20.急がなきゃ!

 プロウォカトルの車は、借りれた。


 今それに乗り、峠の道を上っていく。

 辺りに家はない。

 私たちの半島を越える。

 学校から見える東側の海ではなく、西側へ行くの。

 夕日がしずむ。

 海と雲が赤くそまる。

 はじまる夜の黒をバックに、豪快な景色をつくりだした。


 その空を、大きな音が横切っていく。

 戦闘機だね。

 彼らも、さっきの戦いの帰りだね。


 夕日が見やすい峠に、黒い瓦ののった土壁がつづく。

 やがて太い木の柱で支えられたエントランスがむかえる。

 車がそこにはいると、私の家。

 木造瓦屋根の2階建てだよ。

 塀をそのまま進むと駐車場。

 今日も車は多かったよ。

 そしてまた土塀があって、私たちが入ったのより大きなエントランスがある。

 柱におさまる、あんどんをイメージした白い看板。

 ここが『割烹居酒屋いのせんす』だと誇る。

 イノセンスてのは、純潔、無邪気と言う意味だよ。

 そのおくは、圧倒されそうな大きな瓦屋根。

 木造平屋建て。

 250年は昔に作られた武家屋敷をイメージしたの。

 家とは、駐車場のおくのわたりろうかでつながってる。


「車は、駐車スペースではなく玄関前に停めてください。

 10分で戻ります」

「はい」

 引戸を開けると。


『お帰りなさい』

 和服姿のお母さんがいた。

 涼やかな緑と白が流れる訪問着。

 帯は黒にオレンジ色のアサガオ。

 お店での仕事着だよ。

 口もとは、文字どうりの陶器の白さ。

 お母さんはアンドロイドなの。

 赤いおちょぼ口が、動くことはないの。

 鼻から上は、ヘルメットみたい。

 虹色の貝殻を大きな流れ星にして、黒漆に刻んだ。

 その流れ星のなかで白く輝く切れ目が、ピクリとも動かず私をむかえてくれた。

「ただいま。ごめんね。手伝わせて」

『言いたいことはある。けど、アンナちゃんにもう言われた顔ね』

 アタリ。

『さあさ、お風呂へ行って。

 上がったらすぐ着替えるからね』

「うん。おねがい」

 これから着るのは、目が覚めるようなブルー。

 市松模様の訪問着に着替える。

 そして、ポルタ社の最上階へ行く。

 

 そこでシロドロンド騎士団、アーリンくんたちと合う。

 他にも準備を頼んでおいた。

 合言葉は、『丸い角砂糖ください』

 アーリンくん驚くかな。

 そう思うと、気分が少しだけ上向いた。

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