47.共同著作
[葉とラフトラックが侍のおばあちゃんを拉致しようとしてる]
きわみは「いつか素顔を見せる」と言っていたが、その時は唐突に訪れた。僕とみかりがアジトから逃げ出し、ラブホテルの部屋に入った時、このメッセージが琉衣のアカウントから送られてきた。見た瞬間、琉衣がきわみの『中の人』だとすぐ察しがついた。驚かなかったと言えば嘘になる。だけど、その後すぐに送られてきたメッセージで、僕のちんけな驚きなどすぐ吹き飛んだ。
[だから代わりに、私を拉致するよう、きわみとして二人に提案した。きわみは明日から東京でのイベントでいなくなるって言ったし、アリバイはばっちり]
ばっちり? 何がばっちりなんだ?
[でもその後のことはほぼノープランなんだ、咄嗟だったから。タスケテー]
僕は琉衣の無計画さにその場で怒り狂いそうになった。だから君の小説はいつもグチャグチャなんだ。きちんと結末までプロットを書いてから本文を書き始めろと、何度も言ったじゃないか! ラブホテルの全室に響き渡る声量で怒鳴ってやりたかった。もし一緒にいたのが、初めてのラブホテルに動揺しているウブなギャルでなかったら、僕が冷静ではないのがすぐに知られていただろう。
[でも、もう話しちゃったし。計画は変えられないよー]
[何にも用意していない無謀を計画とは言わない]
[だから一緒に考えて。小説のアイデア出しみたいなもんでしょ?]
[このダメ小説家!]
だがこのまま言い合いをしてもしょうがない。物語が動き出した以上、いい着地点を見つけなければならない。それに彼女の行動も僕の祖母を庇ってのことだ。彼女に感謝こそすれど、助けない理由は万にひとつもない。とりあえず僕は一応考えたという、琉衣の案を聞くことにした。
[私と言う人質がいるなら、監禁場所からは動けない。私ごと二人を爆殺して]
僕は琉衣のアホさ加減に絶望し、床にパスタソースをこぼした。
[バカを休み休み言えとは言わない。バカは言うな、二度とだ]
[冗談、冗談]
画面越しかつ文字だけのやり取りなので、冗談に見えないのがタチが悪い。だが相手が持っていない遠距離武器で爆殺するというのは悪くない。問題はどうやって琉衣とラフトラックたちを引き離すかだが、その答えは食欲が無さそうな目の前のギャルを見て解決した。
[みかりを人質と交換するよう、ラフトラックたちに進言してくれ。彼らは武器製造ができるみかりが敵の手に渡ることを避けたい筈だ]
[マジで言ってる? みかりちゃん断るでしょ]
[いや、彼女は断らない。みかりは困っている人を見捨てられない人だ。絶対に自分が行くと言い張る]
[サイコハベル]
お互い様だと心の中でなじってやる。
[でも人質交換するとして、その後は?]
[琉衣が一瞬解放された隙を狙って、爆殺する。僕が囮と入れ替わって、みかりのVALで狙撃する]
[その囮が『インスマスと関わりのある人』?]
[ああ、彼は奥さんをラフトラックに殺されたから復讐したいはず。きっと計画に乗る]
交換役に指定したラフトラックを爆殺した後、あとは僕とみかりと琉衣で残った葉を追い詰める。というプランを提案したが、僕はここで嘘をついたことになる。だが文字だけのやり取りでそれは感付かれることはなく、琉衣拉致後のシナリオは僕のプロットが採用された。あとは証拠となる僕と琉衣のやりとりのログを消すだけだった。
[今までのトーク履歴、消したくないな……]
[バックアップも残すなよ。証拠が残るとまずい]
[でもなー]
[全部終わったら、また同じくらい話そう。小説のこととか、他にも色々]
[約束だよ?]
[約束だ]
[じゃあ『ニセハロウィンナイト作戦』開始!]
[酷いタイトルだ]
トーク履歴削除。
こうして僕らの共同著作による『ニセハロウィンナイト作戦』は計画され、滞りなく実行された。ただしクライマックスを除いて。
琉衣は意図しない結末に書き換えられたことを、まだ怒っている。だからか僕は『ニセハロウィンナイト』から2週間たっても、恋路 琉衣として話してもらえず、軽羽 きわみを通して彼女と話をしている状態だった。
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