第14話 ショゴス再び 前
ディアブロ学園は夏休みだ。
今回は湖開きも無事に終わり、俺とミランダ、モーリッツは湖に遊びに来ていた。
ミランダとモーリッツは、前回の事件以降ますます親密になっている。
異空間病院では隣のベッドだったし、学園生活では学年委員長と書記だ。
有能なのは、高等部にまで噂が届いている。
うちの寮にも足しげく通い、夕食(モーリッツ用に極上の食事を用意する特殊な魔道具を用意した)もうちで食べ、泊まっていくことも珍しくない。
さらに、モーリッツは今までいたスポーツのサロンを抜け、うちの「邪神探求サロン」に移籍していている。そこも、俺の保護欲をそそるのだ。
なので、頃合いかと見て、湖のほとりで休むモーリッツに声をかける。
「なぁ、モーリッツ。お前はうちの家の歴史も知ってるな?」
「はい!」と言ってモーリッツはとうとうと述べ始めた。
先輩のお爺様の代から、大変な有力家ルンツェルト家と仲が悪かった。
父の時代に、1度負けシュトルム大公家は根絶やしになったと思われていたこと。
だが、俺はレイズエル(姉ちゃん。魔帝第4王子の妃)に養子として匿われてた。
帰ってきた俺はたった一人でルンツェルト家全てをを圧倒。
逆襲するも、ルンツェルトの非戦闘要員は、攻撃してこないやつは助けてやった。
以降逆らわないと(子供にそういう教育を施すのも禁止)の誓約書で見逃した。
(戒律の、相手より先に攻撃してはならない、を守るための処置だった)
現在は、シュトルム大公家の係累は、全員皆殺しににされていたので、シュトルム大公家の人員を増やすのに、苦労している。
だから俺は今、分家を増やすためのお妾さん5人と、跡継ぎを作るための正妻さん1人と婚約状態にある。学園を卒業後、結婚式順番に結婚式が行われる。
そのような事を語って見せた。かなり詳しく調べたんだな
「そこまで知っていれば上等だ、お前は優秀だな」
「どうしたんですか、いきなり………」
モーリッツは照れて赤くなっている。かわいいな。
「いや、お前、ミランダの事好きだろう?」
「えっ、いやそんな突然………はい。そう、かも、しれません。はい」
「ミランダと、結婚を見据えた婚約をしないか?」
「えっ………いや、でもヴァンパイアは子供が………」
「大丈夫だ。『定命回帰』っていう教えがあってな、期間は丸一日なんだが、切れる前にかけなおす事で、しばらく定命を維持する事ができるから、子供も産める」
「!本当ですか!?それは願ってもない事で………あ、いやその。確かに俺は有能だと思いますけど(権魔だなぁ)本当に俺でいいんですか?」
「本家はややこしいしきたりがあるから継がせられないが、分家の中で一番大きい所を任せたい。卒業するころにはその器になっていると見てる」
「うちの家の者たちは、もろ手を挙げて歓迎すると思います」
「お前はどうなんだ?」
「そうだよ、あたしじゃ不満なの?確かに成長はしないから、多少ロリ気味になるけど、この体、もうこれで成人だからね?」
「うわっ!ミランダ!?」
湖のほとりの木からいきなり降ってわいたのである、そりゃビックリもするか。
「あたしはモーリッツ好きだよ?モーリッツは?」
「先に言うのはズルいぞ………俺も好きだよ!」
「よし、なら婚約成立だな!別れないまま―――俺が判定する―――卒業できたら、モーリッツにミランダを嫁にやり、分家であるトロヴァオン家を任せる事にする!」
「は、はい!ミランダを大事にします!」
モーリッツはカチコチだ。
それにミランダが抱き着き、頬にキスしている。
「そうだ、あれ、記念代わりにどうかな?」
「何々~?」
「同じクラスの奴が、人界に豪華なクルーザーを買ったんで、遊びに来いって言われてるんだ。2名迄なら同伴可だから一緒に行こう」
「人界の海!行く行く!行くでしょ、モーリッツ!」
「魔界と違って、泳げるんですよね?行ってみたいな」
「まあ、海魔領(レヴィアタン領)を泳ぐのは、かなり高能力者でないとな………」
「なら、行くって返事しておくよ。ああ、モーリッツそいつはかなりな女好きだから、ミランダの側を離れるなよ?」
それだけ言い残すと、俺は湖で泳ぐためにその場を離れるのであった。
ちなみに岸辺でいちゃつく2人はキッチリ視界に収めている。
当面は別れる心配はしなくて良さそうだな。
そしてクルージング前日。
ミランダと、泊まりに来ているモーリッツと一緒にまったりしている。
モーリッツは明日の準備を、もう持って来ている。
水着と着替え、あと何が起こるか分からないから、サバイバル用品。
