四・一・三(用語集)
「事態」
この世界において現れ得るものごとの総称。つまりは可能性。現実には起こっていなくとも理論上起こりえることであれば事態に相当する。
「事実」
事態のうち成立したものごとの総称。事態と違いこちらはこの世界に現れていなければならない。
[上二つの具体例]
空から札束が降ってくる」というのは理論上は可能であるがこの小説の読者の中にそのような経験をした者はまずいないであろう。よってこれは可能性でしかないため事態である。
一方で「ある男の口座に4630万円が振り込まれた」というのは、一見あり得ないように見えるが実際にこの世界で起きたことである。よってこれは事態ではなく事実である。
「写像理論」
ウィトゲンシュタインは、人は現実世界を、絵画や音楽、写真、小説など様々な媒体を用いて表現することができると説いた。そして世界を表現することを「写像」と呼んだ。
「命題」
言語や式によって表した一つの判断の内容。ウィトゲンシュタインはこの命題こそが、世界を写像できる全ての媒体の中で最も強力なものであると考えた。
「真理関数」
命題は、大きく分けて二つに分類できる。複合命題と要素命題である。要素命題はそれ以上細かく分析できない最小の命題単位であり、複合命題は要素命題を組み合わせることで成り立つ。そしてウィトゲンシュタインは、要素命題の真偽値が判明すればそれによって構成される複合命題の真偽値も自動的に判別できるという意味で、命題は要素命題の真理関数であると説いた。
[上の例]
ここで、「私は松本が好きである」と「私は浜田が好きである」という二つの命題を要素命題と仮定すると、前者が真で後者が偽の時、「私は松本も浜田も好きである」という複合命題は偽となる。このように、複合命題は構成要素である要素命題の真偽値によってその真偽値が決定される。なおこのような命題の考え方は記号論理学と呼ばれる学問として体系化されているため、興味を持たれた読者は一度調べてみるとよいだろう。
「語りえないこと」
ウィトゲンシュタインは、「神」や「真理」のような存在があるかどうか分からない、つまり真偽の判別できないワードの入った要素命題からなる命題は、真偽値が判別できないために全てナンセンス(無意味)であるとした。有意味な命題とはすなわち思考のことでもあるため、このようなナンセンスな命題は思考することができない。よってこれは言葉で語ることもできない。これこそが語りえないことである。
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以上が前稿四・一・二を要約した用語集となります。なおこの要約は分かりやすさ重視のため『論理哲学論考』の重要な部分をいくつかすっ飛ばして執筆いたしましたことをご了承下さい。詳細を知りたい読者様におかれましては、前稿四・一・二を読んでいただくか、ご自身で論考をお読みいただきますようお願いいたします。
また、前稿と本稿を通して論考の解説に不備があるかもしれませんが、何分私も勉強途中の身でありますのでどうかご容赦下さい。
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