第7話 城塞都市オールシー 1
オールシーは山間部に近く、野生動物だけではなく、モンスターからの襲撃を受ける可能性があること。南大陸が統一される前は一つの国であり、その首都であった事も起因してか、防備を固める為、都市が石積みの城壁で囲まれている。
南門に到着した俺達だが、その前に馬車の一団が10組程入街の為の順番待ちをしていた。あらかじめ淹れておいた紅茶をマグカップに注ぎ、飲みながらのんびりと順番待ちをする。
そうしているうちに、順番がやってきて、門番の衛兵から入街の目的を聞かれ、馬車内の臨検、“罪科判別の宝玉”による判定を受ける。
「問題は無いな。入っていいぞ。」
折角商人ギルドに加盟しているのだから、今回はまずそこで情報収集を行うことにした。すぐ側にいた衛兵に質問する。
「まず商業ギルドに向かいたいのだが、どう行けばいい?」
「商業ギルドなら、南広場の十字路を左折し南広場西通りに入り、そのまま進むと看板が見えてくるはずだ。行けば分かる。」
「助かったよ。ありがとう。」
会話もそこそこに、馬車を進め商業ギルドを目指す。
商業ギルドが見えてきた。中に入る。
若い男のコンシェルジュがやってきて空いていた2番の受付に案内される。
「私、受付をしております、レイチェルと申します。」
やや小柄ながら出るところは出ていて引っ込むところは引っ込んでいる、顔のそばかすがチャーミングな可愛らしい女性である。
早速、前に作ったギルド加盟カードを提示する。
「ヒロ様ですね。本日のご用件をお伺いいたします。」
「相談したいことは幾つもあるのだが、ひとまず先にお勧めの宿を教えて欲しい。真っ先に拠点を確保したいんだ。条件としては中級クラス程度で、馬車が停められる所だ。」
「それでしたら、一旦南広場に戻ってから中央通りを北上すると、中央大広場があります。そこを左折して大広場西通りを進むと左側に“赤い林檎亭”と言う宿屋がありますので、条件に合致すると思います。尚一階は食堂と酒場にもなっていて、外から食べに来るほど評判は良いみたいですね。」
「ありがとう。一旦腰を落ち着けてからまた来るから、その時もよろしく。」
「了解しました。それでは今後オールシーでは私が専任担当させていただきますね。」
商業ギルドを後にし、宿へと向かう。
カウンターでは、中年の女性が受付をしていた。
「赤い林檎亭へようこそ。宿泊ですか?それともお食事ですか?」
「宿泊だ。期間はとりあえず20日。馬車もあるので預けたい。」
「分かりました。現在部屋も厩舎も空きがありますので大丈夫です。部屋はどうなさいますか?個室または2人部屋を用意できますが。」
「2人部屋で頼みます。」
「そうなりますと、一人一泊60銅貨、厩舎使用料1日40銅貨となります。それから、お食事はどうなさいますか?当宿の食堂はこの街でも好評ですよ。定食ですと朝7銅貨、夕12銅貨となっています。夕の定食には1杯お酒が付きます。」
「宿泊期間中、地脈の神殿に行くつもりだ。留守中も部屋と厩舎は確保しておきたい。だから食事は要らない。その都度注文するつもりだ。」
「分かりました。それでは計32銀貨になります。」
会計を済まし部屋の鍵を受け取る。
「お部屋は303号室となります。」
部屋に入り、ソファーに腰掛ける。
「今マップで確認したが、地脈の神殿までは約200km。片道およそ4日程度の日程だな。街道も何とか馬車で通行できそうだ。あくまで衛星写真?モードで確認しただけだがな。」
「それは僥倖。徒歩だと思うとげんなりするね。徒歩だと片道1週間前後かな。」
「俺も御免被る。野営の手間も面倒で仕様がない。」
それから、今の時間を確認する。現在15時夕食まであまり時間的余裕が無く、調査活動を行おうにも中途半端過ぎる。
「暇つぶしに、周辺散策をして17時頃にご飯にしようよ。」
「何処で飯を食う?」
「財布は暖かいから高級レストランもいいけれど、何処にあるかもわからないし。無難にお勧めの宿の食堂にしようよ。」
「そうだな。そうしよう。」
17時になり、宿の食堂にやってきた。
ウェイトレスがやってくる。
「ご宿泊で夕の定食希望の方ですか?」
「いいえ。宿泊はしているのですが、色々食べたいのでその都度注文することにしました。席は空いていますか?出来れば壁際で。」