俺とミランダの荷物も似たようなもんだ。
「ミランダ、明日のクルーズのメンバー2人を調べる様に頼んだが、できてるか?」
「はいはーい、発表しまーす」
そう言ってミランダは情報を開示し始めた。
まず、クルーザーの持ち主であるジーク=フィーザー
卒業後は家業―――大手の建設業―――を継ぐことが決まっている。
条件はAクラスであり続ける事だが、ジークは軽くこなしているようである。
女癖が悪い。今も複数の女性と付き合っている。中には父親の会社の社員もいる。
ジークの恋人の一人、リリカ。
身分は低めだが、学園のOBであり、ジークの父親の会社で働いている。
優秀なキャリアウーマンだが結婚願望も強く、本気でジークを狙っている。
恋愛に対しては視野が狭く、自分をジークの唯一の恋人だと思い込んでいる。
実際は数多くいるジークの恋人の1人でしかない。
「………って感じ。後は船長さんもいるけど、人界だから菅井建造って名前だけしか分からなかった。でもベテランだっていう話は入ってきたかな。クルーズするのは地球のリゾート地ね。穴場で、他に客はいなさそう。陸地の人間にはジークさんのお父さんの息がかかっていると見て間違いないよ。人界支部があるもん」
「了解、お前どんどん
「雷鳴が任せるからでしょー?」
そんなことを言い合っているうちに、寝る時間(ヴァンパイア的には昼夜反転しているのだが)になって、明日を楽しみに俺達は眠りにつくのであった。
次の日、人界の人気のない場所―――今回はジークが小さな倉庫を借り切ってくれていた―――に成層圏から降り立つ。
俺はミランダと自分に『教え:疑似人間:太陽克服』をかけた。
マイナーな『教え』だが、姉ちゃんが俺に教えてくれたのだ。
倉庫には、ジークとリリカさんがすでに待機していた。
「よぉー雷鳴!来てくれて嬉しいぜ!他の予定はなかったのかよ?」
「ああ、一辺実家に帰ろうか?ぐらいのもんだったからな。てゆーかお前ぐらいだ、遠慮せずに俺にそんな誘いをかけるのは」
「いいじゃないか、クラスメイトだろ!?」
「はいはい」
「騒いでる所悪いんだけど、ちょっと倉庫を使わせてもらえないかしら?水着を着ておきたいのよね。悪いわね、ダーリンと大公様」
「ああ、それなら『教え:視覚変化:遮る壁』っと」
倉庫を2分する巨大なカーテンが現れた。
「俺達も着替えるから、女の子はカーテンの向こうでどうぞ」
「………ここ制限空間だぞ!制限空間でも術が使えるって噂は本当だったのか!」
「ヴァンパイアの術―――『教え』だけだよ。普通の術は無理だ」
さっさと着替えだしながら俺は答える。ジークがこっそりと
「カーテンの透明度とか変更できないか?」
「できるけど却下だ。俺の娘もいるんだからな?」
ジークはチッ………といって大人しく着替えだした、やれやれだ。
全員の着替えが終わり、倉庫から出る。
そこには豪華なクルーザーが停泊する港があった。
黒いクルーザーだ、どう考えても特注品である。
全長は16mぐらい、幅は6m、定員は16人で、航海はは沿海に限定される。
ゆったりしたサロンは贅がつくされており、大きなキッチンや冷蔵庫、トイレにシャワールームなど、ちょっとした別荘と言って差し支えない装備が揃っている。
操縦席はサロンなどとは完全に独立した場所にあり、乗員は船長の事など気にせずに、好きに遊べるようになっている。
この辺りには無人島がいくつかあり、海から島が突き出しているという情景が初めてのミランダとモーリッツは不思議そうにしながらもはしゃいでいる。
とちゅう、一際海が綺麗な場所で泳ぐことになった。
「へ、変なものはいませんよね」
「レヴィアタン領じゃあるまいし、人界の海だ。大丈夫だろう」
「そうだよ、モーリッツ!梯子で降りるんじゃなくて飛び込もう!」
「本気か!?ミランダ!」
子供たちのじゃれ合いを暖かく見守って
「溺れるなよー?」
とだけ声をかけ、ジークの方を振り返るが、彼にはリリカさんがべったりである。
彼女は大胆な水着で、ジークを悩殺しようとしているようだ。
「助けてくれ」と視線で要求されてしまったので
「ジーク!飛び込もうぜ!付き合えよ!」
と誘いをかける。ジークはいい笑顔で
「おっ?やるか!」
と応じて来た。いそいそとリリカさんの傍を離れる
飛び込んだ後
「助かったぜ、彼女ちょっと重いんだよなぁ、俺が遊びだって事を分かってなくて」
「アホか!無責任にホイホイ誘うからだろう?」
「雷鳴だってモテモテじゃないか」
