第2話

「…死のう。」ボソッと呟いた。


肌寒い季節だ、道路にはまだ雪がチラホラと残っている。そんな時期にアパートの一室で一人、溜め息を漏らした。


いや、正確には一人になっただな。母は幼い頃に亡くしている。3ヶ月前までは父と一緒に暮らしていたが、父も癌を患い帰らぬ人となった。祖父母や親戚もいないので一人暮らしが始まった。

不謹慎だが最初は新鮮な気持ちだった、だが2週間も経つと一人の時間が苦しかった。


仕事が終わるとスーパーへ行き夕飯の材料を買って帰宅する。そして料理をした後、食事をするが、そこから音が消える。いや、咀嚼音や細かい音は拾えるんだ、正確には生活音が無くなるんだ。まして連休などとったら何日もこんな生活が続くんだ。気が狂いそうになる。


普通の人なら友人や恋人に会いに行くのかな、だが僕にはどちらもいない。自慢にはならないな。友情というのは目に見えないし他人に心を許すなんて行為はハードルが高すぎないか? 皆はよくそんな友達を何人も作れるな、僕にはとうとう一人もできなかった。そんな僕が恋人など出来る訳が無いさ。でも、どちらか一人でもいいから欲しかったな。


まあ、いいか。どうせ死ぬし。こんな感情も思考も世間体も環境も意味が無いんだ。死んだら終わりだし、面倒なことも考えなくていい。寂しくもない、金銭面で苦労することもない、他人にマウントをとられることもない。いい事尽くめだ。


ああ、死んだらどうなるのかな、輪廻転生とかあるのかな、それとも霊体があって成仏したり地獄に行ったりするのかな。まあ、そこらへんは死んでみればわかるか。


あ、僕の自己紹介をしないと。名前は明と書いてアキラ。会社員。髪は短髪。中肉中背で顔はモブ顔。独身。享年25才。


さて、どうしようか? 自殺をすると決めたのはいいが死に場所や方法を考えないといけないな、全く面倒なことだ。

よし、まずは場所だな! 屋外にしようか? それとも室内にしようか? とりあえず電車に飛び込むのだけは無しだな、賠償金がすごいらしいし他所様に迷惑をかけてしまうからな。海や崖に飛び込んで死ぬ人もいるが、勇気があるよな。発見されないと仮定して、もし死後に意思があったとしたら、光も何も無い空間で毎日を過ごすんだぞ、考えるだけでゾッとするよ。 


あとは屋外といえば何だろう? 焼死とか溺死とかかな? うーん、何だかどちらも苦しそうだな。それに変なこだわりかもしれないが、キレイな状態で死にたい。死後に第三者が発見する場面で恥ずかしくない体、僕がアキラとわかるような死体となるのが理想だ。だから顔がボロボロになったり白骨化は避けたいな。そうなると、虫に食われたり蛆が湧きそうな屋外は止めよう。


となると屋内だな。死に方は後で考えようか。だが、さすがに他人の敷地や建造物で死ぬ訳にはいかないか、自分の身勝手な理由で他人を悲しませたくないし。といっても自分の死後に誰かが泣いたりしても関係の無いことだけど。


他の候補は手近な場所だと自宅かな。正確にはアパートという名の賃貸物件だが。(借り主は僕ことアキラで登記変更されたが、家主は大家さんになるんだよな。)

まあ、この際だ。一度も会ったことも無いし、なけなしの全財産が150万程度ある。これをクリーニング代と迷惑料として納める遺言書でも残そう。そのお金で、なんとか許してもらおう。 あれ? もしかすると金額が足りないか? ま、いっか。僕は9年間このアパートに住んで家賃を払い続けた(正確には父の金だが) いわばお得意様だぞ! 最後のワガママぐらい聞いてもらおうじゃないか。 よし、死に場所は自宅に決定だ。

こうして場所はアパートに、良く言えば思い出が詰まった自宅に決まったのだった。


「次は死に方か…。」僕は顎に手をつけ一人呟いた。室内となると定番は首吊りを思い浮かぶな。あの死に方はポーズも固定されてて、なかなかキマッてるんだよ。だがデメリットがある! それは糞尿が垂れ流しになってしまうんだ。ネットで得た知識だから信憑性は薄いが事実だったらとんでもないぞ。第一発見者がドン引いてしまう。 それに、よく考えたら我が家のアパートは首吊りできる空間も人間一人を支えられる柱も無かったよ。という訳でこの案は却下だ。

次は服毒自殺で考えてみよう。睡眠薬や殺虫剤を飲み込むのか、上手くいけば苦しむこともなくあの世へ行けそうだ。だが、こいつは嘔吐する可能性も高そうだな。ゲロまみれの部屋で最後を迎えるのはイメージが悪い。それに僕は食べ物の好き嫌いが多いから、この死に方も合わないかもな、なのでこれも止めよう。


最後はリストカットか。 これは実行出来る勇気が必要だな。けど、そこだけをクリアすれば致死性も高く、そして何より見栄えがいい! 瞳を閉じた状態で絶命すれば眠ってるだけにも見える。よし、死に方も決まった。 


これで僕の人生も終わる、あとは死ぬだけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る