第29話 皇都の外へ

 そうして私たちは、カムラ姉様の向かったブレイク領に足を運ぶことにした。


 ――ブレイク領――

十騎士の1人【ブレイク家】が治める領地であり場所は皇都の西、潮風の靡く知識の街。


皇都の秘書室は民には見せられないインズ・アレティの歴史を抱えているが

このブレイク領はこの国の成り立ちでは無く、世界の構造や生き物の生態に各地の文化

各々が描いた物語や生活の上で必要な知識などを街全体で保管している所だ。


これがあのブレイクの領地だと言われると驚く人が多いのも事実ではある。


 騎士としてのブレイクへの印象は【粗暴】そのものであり

書物や知識を抱えているようには思われないのである。


そもそも十騎士は皇位が代わる度に代を次の子へその名とともに引き継ぐことが多い。

それは必ずしも直系の者で無くても構わず、血縁が全てでは無い。


それでも、誰でもいいと言う事はなく

その領土の風潮や民の支持によって決定されるのだと言う。


彼、ブレイクも現皇帝ククルスが即位した際に先代ブレイクからその座を引き継いだはずだ。


他の候補者を押し退けて、彼が【ブレイク】を継いだのだ。


それこそ、彼がただの粗暴者ではない証明になるのだが

その領土内での事情や評価などは他の領土へは届かない。


ましてや皇都には【騎士】としての彼しか評価に値するものがないからこそ


決して知識の街に住んでいるとは思われないのかも知れない。


「ねぇ、アモル。ブレイク領へはどのくらいで着くのかしら」


いざ、馬車に乗り込もうかといった所でリューゲが声をかけてきた。


「私も殆ど皇都から出たことがないからわからないけど……」


籠の鳥


そう称される程にこの都から、いや王宮内から出た事のない私にとって

皇都のすぐ隣とは言っても物心が着くまえに訪れた場所など記憶にはない。


「ブレイク領へは馬車で行けば1時間程で首府にも着くはずだ」


思案していた私たちに声をかけたのはナーダだった。


「ナーダは行ったことがあるの?……いや、ちょっと待ちなさいよ!」


リューゲがそう問いかけるけれど、ナーダは答えずに馬車に乗り込んで行ってしまった。

それを声を荒らげながらリューゲも追いかけて行ってしまい

馬車の外で待ちぼうけを食らったようになってしまった。


「ナーダはマタル様に付き添っていた時期がありますからね」


穏やかな声でボノスが教えてくれた。


「この続きは馬車の中でも出来ます。一先ずはお手をどうぞ」


先に乗り込んだ馬車から手を伸ばしてくれるボノスの奥に

口を尖らせているリューゲの姿が見える。


「とりあえず、出発しよう」


静観していたヴァールハイトの一声で全員を乗せた馬車はブレイク領へ向けて動き出した。

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