ステータス・ウィンドウ(短編集その4)
渡貫とゐち
(新)「ステータス・ウィンドウ」
「――早くっ、こっちです――あ、まだいました、あの人です!」
ぐいぐい、と腕を引っ張り、町の警備をしていた若者を連れてくる。
彼は「はいはいなんですかもー」とぶつくさ言いながら、やる気がなさそうな態度だ……ちょっと! 美女が腕を引いて助けを求めているんだから期待に応えなさいよ!
「そうですねえ、美女ですもんねえ……」
「半笑いで言ってんじゃないわよ! ブサイクとは言ってはいけない風潮にはなったけど、『美女』や『かわいい』を半笑いで言うことで、既存の言葉に別の意味を持たせるやり方、やめてくれないかしら!? ――『美女』に『ブサイク』を含めないで!!」
「いえ、そんなつもりはないですけどね……」
「ええそうでしょうね! ここで『その通りです』とは言わないわよね! 言えないからこそ、言える言葉でカモフラージュして、私をバカにしているんだからッ!!」
くす、と微笑まれた。――っっ、直接、強く非難される方がまだマシである。
障害をことごとく潜り抜けた上でバカにされている方がきつい……私はこの怒りをどこへ持っていけばいい!?
「本題は……ああ、あの方ですか? 見た通り、ごく普通の方みたいですけど――まさか町中で剣を持っていたから――ですか? この町では全面的に、武装は許可しているんですけどね」
知っているわよ。
あなたを連れてきた私だって、こうして武器を携帯しているじゃない。
「ではなぜ?
観察しても、あの方は壁に背を預けているだけのようですが……待ち合わせですか?」
「彼の視線を追いなさいよ……そういうところに頭が回らないの?」
若者が肩をすくめた。
壁に背を預ける男の視線を追う……、きょろきょろと目玉が忙しなく動き、その視線の先には女性ばかりがいた。そう、あの視線だ――私もさっき、じろじろと見られたのだ。
確かに露出がちょっと多い服装を着ているから、視線が引き寄せられるのは分かるけど……だとしてもあいつはじろじろと見過ぎなのよ、不快だわ……っっ!
「
「いえ、ですが、視線だけで、その、窃視されたと断定することは――」
「だったら事情聴取してきなさいよ! 指摘されて戸惑えば黒よ、言い逃れするようなら……どうして女性ばかりを見るのか、きちんと問い詰めてきなさい!!」
警備の若者が男性に声をかける。遠目から様子を見ていたら、ものの数分で若者が私のところに戻ってきた。
問い詰めた素振りがなかったけど……まさか相手の口八丁に納得して、帰ってきたわけじゃないでしょうね!?
「雑な仕事をしていたら、あなたの上司に報告するからね」
「いえ……あの方、異世界人でした」
「異世界人……、最近よく見るわね……それで? 異世界人ってのは女性を窃視するのが風習なのかしら。悪いけど、この世界では許されていない『犯罪行為』よ。
文化の違いで見逃すつもりなら、私が罰を与えてあげるわ」
「あの、女性を見ていたわけではなくてですね……――」
「あの男の視線の先には、必ずと言っていいほど女性がいたわ。
多数の証拠があるのに、本人の『見ていなかった』発言を信じるの!?
こっちには被害に遭った女性が多くいるって言うのに――」
「被害妄想ですよ。彼が見ていたその向こう側に、女性がたまたまいただけで」
「なにを見ていたって言うのよ! 空中に文字でも浮かんでいるとでも言うの!? ヤバい薬でもやってるんじゃない!? 幻覚の先に偶然、女性がいたとしか思えないわよ!!」
「幻覚ではないですが、我々には見えないものです……。
異世界人特有の――『ステータス・ウィンドウ』、というものです」
ステータス・ウィンドウ?
「はい。自身の情報、能力を、数値化して見ることができるんです。我々には見えませんが、今、彼の目の前には情報があるわけで――。
そうですね……新聞紙を広げて見ていると思って頂ければ分かりやすいのでは?」
じろじろと視線が動くのは、情報を読み取っていたから?
私たちからその
だから本当に、女性ばかりが通ったのは偶然だったのだ。
「彼からすれば、『ステータス・ウィンドウ』を見ているわけで――、
その向こう側は見えていませんよ」
「……じゃあ、たとえばもっと露出が多めの大胆な格好をしていても、あの男は私たちを見ない……?」
「見ないと言うか、壁を隔てているようなものなので、見えないのが正しいですけど……」
「なによそれ……こんなにもオシャレしてるのよ……ちょっとくらいは見なさいよぉ!!」
「いやだから――『見ない』んじゃなくて、『見えない』んですって」
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