42.豪雨でも前へ

 大雨で荒れたデツカイ川をさかのぼる。

 巨大ロボットでもキツいね。

 でも、私たちの訓練に雨天延期はないよ。

 こういう時の災害こそ、私たちが備えるべきことだから。

 やれるかやれないかじゃない。

 やるんだ!

 それでも前を歩くディメンションのペース、遅くなってる。

 あっちの歩みもキツそう。

 これからもうひとつ、しゃがんで橋をくぐるの。

 弟のみつきが操るその姿は、身長50メートルまで拡大したゾウにそっくり。

 背中にウイークエンダーのスカートと同じものを6枚、付けたのをのぞけばね。

 目立つから雨でも見失わないのは、助かった。

 ハテノ市に似てるね。

 左を見れば住宅地。

 田んぼや畑と郊外の大型店がまじってる。

 右は人口密度0そうな林。

 杉の木々の端、川辺に道路がのびて、橋からのびる道に合流する。だけに見えるけど。

 山から下りてくるよ。ハンターキラーの大群が。

 この山の中をくりぬいて、朱墨ちゃんが率いるホクシン・フォクシスは基地を作ったの。

「ほら、山の上。

 パーフェクト朱墨がいるよ」

「あっ! ほんとだ! 」

 見まもっている。

 白い、グロス感さえ持つ左右3対の羽根。

 背中、肩、腰を完全に包んでる姿は、ドレスっぽささえある。

 イメチェンしてるね。

 鋭さをもつドラゴン型の姿はそのままだけど、赤い“血のような”と恐れられそうな塗装は塗り替えられてる。

 鮮やかな青。

 朱墨ちゃんの好きな色なら、そうなんだろう。

 でも、もしかしたら私がそう想ってるからだけかもしれないけど・・・・・・。

 この大雨の中だとくすんで見える。

 これからの運命に青ざめているように。


 車列は山から下りると、私たちのくぐった橋をわたっていく。

「はーちゃん、右の山から下りてくる車たちについて教えて」

 安菜が聴いた。

 おっと、それは長くなるぞ。

「長くなりそうですが、よろしいですか?」

 はーちゃんも同じこと考えてたのか。

 私はかまわないよ。

「そう?

 はーちゃん、はい。

 私たちが会話しても、そのままつづけてね」

「わかりました。

 指定された車はすべて、宇宙から送られたロボットです。

 先頭にいるキツネ型は北辰(ホクシン)。

 この百万山地域を守護する、ホクシン・フォクシスの主力機です」

 白くすばやい、たよれる仲間は路面を走るとき6輪のタイヤ形態になる。

 前足のつけね、肩や腰の横にタイヤがあるの。

 百万山の頂上ちかくで一緒に戦ったとき、北辰たちは17メートルあった。

 今はしっぽをたたんで首や胴体の間接を縮めてる。

 長さが12メートルほどになってる。

 大型トラックと同じくらい。

「あの車たち、上品に手足をたたんでるね」

 さすが安菜。

 移動のための変形を、上品にとは。

 3台がわたる。

 次に、茶色いライオン型。

「ライオン型は、飛輪(ひりん)。

 ホクシンよりもパワーを重視しています」

 次は赤いゴリラ頭。

 ヒリンよりもでっかい。

「ゴリラ型は、赤星(アカホシ)。 

 建物の建設なども行える工作車です」

 はーちゃんて良い声だよね。

「大人の声、イバらない、イアツカンがない。

 良いことづくめだよね。

 どれだけでも聴いていられるって言うか」

 たしかに、安菜の好みだったね。

 動画の声優にほしいね。

 次は、付きだした黄色い巨大なアゴ。

 肉食恐竜のもいるよ。

 全長は20メートル。

「ティラノサウルス型は、填星(テンセイ)。

 パワーでは最大でしょう」

 緑色のウシ。

 角が大きくて、背中から2門の大口径砲をのせてる。

「ウシ型は、雲漢(ウンカン)です。

 光よりも早く飛ぶタキオンを放つタキオンブラスターガンと、プラズマと質量弾を併用するマルチキャノンをあわせ持ちます」

 長い説明に、へばらない。

 これが安菜の良いところ。

 青い恐竜、トリケラトプス型が通った。

 首の後ろに巨大なフリルが広がり、おでこから2本のドリル、鼻先から1本の大砲を付きだす。

「トリケラトプス型は、流星(リュウセイ)。

 首回りのフリルはビームシールドで、部隊ごと守ります」

 まだまだ車は下りてくるけど。

 ねえ、うさぎ。と呼ばれた。

「あんなロボットを地球で作ろうとしても、無理なんだってね」

 おや、安菜の声が真剣な、いらだちをおびている?

「そうだよ。

 どれもリパルサードライブ、重力制御で転ばない。

 ここは日本でも数少ない宇宙製ロボットの整備工場でもあるから」

 

 その時に、通信がきたの。

『ディメンション・フルムーン。

 これより離陸して演習エリアに入ります』

 ほら、ディメンションが。

 ウイークエンダーの何倍もの風で川の水を巻き上げ、浮かんだ。

 装甲にはばまれて音は聞こえないけど、風にあおられてグラグラする。

 さて、つぎは私だね。

 しばらく話しかけないでね。

「あいよ」

「はい」

 再び、翼でもあるスカートを手で支える。

 スリットから風が飛びだして私たちを浮かべる。

 ディメンションを追いかけるんだ。

 足の下は川から雑木林に変わる。

 木々がビュンビュン風にあおられていく。

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