第9話 口移し

「絢音…大丈夫か?」


「…………」


とある寒い冬の日。


タチの悪い風邪を引いた絢音を看病していた藤次は、そっと…盆に乗せた土鍋を開ける。


「お粥さん作ってきたで?食べて薬飲も?」


「…………」


いらないのか、首を横に振り、苦しそうに息をする絢音に、藤次はさらに続ける。


「ほんなら、水分だけでも摂り。脱水なるで?ホラ、スポーツ飲料。飲めるか?」


身体を起こしてやり、スポーツ飲料の口を絢音の唇に充ててみたが、飲む力もないのか、ぐったりと自分に寄りかかる絢音に、藤次はグッと、何かを決意したかのようにスポーツ飲料を一気に呷ると、口移しで彼女にそれを飲ませる。


ゴクリと嚥下したので、再び飲んで口移ししてやると、絢音が息も絶え絶えに口を開く。


「……こんな事してたら、藤次さんに風邪、うつっちゃう。」


その言葉に、藤次はクスリと笑って、絢音の背中を摩りながら、身を寄せ額を合わせる。


「お前を守って倒れるなら、本望や。せやから早よ、元気になってな?」


「藤次さん…」


そうしてまたキスをして、絢音は3日後には回復したが、彼女が心配していたように、今度は藤次が風邪に倒れ、恥じらう絢音に口移しを要求したのでした。


【終】

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