13.『何が忘れられたのか』

 テルガド共和国。

 アフリカの東海岸にある、人口2600万人の国。

 鉱物資源が豊富で、特にダイヤモンドは主要産業といっていい。

 だが、それらの利益が国民に公平に配られてはいない。

 極端な格差社会だけが生まれ、改善されない経済は世界で最も貧しい国を作りだした。

 結果、鉱物資源をめぐって国内は内戦状態に陥った。

 何年にもわたる、国連などの機関からの介入もあった。

 現在はそのかいあって、戦乱は収まりつつある。

 これは、そうなるかどうかわからなかった、とても不安定だった頃の物語。


 深い森だ。

 上を見上げても、空の青さや太陽より、木々の葉のほうが多い。

 赤道近くの強烈な太陽を受けて、育った熱帯雨林だ。

 その中を走る、細い舗装道路。

 急な山に刻まれている。

 黒いアスファルトはところどころひび割れ、また崩れた山に飲み込まれかけている。


 そこを駆け抜ける、5台の車列がある。

 前後の4台は、深緑に塗装された、全長も身長も4メートルほどの人型ロボット。

 セカンド・ボンボニエールという。

 人型、といっても、その足は4本だ。

 人間と同じような足が2本。

 尻の部分から、同じ構造の足が前後逆向きに伸びている。

 今はその足を前後に伸ばし、膝の下の後ろ、ふくらはぎに当たる所にあるタイヤで走行している。

 タイヤのホイールに入った電動モーターが、静かに加速させる。

 そしてその姿は、名前のイメージとは似合わないのが、誰の目にも明らかだ。

 ボンボニエールとは、手のひらに乗るかわいらしい砂糖菓子(ボンボン)の入れ物であり、幸せを運ぶ贈り物。

 だけどここを走っているのは、鉄板を溶接して作った、角ばった装甲の固まりだ。

 先代のボンボニエールから装甲バランスを見直した結果、その角ばりはさらに顕著になった。

 そして鋼鉄の両腕には、それに合う巨大な銃が握られている。

 人間の持つ長さ1メートルほどのライフル銃をそのまま巨大化したようなものが。


 それも、車列の中央にいる1台のSUV車を守るため。

 乗用車の中では大きなエンジンと太いタイヤを持つそれは、防弾ガラスや装甲化もほどこされている。

 重量は増えたが、その動きはパワフルで、俊敏そのものと評された。

 だが、セカンド・ボンボニエールに比べれば、まだ丸みがあってかわいらしく見える。

 日本国の政府専用車の一つ。

 今乗っているのは、当時の官房長官、前藤 真志。

 現在の首相。

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