第19話 精霊視
相変わらず食だけが豊かになっていく現実に若干頭を抱えていた。体力も力もないからしょうがないのかもしれないけれど、何とかしたいものはなんとかしたいのだ。
「うーん」
そういえば前回、精霊魔術で何ができるか漠然と聞いただけだったけど、ずばっと聞いてみるのもありかもしれないな。
周囲を見回してみるけど、今日はかえでの姿を見ていない。ここ数日は私にべったりだったのに。
「かえで? 近くにいる?」
「呼んだのねん?」
呼びかけたら来るかなと思っていると、頭上から声がした。
「おわぁっ!?」
いきなり視界の中に現れたかえでに変な声が出てしまう。頭の上でぐでーっとうつ伏せになっているらしく、上下逆になった首が目の前に現れれば誰でも驚くと思う。
「ずっとそこにいたの?」
「そうよん。アイリスの側は居心地がいいのねん」
だらけきった顔でそう言われるとものすごく説得力があります。
『寝ている時のアイリスの顔といい勝負だな』
「そうなんだ……。まぁいいや。もしかして木の精霊魔術をつかえば、家みたいな建物ってつくれたりしないかなぁと思って」
「できなくはないのねん。魔力をいっぱいもらえれば、できると思うのねん」
かえでの答えを聞いた瞬間に目の前が明るくなる。
「ホントに!?」
「うふふ、魔力をもらえればボクもがんばっちゃうのねん」
これは意地でも木の精霊魔術を使えるようにならなければならないようだ。家とまでは言わなくても、最低限壁と屋根があればいい。
「わかった、ありがとう! 精霊魔術で、いえが作れる!」
『壁と屋根か。それくらい作れるようになるには、最低限精霊魔術はレベル4くらいいりそうだな』
「うっ……」
具体的なレベルを告げられると、その道のりの遠さに気分が落ち込んでくる。剣術スキルをレベル2にするのに二十年以上かかった私には、その険しさすらわからないくらいだ。
「だけど、ここで諦めるわけには、いかない」
心折れずに力強く宣言すると拳を握り締める。
『本来は精霊が見えるようになって精霊魔術のスキルを取得するんだがな』
「え? じゃあ精霊魔術を使うには、精霊が見えるようにならないとダメってこと?」
『もちろんそうだが、かえでだけは例外だろう。他の精霊に魔力を渡して精霊魔術を使うのであれば必要だが』
「じゃあ、魔力をわたせるように練習するのはだいじょうぶってことだね」
やりたいことは、住環境を整えることと、森を歩きやすくすることなのだ。他の精霊は一旦後回しでいいだろう。
「うふふ、いっぱい集まってる精霊たちが、僕たちにも魔力をくれればがんばるよって言ってるのねん」
「ええっ、そう言ってもらえると嬉しいけど……」
かえでの言葉に戸惑いつつも周囲を見回してみる。が、相変わらず何も見えないままだ。期待されれば頑張りたい気持ちにはなってくるけど、いかんせん見えないので実感が湧いてこない。
「どうやったら見えるようになるの?」
「それはボクも知らないのねん」
ですよねー。精霊が精霊のことを見れないはずもないし、どうやって見ているかなんて当たり前のことすぎて説明できなさそうだ。
『精霊の姿をイメージすると、似た姿をした精霊は探しやすいとは聞いたな』
「イメージって……、どんな姿してるかしらないんだけど」
『精霊の姿は千差万別だからな。最初は丸や四角でいいんじゃないか』
キースが適当なことを言ってる。かえでがふよふよと移動すると、そこにあった何かを拾い上げる仕草をして両手を差し出してきた。
「この子は丸い形をしているのねん。ぷにぷにしてて柔らかいのねん」
「うーん……」
と言われても、両手の中を凝視しても何も見えない。丸くてぷにぷにしてるって、スライムみたいな精霊なのかな。
「どんな色してるかわかる?」
「水色なのねん。向こう側がちょっとだけ透けて見えて、たまに青くなったりするのねん」
かえでの言葉で頭の中のイメージを少しずつ固めていく。
「目とか鼻とか口みたいなのはついてる?」
「えーっと……なのねん」
次の質問をすると、手の中のスライム精霊を持ち換えたりひっくり返したりして確認してくれている。
「ついてないのねん」
「そ、そうなんだ……」
他にもあれこれ質問してみるけれど、結局精霊が見えるようになることはなかった。
「えー、がんばったんだけどなぁ」
「うふふ。がんばりは他の精霊にも伝わったのねん。みんなアイリスちゃんが大好きになったみたいなのねん」
「あ、うん……、ありがと……」
急に大好きとか言われるとすごく照れる。
「もちろんボクもなのねん」
かえではそう言葉にすると、私の肩に座ってぎゅーっと抱き着いてきた。
体温が急上昇してくる感覚があるけど悪い気はしない。
会ったばっかりの木の精霊だけど、久しぶりに温かい気持ちになれた気がする。もちろんシュネーやスノウも同じだけど、話ができる相手っていうのは大事だ。
王宮に残っている騎士のウォルターや、私の専属侍女だったレイラは元気にしてるだろうかとふと思い出した。
『もちろん私もアイリスのことが大好きだぞ』
そんな温かい気持ちになっていたところで、どこからか無機質な声が響く。
瞬間的に気持ちが萎えていくが、やっぱり例外はあるんだなと気づかされる。人でなしの球体はどうやら好きになれそうになかった。
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