第56話 これから
「…リューゲは俺が毎夜月を眺めていると知らないのか?」
ロバールは口角を上げながらそう呟いた。
「ねぇ、ボノス。今日は満月かしら」
しかし、問い掛けられた筈のリューゲはロバールの方へ一切の目線を送らず、このチーム内で一番の知識量をもつボノスへ言葉を投げ掛けていた。
「……あー……ふふっ」
これにはボノスも苦笑を浮かべていた。
2人の幼馴染といった関係性故か、普段から割とツンケンしているリューゲのあたりはなお一層強い傾向にある。
「残念なことに僕は月を眺める習慣はないものでね。
ロバールは知っているんだろう?」
ボノスは肩をすくめながら先程リューゲに無碍にされたままのロバールへ声をかけた。
「……ん?あぁ!
毎夜月を眺めて耽っているからな。ちゃんと覚えているぞ。」
嬉しそうに笑顔を浮かべるロバール、それに対し嫌悪感丸出しのリューゲ。
「昨日は望月にはやや及ばないが美しい月だった。
恐らく今日が満月で間違いないだろう。」
口調こそ、自慢気で高慢な様子に思えるが
その瞳は新しいおもちゃを与えてもらった子供のように輝いており、嬉々とした様子だった。
「……とりあえず、今日あの花畑に行ってみるということでいいのかしら」
少しの間を置いてリューゲが私に問いかけた。
少し困ったように眉を下げ、それでいて口角はやや上がっている。
ロバールの様子を見ての表情はなんとも言えない。
怪訝そうで、心配そうで
愛しそうで、それでいて嫌悪も抱く。
「うん。そうしましょう」
そんな表情を浮かべる彼女に精一杯の笑顔で答える。
これが今出来る最善と信じて。
……下手に口にするとリューゲは怒りかねないし、ロバールはさらに嬉々としかねない。
普段は冷静なのだがリューゲの事となると幼子のように悪戯を始めるのだからタチが悪い。
「話はまとまったようだな。
とりあえずは腹拵えでもしに街を散策するか宿屋に戻るか決めたいところだが」
和やかな雰囲気の中にナーダのはっきりとした声が紡がれた。
時刻は昼前、今日の予定は月が満ちる頃まで特にないのだ。
「……特に案がないのであれば自由行動にしてもいいか?」
おずおずとこちらに視線を送ってきたのはヴァールハイトだった。
ヴァールハイトが最初に提案するとは珍しい。
他者の意見を優先的に聞いた上で話す彼が最初に意見する事など今までになかった。
――何か、したいことでもあるのだろうか――
ここは竜族の街、彼自身の故郷ではないものの古くから親交のある街であることに変わりはない。
「そうね、各自で自由に過ごしましょう。
夕刻……いえ、月が明るさを持つ頃には宿屋に集合ということでいいかしら?」
周囲を見渡すと各自が静かに頷いていた。
異論もなく、その場で解散が決まり
提案したヴァールハイトはというと足早にどこかへ行ってしまったのだった。
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