第54話 秘められた場所

【インズ・アレティ王国第二王位継承者 アモル・インズ・アレティ

 月の満ちる夜に、このブレイク領の隠されし秘密の場所で待つ

 ブレイク領 領主】


 渡された手紙にはただそれだけが書いてあった。


「……何これ」


手紙を覗き込んだリューゲがそう呟いた。

正直、彼女の言いたい事も分かる。

先程、ブレイク領主は私と話し合いの場を設けると言ったのだ。


それからの、この内容だ。


無意識のうちに、話し合いの場の日時でも書いてあるのだと期待してしまっていた。


「……。竜族は、人間よりも警戒心が強い種族だ。

それ故に手紙にも言葉にも直接的な事は記さないようにする者が多いんだ」


ヴァールハイトがそう呟いた。


「誰もが隠し事なく生きれる世界なんて、無いからな」


俯き加減で呟くその姿はひどく寂しそうで、儚げな物だった。


幼い頃からずっとそばに居るとは言っても騎士たちの過去など殆ど知らない。

姉様の事すらも分からないのだから

知らない事が、隠されている事が多数あるのだろう。


「……ヴァールハイトはこの文章の意味、分かる?」


同じ竜族であるヴァールハイトであれば、何か知っているかも知れない。


相手の心情を理解出来るものがこの文章を解き明かしやすいだろう。


――種族の違い――


それが今になって大きなものに感じる。


「竜族は日時の密約に月を用いる事が多い。

昼間では自身の鱗や翼が目立ってしまう可能性が高いから密会には向かないからな。」


ヴァールハイトが『竜族は』と口にする度に、傷を抉られる気分になる。


「……隠されし秘密の場所、か」


人間とは違う生き物である事を強調する言葉

それを彼は淡々と口にする。


――全ての人が平等であるはずなど無い――


昔から言われ続けてきた言葉が今になって深く刺さる。


「……ごめん。ヴェールハイトに任せっきりで……」


何も思いつけない自分が、非力で

役に立てない自分が惨めに感じていた。


「……こればかりは、得手不得手があるからな」


目線を下げていた私の頭に、少しばかりの重さが乗った。


反射的に目線を上げ、目前に迫るのは見慣れた赤い衣服。

袖口に施された、深紅と濃紺の羽を模したその服は、これまで何度も助けてもらった頼もしい友人だ。


「アモルにはアモルにしか出来ない事がある。その時に力を発揮できるように備えておけばいい」


そう言って優しく頭の上にあった暖かさは離れていった。

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