「気のない女性はちゃんとお断りしてるよ。好きになった女性は妾で良ければだけど、婚約してるだろう?恋愛感情がないのは正妻ぐらいで」
「正妻に恋愛感情ないのか?」
「生前に親が決めた婚約者だからな。嫌いじゃないんだけど、なんか友達みたいで」
「ふうん………妾かぁ、俺も持つかなそういうの」
「お前の場合、妾同士が争って大変な事になりそうだけどな!」
「なにおぅ!?お前は違うのかよ?」
「俺の婚約者たちは、みんな仲がいいんだよ!もっとも抜け駆け禁止のルールなんか作っちゃったせいで、夜の時間が管理されてて大変だけど………」
「予定表があるのかよ?学園出たら大変だなお前」
「でも、必要なんだよ。分家の当主と、その筆頭家臣が。だから妾はもういいけど、愛人はまだ募集中。学校で見つけようとは思わないけど」
「はぁーお前に比べたら俺もまだまだだわ」
てな話をしながら泳いでたら夕方になった。
ちなみにリリカさんは年少組に混ざってた。時々こっちに熱烈な視線が来たけど。
順番にシャワーを浴びて着替えたら、ジークが冷蔵庫からオードブルと酒を出してきた。悪魔好みのものなので、多分魔界から持って来たんだろう。
酒はかなり上物のワインだった。
ヴァンパイアは食べたら吐かなきゃいけないので、全部遠慮して、俺は魔道具に収納しておいた「血の樽」と「血酒」を取り出した。
好奇心を刺激されたらしく、ジークとリリカさんも飲んでいた。
好評だったので良かった良かった。
夜は何をしようかという話で盛り上がる。
人気を集めたのはカラオケだった。
ジークにコネがあって、魔界の曲が収録されてる隠し部屋があるというカラオケショップがあるらしい。まだカラオケは魔界では珍しいからな。
それなら急いで行こうという事で、ジークが船長室に電話をかける。
ところが、どうも2人の間で揉めているようで、ジークは「かまわないから、一番早いコースで帰るんだ!」といって電話を切ってしまう。
「何事だ?」
「帰りの航路の事で船長と揉めたんだ。なんでも最短ルートは地元の漁師が「ひいてけの海」と呼ぶ不吉な海域を通るとかで。けど特に危険なルートじゃないから、無駄に時間をロスしたくないんだよ。船長は1度そこで沈没したことがあるとかで通りたがらないんだが、ナンセンスだろ?」
「「ひいてけの海ってなーに?(なんですか?)」」
ミランダとモーリッツに聞かれたので、調べておいた情報を話すことにする。
この辺りの海には、船幽霊が出ると昔から言われている。
その船幽霊は「ひいてけひいてけ」というか細い声とともに現れる。
姿かたちは人のように見えるが判然としない。
なぜ夜の海でそれが見えるかといえば、青白くぼんやりと光っているからだ。
しかしそんな儚げな姿に惑わされてはならない。
この船幽霊は、ものすごい力で船を海底へと引きずり込もうとするのだ。
船幽霊に会いながらも船を捨てて逃げだし、九死に一生を得た生存者たちの話によると、その正体は巨大なクジラだとも巨大なタコだとも言われる。
「ふーん、よくある怪談って気がするね………あたし、船長さんにも聞いてくるよ」
「ミランダが行くなら僕も行く」
「しょうがない、俺も行くよ」
ジークとリリカさんはここに居るようだ
「俺らはここで待ってるから」
「行ってらっしゃい」
「船長さーん。ひいてけの海で沈没した時の話を聞かせて?」
ミランダが思い切りかわい子ぶって聞く。まあ、聞きたい話がアレだからな。
「あ、ああ構わんよ」
そういって船長はこの話を聞かせてくれた
かつて船長は「昇竜丸」という、このクルーザーと同じぐらいの船を所有していた。
釣り客などを乗せる仕事をしていたのである。
ところが、この「ひいてけの海」で、船幽霊と遭遇し、船は6人の乗員と共に沈んでしまう。船長は地元出身ではないため「ひいてけの海」のことを知らなかったのだ。
その後、沈没した船の残骸は見つからず、船幽霊の仕業だと主張する船長の言葉は、逆に彼の立場を不利にするだけとなった。
結局すべての責任は船長にあるとされ、多額の賠償金を支払う事になった。
今ではすっかり落ちぶれ、雇われ船長として何とか生計を立てているのである。
確かに彼がこの領域を通るのが嫌なのは当たり前であろう。
「船長さんありがとう!もうすぐその海域なの?見に行こうよ」
ミランダが俺とモーリッツを甲板に誘う。そうだな、見に行ってみるか。
やがてクルーザーは言い伝えの「ひいてけの海」の海域に入る―――。
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