七日間のノンフィクション

双瀬桔梗

メイキング①

 打ち合わせ風景もメイキングとして使うかもしれないから、撮影してもいいかな?

「えぇ、構わないわ。あら、スマホで撮影するのね」

 うん! 今回のコンセプトは、“女子大生二人の、旅の記録”なの。だから、ビデオカメラじゃなくて、あえてスマホで撮影するんだ。

「そうなのね」


 まずはこの映像を見てくれる人達にも向けて、お互いに自己紹介しよっか。アタシはあざみ芸術大学、映像学科、動画クリエーターコースの三年生です。

「私はのぼり とう。舞台芸術学科、演劇コースの三年生よ」


 藤佳ちゃん、改めて今回は課題の撮影に協力してくれてありがとう。

 コンセプトはすぐに決まったんだけど、イメージに合う演者さんがなかなか見つからなくて……そんな時にすれ違った藤佳ちゃんがすごくイメージ通りで、つい声をかけちゃったんだ。

 あの時は突然、大声で呼び止めてごめんなさい。ビックリさせちゃったよね?

「ふふふ……確かに声の大きさには少し驚いたけど……よく同じような頼み事をされるから、声を掛けられたこと自体には驚かなかったわ」

 あ、やっぱりよく頼まれるんだ。存在感あるし、大学内でも結構、有名だもんね。

 アタシも、藤佳ちゃんの顔は知らなかったけど、すごいオーラを放つ子がいるって噂は聞いたことあったし。

「あら、そんな良い噂もあるのね」

 へ? うん、アタシは良い噂しか聞いたことないよ?

「真理乃は無闇矢鱈に人の悪い噂話はしないだろうし……誰かからそういう話を聞いても、信じなさそうよね」

 うーん……確かに、自分の目で確かめない限り、悪い噂はあんまり信じないかも?

「ふふっ……なんだかそんな感じがするわね」


 へへっ……あ! ……あのさ、他の人からもオファーされてるなら、アタシに付き合っているヒマなんてないんじゃ……

「それは大丈夫よ。流石に全部は引き受けていないし、そもそも今年に入ってからは真理乃以外に、声を掛けてくれた人はいないわ」

 そうなんだ……藤佳ちゃんは存在感も華もあるのに、誰も声をかけてこないなんてこともあるんだね。

「ありがと。お世辞でも嬉しいわ」

 お世辞じゃないよ! その長い黒髪も、大きな黒い瞳もキレイで、歩く姿勢も美しくて……アタシ、そんな藤佳ちゃんに一目惚れしちゃったんもん。“この人を撮ってみたい”って、強く惹かれたんだよ。

「ふふっ……なんだか、照れくさいわね……けれど、真理乃に言われると、悪い気はしないわ」


 へへへ……えっと、それじゃあ、そろそろ今回の撮影の概要を説明するね。

 夏休みに五日間かけて、ほぼアドリブの、ノンフィクション風ドラマを撮影します。撮影場所はおじいちゃんに貸してもらった別荘です。

 “大学で出会い、意気投合した女子大生二人が、夏休みに四泊五日の旅行に出掛ける”という大筋以外は特に決まっていません。なので、素の“昇藤佳”として、振る舞ってください。

 アタシは主人公の“昇藤佳”と意気投合した、動画撮影が趣味の友人役で、声だけ出演します。と、元々ここまで設定を考えていたんだけど……

「真理乃に声をかけてもらった日に、いろんな話をして本当に意気投合したのよね、私達」

 うん! すごく趣味が合うって訳ではないのに、モノの考え方とか似ているし、藤佳ちゃんと話していると不思議な安心感もあって、楽しいんだよなぁ。

「ふふ……私も同じ気持ちよ」

 へへ……そう言ってもらえてうれしいな。たださ、こうなってくると、なんていうか……

「このまま撮影を始めると素の私達の、ただの旅行風景になりそうよね」

 そう、そこでね! 一つ思いついたんだけど、撮影中に七つのウソを交えるってのはどうかな? アタシは四つ、藤佳ちゃんは三つのウソをつくの。ただし、どんなウソをつくかは、撮影が全て終わるまで、決して互いに明かしてはならない。

 このルールの元、一日十分前後、撮影しようと思っているんだけど……どうかな?

「私は演者として、真理乃の指示に従うわ。けれど、いくつか質問してもいいかしら?」

 うん! 何でも聞いて!

「真実の中に、嘘を織り交ぜるのはアリかしら?」

 全然、問題ないよ。

「“どんなウソをつくかは、撮影が全て終わるまで、決して互いに明かしてはならない”ってことだけど、相手の嘘に気がついてしまうこともあるわよね? その場合も、相手の嘘に気づいていないフリをしたまま、話を進めればいいのかしら?」

 うん、そうだね。もしくは、ウソだと分かった上で、そのウソに乗っかって、話を盛るのもありだよ。

「分かったわ。質問に答えてくれてありがとう。なんだか、少しややこしくなりそうだけど……これはこれで面白そうね」

 アタシも少し不安はあるけど……藤佳ちゃんとなら、面白い映像が撮れそうな気がするな。

「ふふっ、なかなかのプレッシャーね」


 あくまで課題として提出するものだから、あまり気負いすぎないでね。優秀作品に選ばれない限り、この映像を見る人はそんなに多くはないし。

「あぁ……確か、教授や学生の投票で優秀作品を決めて、選ばれた作品は葉薊祭で流してもらえるのよね?」

 うん。藤佳ちゃんは葉薊祭で、映像学科の作品を見たことあるの?

「えぇ、去年と一昨年は映像学科の先輩に結構、声を掛けてもらったからその繋がりでね。まぁでも……正直、あまり良い思い出ではないわ。一昨年、最優秀賞に選ばれた先輩は葉薊祭でその作品を上映した後、行方不明になって……去年、撮影に協力した先輩達も大怪我をしたりと、いろいろあったみたいだから……そのせいで、“昇藤佳の呪い”だなんて噂されて、今年は写真学科や美術学科からモデルのお願いをされることもなくなったわ」

 そうなんだ……まぁ、そういう偶然って、重なる時は重なるよね。案外、藤佳ちゃんのことを好きになった人達同士で喧嘩して、大怪我した……みたいなオチかもしれないし。


「私を好きになった云々はないだろうけど……そうね……案外、真実なんて、人が想像しているより、とても単純なものなのかもしれないわ。ところで……真理乃の御家族や友人は葉薊祭に来るのかしら?」

 え? 多分、誰かしらは来ると思うけど……

「だったら、優秀作品に選ばれないとね。御家族や友人に、真理乃が撮った映像を見てもらえる、良い機会になるかもしれないし」

 うん……そう、だね。うん! アタシ頑張るよ!

「私もできる限り、協力するわ」

 ありがとう。改めてよろしくね、藤佳ちゃん。

「えぇ、任せて。私は真理乃の為なら……なんだってするわ」

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