51.雨に吠える

 炎に変わって黒い、汚い煙が視界を塗りつぶしていく。

 雨でも、なかなか消えていかない。

 そのはしの熱でゆらめく空気の先に。

 あの黒い大蛇をあやつる、恐ろしい存在がいる。

 ・・・・・・やっぱり、あれ破滅の鎧。だよね。

 1、2、3人いる。

 はーちゃんと違うところもある。

 あの木の色で全身からピン! とはねた、角のようなものが無い。

 溶かされて貼り付けられた、こん棒が。

 地面に転がってるのは、果てしなくプレーンな、黒い円筒形を組み合わせて作られてる。

 サイズも人間、ドラム缶怪人と言っても通ずるような姿。

 それともう1つ。

 背中から3本、太い棒が背負われてる。

(こん棒だ)

 いらだちながら、そう確信した。


『大きいバケモノが! まだ動いてる!』

 みつきが怒鳴った。


 煙の中から黒い大蛇が現れる。

 あの3人を失った分、小さくなってはいるけど。

 こん棒は失っても、あきらめてないんだ!

 倒れた破滅の鎧を、助けに来たんだ!


 恐いけど、体は、こわばってない。

 とにかく、次の戦いを組み立てないと! 


 破滅の鎧たちが、ヨロヨロ立ち上がる。

 その時、入り口から地面すれすれに、黒い光が飛んだ。

 エニシング・キュア・キャプチャー!

 たちまち破滅の鎧は、丸く黒い魔法炎の中に閉じ込められた。

 もう、はしご車たちはいない。


 4機のロボット、北辰が青いキツネの姿でにらみつけてる。

 ルイン・バードさんがそれにつづいた。

 軍隊なら歩兵に当たるハンターキラーがさらにつづいてくる。

 軍隊よりはカジュアル、カラフルなのもあるアーマーに、銃や剣と魔法で武装して。

 このつづいたハンターキラーたちが、キャプチャーを使ったんだ。

 とらわれた破滅の鎧は、素早くハンターキラーたちのもとへ飛んでいく。

 やった!

 みごと捕まえた!

 

 大蛇は、あきらめなかった。

 捕まった破滅の鎧を追う!

『捕まえた3人を逃がしちゃだめだよ! 』

 パーフェクト朱墨が、立ちはだかった。

 青い竜の背中からは、白い天使の羽が左右に3対、合計6枚はえてる。

 あの羽の資料なら見たよ。

 アーリンくんが持ってきた。

 広い可動域をもつ、あらゆるエネルギーの向きを変えるの。

『モード風炎に入ります!』 

 アーリンくんの声と同時に、全ての羽を体の前に広げる。

 朱墨ちゃんに与えられた、新たな防護壁。

 降りしきる雨が、上下左右に開いた羽にそって向きを変えられる。

 消防車の放水より速く飛び散る!


 私たちは。

「ハンターキラーたちを巻き込むわけにはいかない!

 イカクシャゲキのみ、許可する! 」

 変な発音になった気がした。

 本当なら威嚇射撃。

 ウイークエンダーの手は、変になってない。

 良かった。

 袖口に当たる部分から手のひらに、スッポリおさまるドラム缶のような物が転がりでる。

 音響閃光手榴弾。スタングレネードってやつ。

 それをなげつけた!

 この特大手りゅう弾は、1度大蛇の頭にぶつかり、はねた。

 破滅の鎧を迎えに行こうとした先っぽを頭とするなら。

 はねた直後、猛烈な爆発太陽のような音と光を放つ。

 相手がレーダーを使うこともある。

 そんな時のために、電波を乱反射させるアルミの欠片も同時にまきちらす!


『了解。威嚇射撃をはじめる! 」

 ブロッサムの左肩にコンテナがのっかった。

 ほとんど1秒に一発、砲弾が飛びだした。

 76ミリ砲が1分間に55発、連射されてるんだよ。 

 ドロが吹き飛び穴を空ける。

 大蛇に付いていくように。


 破滅の鎧を捕らえ、訓練場の出口に逃げる北辰たち。

 威嚇に怯みもせず、追う黒い大蛇。

 パーフェクト朱墨にぶつかった。

 大蛇は、ぶつかった勢いはそのままに、右へガクッ! と折れ曲がった。

 パーフェクト朱墨は無傷で立ち続ける。

 

 慌てたように立ち止まる大蛇。

 その後ろでディメイションがドーンと大きく足踏みをする。

 黒い大蛇の動きが止まった。

 アイツにとっても、怖い光景なんだろうね。

 だけど、しのぶもみつきも、優しくてかわいい、私の妹と弟なんだよ。


 大蛇は、あきらめたみたい。

 煙の中へ丸まるように後退した。

 煙が流れて薄くなっていく。

 そこには、彼らが開けた縦長のポルタが。

『逃げられる! 』

 みつきがそう言って、追いかける。

 朱墨ちゃんも。

「追っちゃダメ! 」

 私はあわてて叫んだ。

「ポルタに、次元に裂け目を作られてぶつけられたら? 切れないものなんか存在しないんだよ」

 そう言われて、ディメイションとパーフェクト朱墨は立ち止まった。

 大蛇が、ポルタに入っていく。

 あわてて震えてるように見えた。

 最後にポルタは、細くなって朽ちるように消えていった。

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