミヤコはしばしの眠りの後、目覚めるはずだったんだ。これは『元ミヤコ』だ」
本来であれば、コアにあるミヤコの記憶、肉体的情報を元に1から肉体を作り出すことで始めて蘇生として成り立つ。
だが、今回は急ぎだったため、予備で控えてある素体にミヤコの記憶を入れたモノ。
それでも、外見の髪色や色素などを初めとする遺伝的に近い肉体を選択して、極力、元との差がないようには配慮されていた。それは記憶が肉体と相反することで様々な障害になりかねないからだ。
障害となった場合は調整されることになる。その場合は記憶の調整がメインで行われる。
今回は調整まで行かなかったが、ミヤコの記憶だけを持つ『元ミヤコ』になった。
それはナギも理解しており、ハヤミの問題ない判断からナギ自身が決断したこと。だから、この結果には後悔していない。
そうでなければ、望みは叶わなかったからだ。
「ナギ……」
この様子にミヤコ自身は、どんなふうに接すればいいか分からなくなった。なまじ記憶ではナギという存在を知っているからだ。しかし、自身は初めて会う感覚、それ自体も混乱をもたらしている。
そして、端から見ているハヤミはあまり気にしていない。
ハヤミ自身の経験ではよくあることだからだ。
ナギはミヤコに会いたいだけではないのだ。以前、語ったように再び、ミヤコと一緒に戦いたい。それはあの戦闘で自分を守って、逆に死んだミヤコを今度は助けるために。
それは戦闘要員で居続ければならない。そして、前よりも強くなければならない。
戦闘要員をやめて、ただのファミネイとして楽隠居をすれば、同じミヤコと再び会えたかもしれない。
しかし、それはただ出会えるだけ。その出会いに何の意味があるのだろうか。
ナギは自分達はどうであれ、人類の敵と戦うために存在していると考えている。たとえ、ミヤコに再会しても、一緒に戦えないのなら、ナギには意味がない。
むしろ、自分の存在を否定するだけの行為である。だから、この結果であっても、十分なのだ。
「ああ、良かった。どうであれ、また一緒に戦える。たとえ、ミヤコでなくともミヤコだから」
ナギは倒れ込んだ。
元々、脳が半分吹き飛んでいた。記憶と体を司る存在が欠けて、それは自身の体で再生したとしても、それを昨日までの自分と同じであったといえるのだろうか。
自身さえも『元ミヤコ』と同じで、『元ナギ』に近い状態だった。
それでも、それを支えていた部分はコア内に潜ましていたミヤコへの強い記憶だった。いや、壊れかかっていた部分を補強しているだけで、その補強も今では頼りない。
そして、無理をしてコアを使い、自身を強化していたことも支えであり、ただの負担でしかなかった。元から、ナギは身も心もボロボロであった。
それが今、倒れたことで明確な形に表れただけだ。
「……ナギ」
そんなナギにこんなミヤコは近づく。性格は別人であっても、仲間を思う気持ちは変わっていない。あのときだってどうであれ、その思いで動いていた。
「ミヤコ。心配しないで、まだやれるから」
ナギは無理に起き上がろうとする。
「もういいだろう」
それまで、ただ様子を見ていたハヤミは言葉を語った。
「無理をしすぎだ。お前も休め」
それは戦闘要員からの引退を言われたのだった。
* * *
ナギは戦闘要員から引退となった。その象徴たる体に付けられたコアを外されたことで。
本来なら、ただのファミネイとして、人類のために働き、余生をのんびりと過ごすのだが、いろいろと無理した反動で、ナギは小さいながらもコア無しでは生きられない体となっていた。
そんな特例の体は都市で楽隠居ともいかず、今は基地の医療スタッフとして、戦場を後方から支える仕事をしている。それは奇しくもナギが望んだことであった。
少しだけ、違っているだけで。
今日も基地内に戦闘を知らせる警報が鳴り響く。
少女達は哀れなコマドリではない。
空もなければ、自分達以外に泣いてくれる者もない。ただ、ため息ぐらいは出してくれるだろうが。死んだ所で死んだ小鳥でしかない。
かごの中の鳥ではないのだから、誰かに殺されることもあるのだから、少女達は戦う。
爆音の鳴り響かせた、空の下で。
(初出掲載 2019年4月)
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