第11話 波打ち際の約束
…京都府の北部には、透明度の高い「美しすぎる海」と、どこか懐かしくも色鮮やかな「日本の情景」が広がっていて、「海の京都」京丹後、天橋立、伊根、舞鶴の透き通った綺麗な海水浴場がある。
サラサラと波打っている波打ち際を歩いていると、夏の太陽の暑さと匂いに身を包まれ、日傘をさしていた絢音は、結い上げた髪の毛から滴り首を濡らす汗をハンカチで拭いながら、澄み渡った海を見つめる。
「ひゃっ!!?」
急にほっぺに冷たいものを当てられ、絢音は瞬き振り返ると、缶ジュースを持った藤次がいたので、彼女はなんだと安堵する。
「暑いやろ。飲み。」
「うん。」
そうして缶のプルトップに手を掛け開けた瞬間だった。
「きゃあっ!!!」
プシャッと、中身が一斉に吹き出して、絢音の顔はびしょ濡れになる。
その様を見て、藤次はやってやったとばかりにケラケラと笑う。
「笑い事じゃないわよ!!びしょびしょじゃない!!もーー!!」
そうしてハンカチで顔を拭おうとした時だった。
藤次に手を引かれたかと思うと、2人は思い切り浅瀬に飛び込み、白い日傘が翻る。
「ほら、これなら濡れとっても分からんやろ?そらっ!!」
「きゃっ!!」
海水を自分に向けて浴びせてくる藤次に、いよいよ絢音はむくれる。
「もー許さない!!仕返し!!」
そうして藤次にも海水をかけると、藤次も仕返しと掛け合い、いつの間にか、2人は波打ち際で抱き合い寝そべる。
「暑いな。」
「うん。でも、気持ちいい。」
「な?京都の海も、悪ないやろ?」
「うん。来て、良かった……でも…」
「でも?」
海水で濡れて顔に張り付いた長い髪の毛を整えてやりながら藤次は問うと、絢音はにっこり笑う。
「やっぱり、生まれ育った瀬戸内が、私は好き。」
「そっか。いつか、行ってみたいなぁ〜。お前の、生まれた街に。」
「うん。いつか行きましょう?約束。」
「ああ。」
そうして頷き、額を合わせて、波打ち際に寝そべり、2人は波の音と、互いの心音に、身を委ねた…
【終】
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