17.できた! 私たちの動画!

 モニターに『完』の文字がでる。

 ハテノ小学校の書道チャンピオンが書いた、立派な『完』が。

「お、終わったぁ」

 私の初の監督作。

 聴覚障がい向けに説明せりふを増やしたけど、増やしすぎたかもしれない。

 熱いため息がでる。

 昨日に続いて、二度目の「お、終わったぁ」

 でも、会議のとは違う。

 なんというか、楽しみと仕事の差かな。

 解放されるのが惜しいような、このあと来る評価が怖いような。

 そんな感じ。


 スタジオをでると。

「よかったよ! うさぎ!」

 アンナが褒めて抱きついてくれた!

 反射的に抱き返してしまう。

 動画ではゲリラ役。

 バラバラになる役なのに、良くやってくれたよ。

 ちなみに、前藤さんはアンナのパパ。

 暑苦しいハグ、だけどそれがうれしい。

 ニオイをかいでしまう。

 その場にいたみんなが、拍手を贈ってくれる。

 小学生書道チャンピオンも一緒だよ。

「みんな、私の作品をそんなに?!」

 目に熱いものがたまってきた。

「あ、ありがとう!」

 筋金くんが目をぬぐってた。

「素晴らしいっす!」

 今度はふりではなく、本当に。

 そして握手を求めてきた。

 私はアンナを抱きつかせたまま、右手を伸ばす。

 筋金くんがその手をキュッとつかんでくれた。

「俺正直、実写と絵なんて一緒にしても違和感しかないと思ってたっす」


 そうだ、爆発とか、バラバラになったボンボニエールや教会は、筋金くんの絵なんだ。

 撮影した近所の林に合成したよ。

 山の中の細い道には、大雨とかで崩れてる所もあった。

 壊れてないボンボニエールはホクシン・フォクシスの本物。

 百万山の中で撮った映像を、こちらも合成。

 迫力たっぷりの高く、険しい山のシーンができたよ。

 SUVはポルタ社から借りたの。

 VIP、要人警護用に持ってるの。


「でも、君の本気の演技が、説得力を与えてくれたっす!

いや待て、説得力とは違うっすね……。

 ちょっと…考えさせるっす!」

 そう言って、少しだまった。

「新しい扉が開いた、って感じっすか?」

 何か、彼だけがつかんだ感動を、何とかして言葉にしたい。

 そんな悩みを感じさせる顔で。

「何かを理解させるのとは違うっす。

 とにかくこれが美しい。

 これが正解なんだ!っていう自信?

 製作者のひいき目かもしれないけど、いま、この動画があるのがうれしいっす!!」

 言いきった!

 その言葉と手から、情熱が伝わってくる。

 今も抱きしめてくれるアンナからも。

「そこまで入れ込んでくれるの?!

 それは、筋金くんのおかげでもあるよ。

 あなたの絵がなかったら、私だって、今の作品をイメージできなかった・・・・・・」

 私たちは、同じ作品を良くするために、それぞれの方法で寄り添った。

 それがうれしい。

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