悪意の愛に呑み込まれて
夜道に桜
1章 文化祭編
第1話きっかけ
どんな人にも必ず才能があると人は言う。
確かにそうかもしれない。
でも、実際に世の中を見渡すと、その才能を発揮している人は、極わずかだ。
99%の者には無い。
僕もその中の一人だ。
なぜ……僕らには無いのだろう?
なぜ彼らには有るのだろうか?
彼らは天才なのだろうか?
否、僕が思うに、才能を発揮できない人は、才能を『発見できていない』だけなのだと思う。
ーー『適材適所』
字のごとく、『適』した『所』に、『適』した『材』という意味だ。
ーー人は言う。
自分の強みや能力を、自分で把握して遺憾なく発揮しなさい……、と。
ーー僕は思う。
そんなこと分かっていたら苦労しないんだよ!
分からないから……誰か、誰でもいい!
僕が持っているはずの才能を教えてほしい……、と。
中学二年生の冬のあの事件以降は、なお強く思っていた。
そして、幸運というべきか……、僕はその機会に巡り合えることが出来た。
※
それは、幼馴染の御堂霊が『学校の先生達の声まね』を文化祭の出し物としてやらないかと誘われた時だった。
そもそも最初は乗り気じゃなかった。
なんで僕がそんな面倒くさいことやらないといけないんだ、と思っていた。
でも、僕は意志が弱かったのもあっだのだと思うけど、結局やる流れになり——。
それはあっさり、本当にあっさりと出来た。
自分でもこんな事できるんだって思ったぐらいだ。
御堂も感心したように、僕の肩をつんつんと、小突いてきて——
「じゃあ次は私の声真似して!」と、言ってきた。
乗せられるがままにやろうとしたけどこれは、そんなにすんなりと上手くいかなかった。
「高音は無理かー」
若干残念そうな声を出す御堂。
でも僕は何故かは分からないけれど諦める気にはなれなかった。
何とかしてその声を出してみようと何時間も挑戦することにした。
最初は、「頑張ればもしかしたら出来るかもしれないよ!」と言っていた御堂が、「もうやめなよ、喉壊しちゃうよ」と止めてくるほどに……。
その日は、そう注意されたのもあって止めたけど、自分の中では妙な確信があった。
『あと何か一つ手を加えれば出せるのではないか?』
そういったもの。
だから、次の日からもネットやら本を引っ張り出して様々な方法を、時間があれば練習していた。
そうした挑戦を諦めずにやり続けていく過程で、段々と、上手くなってーー
「出来た……」
僕の側でずっと喉を痛めないか心配してくれていた御堂も、
「えっ!? 今の……私の声? うわっすごっ!」
と、僕以上に困惑しながらも自分のことのように喜んで僕の肩を叩いて喜んでくれた。
『出来ないことが出来る様になった』という事実に、僕はその達成感に身を奮わせていた。
でも、直後にドッと疲労感が僕を襲ったため、床にヘナヘナと座った。
そんな僕をよそにドン引きするぐらいにはしゃぐ御堂。
「ちょ、ちょっと……興奮しすぎだって……オーバーだな……」
そう声をかけようと思ったが——
ピタリ
動きを止め、どういう訳か、御堂は固まったまま、何か思い詰めたような顔をしていた。
(???)
雰囲気に飲まれどうしたものかと話しかけるか迷った。
——しばらくそのような状態が続いたが、急に御堂も我に帰ったようにハッと顔を上げ、そして肩をプルプルと震わせ出して、ボソッと呟いた。
「…………じゃあ谷口先生のは? ねぇ、やってみてよ……」
「……え?」
「……だから! 谷口先生のやってみてよ」
「み、御堂……、ど、どうした??」
「だからァァァァー、谷口先生の声マネをしてェェェーて言ったんだよ!!」
赤面顔で肩をポカポカ叩いてくる御堂。
「? わ、分かったからそんな肩叩くなよ……痛いよ……」
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