第23話 精霊たちとの接し方

「よーし、いくぞ……」


「がんばるのねん」


 胡坐をかいて気合を入れると、かえでが定位置の肩に座って応援してくれる。

 今度は目を開いたまま、ゆっくりと魔力を循環させて目に持ってくる。なんとなく遠くがよく見えるようになると同時に、視界にいろいろなものが映り込むようになってくる。


 丸くてぷにぷにしそうなやつ、四角い石みたいなやつ、葉っぱみたいに薄いやつ、土で適当に捏ねた塊みたいなやつなど様々だ。

 それらが一斉に私に注目している。目らしきものがついていないやつのほうが多いけど、なぜかわかった。わかってしまった。


「うわぁ!」


 そして私に向かって一斉に押し寄せたところで、集中が切れて目に集めていた魔力が霧散する。視界が元に戻るけどちょっと心臓がドキドキしていた。

 覚悟はしてたけど、ちょっと慣れるまで時間がかかりそうだ。


「みんな、慌てたらダメなのねん。アイリスちゃんがびっくりするのねん」


 かえでがみんなを宥めてくれているけど、果たしてどれほど効果があるか。

 もう一度気を取り直して目に魔力を集めていく。

 徐々にいろいろな下位精霊が視界に映るが、今度はなんとか留まってくれているようである。といってもじりじりと近づいてる気もするけど、気のせいだと思っておこう。


<無魔術スキルがレベル1からレベル2に上がりました>


「へっ?」


 想定外の神の声に、またもや魔力の集中が切れる。


「うふふ、また失敗しちゃったのねん。がんばるのねん」


 かえでが励ましてくれるけど、今回のはちょっと違うのだ。


「無魔術がレベル2になったぞ……。使えるようになったわけじゃないのに……」


『視力強化も立派な無魔術だ』


「そうなんだ?」


 さすが物知りキースだ。こういう時には役に立つね。


『五感の強化系魔術はあまりメジャーな魔術ではないからな』


「なるほど。魔力循環で耳とか鼻がよくなったのも気のせいじゃなかったんだ」


『そうなる。魔力循環には必要なかったとはいえ、無駄にはなっていない』


「じゃあ視力強化できる人はみんな精霊が見えるの?」


『いや、それはなかったようだな。精霊視は各々でやり方が違うと聞く。心で見ると言われるが、私には人の心の機微はわからない』


「ふーん」


 結局よくわからないということか。でもきっかけになったんだからよしとしよう。

 とりあえず今は、他の精霊がちゃんと見えるようにがんばるか。精霊魔術を使えるようにするのが第一目標だったけど、嬉しそうにする精霊たちを放置して魔力循環を進めるのもなんだかね……。

 こうしてこの日は、いろいろと邪魔をされても精霊視が継続できるように練習を続けた。



 二、三日もすれば、日常生活を送りながらずっと精霊視を発動させることができるようになった。結局会話ができる精霊はかえで以外にはいなかったけど、精霊たちの仕草からなんとなく伝えたいことがあるのはわかる。

 それを読み解くのは難しいけど……。


『そうやって一人で難しい顔をしたりブツブツ言ってると危ない人物に見えるな』


「……しょうがないだろ」


 下位精霊は好奇心が旺盛だ。いろんな精霊が入れ替わりでやってくるし、何かを訴えかけてきたりする。


「うふふ、基本的には他愛のない内容だから、無視してもらってもかまわないのねん」


「そう言われてもなぁ……」


 悪意なく話しかけてきてくれる子たちを無視するなんて、私にはできないのだ。王宮では気の休まる時間はほぼなく、悪意に満ち溢れていたからその反動なのかもしれない。


 それともう一つ気付いたことがある。

 シュネーとスノウには、下位精霊が見えている節があるということだ。たまに視線が向くし、何かやり取りしているように見えることがある。今までそれを感じさせなかったってことは、私の目指す先はあの親子なんだろう。

 今でも下位精霊がシュネーやスノウに何かを訴えかけているように見えるけど、二匹ともガン無視を決めているのだ。


「うう……、すごく良心が痛む……」


 まさか精霊魔術にこんな試練があるとは思ってなかった。こんな調子だと人里に出たときに変な人扱いされそうだ。


「……ん?」


 そのとき、熱心に私の手にまとわりつく精霊を発見する。黒いもやみたいな不定形をした精霊だ。そういえば昨日も手にくっついてた気がするな。その時その時で近くにいる精霊は変わるけど、この子だけはずっといるような?


 顔の前に手を持ってきて、その精霊を観察する。いったい何がしたいんだろうか。私の手に張り付いて、何かを引っ張る仕草をしているように見える。ちょっと気になったのでしばらく観察していると、不意に自分の中の魔力が動いていることに気が付いた。


「えっ」


 ほんの些細な動きだけど、精霊の動きに連動しているようにも見える。


「もしかして、あたしの魔力循環を手伝ってくれてるの?」


 今度は自分の中にある魔力を意識してみることにする。確かに、手のひらの上にいる精霊の動きに連動しているように感じる。

 この動きに合わせて魔力を動かしてみると、なんとなくいつもより動かしやすい。まだできなかった肩から先へ魔力を移動させようと試してみると、いつもの限界まですんなり動かすことができた。


「……すごいすごい!」


 こんな精霊もいるんだ……。魔力循環を手伝ってくれる精霊ってなんだろう? 種類もたくさんあるらしいし、深く考えなくてもいいかな。

 私が喜んだことに気をよくしたのか、黒いもやの精霊も心なしか嬉しそうに見えた。

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