30.見据えたい場所へ行きたい

「だいたい分かるよ」

 朱墨ちゃんがひきついだ。

「昨日から徹夜で作業してたでしょ。

 パーフェクト朱墨を私向きにするために。

 その力を示すために、出撃したんだ。 

 まあ、貴族は自分で考えるのがお仕事だから、君たちの世界では真っ当だと思うけど」

 分かってたんだ。

 おだやかなその表情からは、ムダに攻めようという気はないみたい。

「違うんです」

 え?

「結局あの船、ファイドリティ・ペネトレーターと言いましたね。

 あれは海を航行するだけで帰ってきましたが、僕は大陸へ行くものと思っていました。

 僕は、大陸が見てみたかったのです」

 頭が働ない。

 恐怖という詰め物で、脳細胞が動かなくなったみたい。

 体も動かない。

 一瞬で店の空気が冷えて、凍り付いたみたいに。

「あんた正気!?」

 ガタッ! とイスが弾き飛ばされた。

 朱墨ちゃん?

 同時に、コブシが頭上に高く上がる。

 アーリンくんに振り落す気だ!

 でもコブシは、別の手で止められた。

 バシッ! と、肉を打つ音とともに。

「痛っッ」

「ああ、ごめんなさい。

 でも、ゲンコツは質問に入らないよ」

 朱墨ちゃんのコブシは、達美さんに腕をにぎられて止められた。

「ここは彼から話を聞く場だよ。

 正義を決める場じゃない」

 達美さん、すごいや。

 いつもは騒がしいのに、この場では近づくそぶりさえ見せなかったのか。

 そんな感想がどうでもいいことだと気づくのに数秒かかった。

 恐怖でよどんだ脳細胞が、徐々に動きだすのに、それだけかかった。

「私たちの最新情報を渡せばいいのか、お仕置きをすればいいかは、これから決めることだよ」

 達美さんの説得は、届いた。

 「……ごめんなさい」

 朱墨ちゃんはコブシを下ろし、私を含めてみんなに頭を下げた。

「いえ、こちらこそ。席に戻ってください」

 アーリンくんもあやまった。

「あなたたちが、大陸をそこまで危険視していることは、存じております」

 共感している。それは確かみたい。

 だったら、聞いてみたいことができた。

「あの、アーリンくん。

 まず、あなたが考える大陸のことを、聴かせてもらえませんか?」

 早口にならないよう、落ち着いて、抑えて話す。

「第二次朝鮮戦争がどうして起こったか。とか、それまでどんな国があったか。とか。

 そうだ、バーストの後から、どうしてあのあたりの怪獣が暴れやすくなってるかも聴きたい。

 あなたが重要と考えることを、なるべく時間でならべて、話してもらえませんか?」

 アーリンくんが、おずおずとうなづいた。

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