第5話 港湾都市ターポートでの出発準備中
約1か月半後
「宏、ようやく貴金属、レアメタルを始めとした希少元素がある程度ストック出来たよ。足りなくなったら今度は最東端の港湾都市パンプールで同じことをやってもいいしね。」
「丁度こちらも設計が完了したところだ。後は実際に製造するだけだな。必要な物資はこちらで一覧を作成して指定するから、材料の転送と、合成を頼む。」
「了解。」
宏が考え(設計し)た最強のキャンピング馬車の内容は以下の通り。地球ではコスト面から実現困難?な男のロマンを存分に追い求めている。
・車台は総チタン合金製の中空ラダーフレーム。
・サスペンション形式は悪路走行が前提であることから、ジ〇ニーを見習い、前後3リンク式のリジットサスペンション。バネはコイルスプリングで油圧式ショックアブソーバー付き。こちらもバネ材、構造材はチタン合金を採用。
・左右の車輪をつなぐシャフトには、転がり軸受を採用し、回転時の抵抗を極力低減させている。
・馬の固定具についているアームはある程度左右にスイングできるようにし、アームに連動して前輪が舵角を取れるよう、馬の動きに合わせたステアリングシステムを採用。
・駐輪、非常用ブレーキとして、機械式ドラムブレーキを装着。盗難防止策としてハンドレバーを上げた状態で、鍵で固定できるようにしている。
・ホイールは鍛造マグネシウム合金製。それにチューブレス合成ゴムタイヤを装着している。タイヤ、ホイール幅は通常の馬車よりも太目。もちろん見た目は他の馬車と似たようなデザインにしている。
・車体は総CFRP製で、ゴムマウントを介して車台に固定されていて、振動抑制に一役買っている。
・車体の上部には荷物置き場と、収納式タープを左右後に装着。
・客室への出入り口は、御者席側と、尾部に設置。
・窓には弓矢程度では貫通出来ない強度を持つ厚さのポリカーボネートを採用。プライバシーカラー入り。
・内装は、遮音、遮熱材を貼り付け、内部環境の快適化に寄与。
・室内装備は変形させればベッドにもなる2人分の固定ソファーに小さなテーブル、跳ね上げ収納可能なベッドを装備。ベッドには低反発素材のテ〇ピュールもどきを採用。天井付近には収納棚あり。換気のためのシステムも装備。
・御者席は、引き出し式の雨除け幌も付いており、シートは合成皮革で汚れに強く、座り心地もよい。
・ホイールを含めた車両全体には腐食防止塗料の上に木目調の塗装を施し、極力一目見た上での違和感を低減させることに成功している。ぱっと見ちょっと変わった形の箱馬車に見える。
後は、都度不具合や、機能不足が発見されたら順次改善していく予定である。
ここまでこだわった以上、作業工数が増大し、宏が1日作業に徹していても1週間はかかることとなってしまった。製造そのものの時間はそうでもないのだが、各種部品の試作と動作確認には時間がかかるものだ。
その間、俊充は必要材料の合成や、部品の試作の手伝いを行いつつも、治安に問題の無い昼の時間帯を見計らって、商業ギルドへ通い、港湾区域の倉庫を借り、宏が馬車の製造を完了したタイミングに合わせて、食糧、酒等の物資が搬入されるよう手配していた。
1カ月後半
馬車の製造が完了し、借りた倉庫にて下見をした。二人とも仕上がりには異論はなかった。
また、順次買い付けた酒類、食糧、馬用の飼葉、旅行に必要な器具物資を搬入しつつアイテムボックスに収納することを繰り返し、残るは馬の確保と御者の訓練のみとなった。
残り約1週間+α
スケジュールを超過しそうな雰囲気が出てきつつも、そうなったらまた延泊すればいいやの気持ちで焦りは感じていなかった。時間は十分にあるのだから。とは言え、念のため2週間延泊の手配をした。
馬の確保については、商業ギルドで紹介された、いくつかの牧場を巡り、体が大きく力も強くそれでいて大人しい馬を2頭選んでもらい購入した。良い馬だったので価格は上がり、1頭あたり4金貨となった。
御者の訓練については、馬を購入した牧場に頼み、みっちり訓練を受けた。牧場内を問題無く走れるようになってから、実践訓練として都市内や郊外などを走りまくった。馬の操作はともかく、直接来る振動には閉口するばかりで、特に御者をしていないただ揺られているだけの時もそうだが、脱輪、車軸の折損などのトラブル対応が重労働で一番辛かった。また、馬の世話についても一通り学び、とりあえずは二人で馬車の旅ができる目途が立つようになった。
また、無事スケジュールを超過したので、延泊の最終日の翌日に馬を港湾倉庫に連れてきてもらうよう手配もした。
残り1週間を切ってきたが、時間に余裕ができたので、港湾部の魚市場へ行き海産物の確保に精を出した。おかげで南大陸にいる間は浪費しなければ、海産物に飢えることは恐らく無いであろう。
また、宿屋の宿泊最終日前日までの間に、向かいの“赤ひげ酒場”に頼み込み可能な限りの弁当を発注し続けた。(容器はこちらで用意し、出来上がった都度、人気のない場所でアイテムボックスに投入していった)
宿泊最終日
お世話になった商業ギルドのチェルシー嬢に挨拶に向かった。これまでの様々な取引に対する礼を述べ、帝都方面へ旅立つことを告げた。
グラスの取引については、販売先の顧客からも好評でさらなる追加をお願いされたが、旅立つことを理由に断りを入れさせてもらった。かなり残念がられたが。
最後に商隊からもたらされる街道の安全状況を確認してみたが、直近で特に危険な事は無かったとのことだった。
次に、念のため南大陸路線馬車ギルドへ向かう。既に馬車は持っているので、定期便の予約などではなく、最新の運行状況を聞くためにやってきた。
空いているカウンターへ行き、受付担当の男性に尋ねようとする。
「いらっしゃいませ。定期便の予約ですか?それともチャーター便ですか?」
「いや、現在の運行状況を知りたくてやってきた。」
担当の男性は少し嫌な顔をしていたが、これお昼代にでもどうぞと20銅貨程握らすと、途端に笑顔になり、
「何なりとお尋ね下さい。」
と急に態度を改めたことに、内心苦笑する。
「ここ20日間の間で、ターポートからオールシーの間で、盗賊や夜盗の類が出ているか、モンスターの目撃情報があるかどうかの最新情報を知りたい。それから、街道に通行不能になるような障害があるかどうかも知りたい。」
「現在そのどちらも確認できてはおりません。盗賊団が近くにやってきたと言う話も聞こえてきませんし。街道にも特に問題が生じたという話はありませんでした。」
「そうですか。では今日を含め、ここ数日の定期便も特に問題なく運行されているということですね。」
「はいそうなります。」
知りたい情報は得られたので、礼を言い、ギルドを後にした。
それから結局行く機会を逃していた大衆浴場で一風呂浴びて汗と疲れを洗い流し、町を散策する。約2カ月間ではあるが、慣れ始めてきたところで立ち去ることについて、少々センチメンタルな気分になる。と同時に17時の鐘が鳴ったので、いつもの“赤ひげ酒場”へ行き、海産物料理を堪能した。
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