「丁度1席空いていますので、案内しますね。」
席に着く。品書きは、常時おいているもののみ、ターポートの食堂のように木札で表示されていた。
「何かお勧めの料理はあるか?高くても構わない。」
「それなら、今日のお勧めは子羊の香草焼きですね。丁度新鮮な肉が入荷したところなんですよ。」
「では、それを2人前頼む。それから、少し食べ応えのあるものが欲しいな。」
「それでは、羊肉のシェパーズパイはどうでしょう?食べ応えありますよ。」
「ならそれも2人前頼む。」
「飲み物はどうしようか?メニューを見たけど、ワインが無いね。どうしてかな?」
「ここオールシーは気候が冷涼なので、ブドウの品種も限られ種類が少ないです。ターポート産は当店でお出しするには高すぎますし。欲しいお客様には、都度確認してもらうようにしています。今あるものは地元産の白ワインのみとなります。これも高いですけど。ワインの替わりでしたらサイダーはどうですか?ここでは林檎の栽培も盛んでサイダーがよく飲まれています。お勧めですよ。」
「それなら辛口のサイダーを頼むよ。宏はどうする?」
「じゃあ、俺も同じで。」
「それじゃあ、料理とお酒をお出しするまで、少々お待ちくださいね。」
10分程して、料理と木のコップに入った酒が運ばれてきた。
「まずは乾杯と行こうか。おっと、冷却も必要だな。」
いつも通りこっそり冷やしてから、杯を合わせる。
「「それじゃ、乾杯。」」
「うん。所謂炭酸無しのスティルサイダーで、アルコール度数は5度以上あるな。辛口なだけあって丁度良い。林檎の風味も中々だな。」
子羊の香草焼きに手を付ける。羊臭さは香草のお陰もあってそれなりに抑えられており、食欲を刺激する。食べ進めていると声がかかる。
「お待たせしました。シェパーズパイです。」
シェパーズパイは、陶器のパイ皿に、羊挽肉と刻んだ野菜を炒めて味付けされたものが敷かれ、その上にマッシュポテトをのせてオーブンで焼いた料理だ。シェパーズパイにも手を付ける。
「熱っ、これも結構いけるね。この2品を食べていたら、赤ワインが欲しくなるよ。」
「実は持っているとは言え、無いもの強請りはするんじゃない。アイテムボックスから出す訳にもいかないじゃないか。」
「そうなんだけどね。飲むにしてもグラスは欲しいし、そのグラスも超貴重品と来ていて出せないから我慢するよ。」
益体もない話をしつつ、杯を重ね、皿を空けて夕食の時間は過ぎるのだった。
部屋に戻り、寛いて腹ごなしをする。ある程度腹がこなれてから明日の予定を話し合い、方針を決めた。寝る前に宏が言う。
「ナイトキャップにシラス12年でも飲むか。オールシーまで無事についたことだしな。」
「待ってました。実はちょっと期待していたんだ。」
モルトグラスを取り出し、1ショットずつ注ぎ、お互い口を付ける。至福の一時だ。十分にウイスキーを堪能した後、浄化の魔法を全身にかけて床に就いた。
翌日、朝食をとった後、商業ギルドへと向かう。ギルドに着き、コンシェルジュにレイチェル嬢への取次ぎを頼み、4番カウンターへ案内される。
「おはようございます。ヒロ様。本日のご用件をお伺いします。」
「幾つかあるが、地脈の神殿へ参拝に行くつもりだ。道中の安全情報が知りたい。」
「地脈の神殿の道中で、盗賊やモンスターの目撃情報や被害に遭ったと言う話はここしばらくはありませんよ。」
「そうか、それは都合がいい。」
「それから、商取引の話についてだ。俺たちはガラス製品を卸す用意がある。それ以外に、小規模取引でも高く売れるものも知りたい。嵩張るもので大規模な取引はしない主義なんだ。」
「となりますと、貴金属、宝石類となりますね。もちろんガラス製品も高く売れますよ。」
「分かった。参考にさせてもらう。後、この都市には大衆浴場などはあるのかな?」
「残念ながらございませんね。城塞都市と言う立地もありますが。ここでは入浴するのはお貴族様位ではないでしょうか?」
「そうか、残念だ。諦めるとしよう。」
それから、この街の情報について一通り仕入れた後、ギルドから出て広場の露店巡りをするのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます