第50話 エルドランダーvsグレゴリー邸
「さっさと出てこいやぁ!! 早よせんとお前の家族グチャグチャにして庭にばら撒きたくなるだろうがボケェ!!」
『マスター。それではチンピラです』
「そう思ってくれた方がありがたいね。バレたらめでたく犯罪者デビューだし、キャラ使い分けていこう」
オルガが入っていった屋敷にエルドランダーの【スピードタックル】で突っ込んだ。
トラックのような巨体になったエルドランダーをショックアブソーバを計算に入れた最高速度、時速120キロまで加速させた体当たり。
そこに魔力的な破壊力の加算が加わり一撃で屋敷が半壊した。
さらに新機能の【メガホン】により街宣車真っ青の大音量で恫喝。
すると大慌てで屋敷の警備兵らしき連中が出てきやがった。
「アンゴさん! マズイですわ! お顔が見られてしまいましてよ!」
「大丈夫だ。【マジックミラー】機能で車内から窓の外は見えるが、外からは窓が鏡のようになって中が見えない」
マジックミラー号と化したエルドランダー……ネタ装備かと思いきや割と便利だなコレ。
おっと、身バレするのも怖いがエルドランダーを傷つけられてはたまらんな。
「【エレクトリカル・パレード】承認。電流は抑えめで」
『了解。放電します』
エルドランダーの車体から高圧電流が放たれる。
半径5メートル以内の人間は感電してその場に倒れた。
「……経験値アナウンスなし、ってことは死んでないってことでOK?」
『ハイ。死んではいません』
「よし、深くは考えないことにする!」
どんどん積み重なっていく犯罪行為。
身バレ防止のマントのフードを被りキャビンで縮こまっているいる奴の口元は明らかに引きつっている。
「……さっさと終わらせてよ。どっちを倒すべきか分からなくなる前にさ」
「分かってるって。エルドランダー、【オート・マイン・ボール】射出」
屋敷のエントランスに浮遊爆弾を放つ。
「オラァッ! 爆弾だぞぉ! 30秒以内にオルガを連れて出てこねえと屋敷ぶっ飛ばすぞ!! エドワードのクソ野郎!!」
名指しで呼ばれたことが効いたのか吹き抜けの上の方から、
「待てえっ!! 分かった!! 分かったからもうやめてくれ!!」
と中年男の悲鳴が聞こえてきた。
「どうやら脅しが効いたみたいだな」
と、俺が満足げに言うと、キャビンから冷たいヒソヒソ声がする。
「……脅しで済ませちゃいけないだろ。立派な襲撃だよ、襲撃」
「あら? 爆発させて瓦礫の下からオルガさんを回収するものだと思ってましたわ。思ったよりお優しゅうございますね」
『やり口が仁義無さすぎです。令和のサラリーマンじゃなくて昭和のヤクザだったんじゃないですか?』
同乗者からはヒドイ言われようだが、手段選ぶ理由もなかったからな。
オルガを助け出したらどうせ国外逃亡する予定だし、旅の罪はかき捨てだ。
少ししてオルガが男に拘束されながら降りてきた。
男の身長は2メートル近くあり肩幅も広くプロレスラーのようなガッチリした体をしている。
だがその体格より恐怖に感じてしまうのはその人相の悪さだ。
間違いなくエグい仕事をしている系だな。
「じゃあ、ちょっと出てくるからよろしく」
シンシアに声をかけると彼女は心配そうな顔で俺を引き止める。
「や、やはり危険ですわ! ここは専門家に任せた方が」
「いいんだよ。二人には俺のワガママに付き合わせているだけだからな。体を張るのは俺の仕事さ。奪わないでくれ」
ニヤリと笑って俺は車外に出て、オルガと相対した。
「オルガぁ。地図間違ってたぜ。おかげで再会するのにこんなに時間かかっちまったよ」
そう俺がうそぶくと彼女は戸惑い怯えるような顔で答えた。
「ど、どうしてここが」
「お前の真似だよ。追いかけるのは難しくても目的地に先回りするのは簡単だ」
任務失敗の報告をご主人様にしなきゃいつまでもシンシアを探し続けることになるもんな。
グレゴリー家の情報はランスロットを通じて調べ上げてもらっていた。
当主のエドワードは本邸におらず別邸に入り浸っていることもな。
「それよりご主人様はどこだよ? まさかアンタってことはないだろう。どう見ても人の上に立つタイプじゃない」
俺が挑発気味に尋ねると大男は不愉快そうな顔で答える。
「俺は用心棒だ……エドワード様はお前のような下賤な者には会わねぇ」
「ハッ、下賤はお互い様だろうが。まあ、いいや。オルガをこっちに寄越せ。爆発させるぞ」
「フン。ハッタリだなぁ。ここで爆発させたらお前も巻き込まれるぞぉ」
ニヤつく大男は間違いなく何かしてくるつもりだ。
対策はしてるが、調子に乗らせたくはないな。
「顔に似合わず頭を使ってるみたいだが、アホか。それくらい計算してるに決まってるだろ。これ以上屋敷を壊されたくないと泣き入れてるご主人様の気持ち汲んでやりな」
あしらわれて悔しいのか大きな舌打ちをして奴はオルガを解放した。
「…………無茶な真似を」
「こっちのセリフだ。てか……ヒドイ目に遭わされたみたいだな」
顔に小さい切り傷が付けられているのに加えて右手の中指が青黒くなって腫れている。
静止を振り切って屋敷に突撃かまして正解だったな。
「とりあえず乗れ」
背中を支えながらオルガを運転席に乗せる。
続いて俺も、とステップに足をかけた瞬間————大男の腕が俺の首に巻きついた。
「バァカ! 逃がすわけねーだろうが! こうくっついてたら何もできねえだろぉ!」
勝ち誇ったように言う大男。
さっきのおしゃべりは探りを入れていたのか。
本当に顔に似合わねえ。
「ヒヒヒ! お前もちゃんと俺がもらってやるからなあ! まずはその生意気な口を引き裂いて————」
俺を抑えていた大男の腕がゆるむ。
いや、正確には腕がヤツの体から離れていって床に落ちた。
「その腕で随分悪さしたみたいだな。おかげで剣がよく走る」
オルガと入れ替わるようにして飛び出したフードを被った男が一閃のもとに大男の腕を切り落とした。
「ギぃ……エエエエエエエエエエエ!!!!」
悲鳴を上げているようだがグロシーンは見たくないし知らんぷり。
さっさと運転席に乗り込んでマイクに向かって怒鳴る。
『オイオイオイオイ!? 手下の教育ができてねえなぁ! エドワードぉ! 詫び入れにこいや!! じゃねーとお屋敷ぶっ壊すぞぉ!!』
助け出したオルガは俺の横顔に熱い視線を送ってくれている。
「私を助け出すためにここまで卑劣な悪党を演じるなんて……」
「いや、オッサンは一切演じてない」
「むしろ本性だと思いますわ」
『マスターが楽しそうで何よりです』
付き合いが長くなるほど俺に対する解像度が高いのがよく分かる。
「分かった! 分かった! 要求なら聞いてやる! 無茶な真似をするな!」
再びエドワードの声が聞こえてきた。
今度は慌てて上階からここまで降りてきているようだった。
姿を現したエドワードはいかにも金持ちらしく豪奢な服を着た小太りの男だった。
この男をオルガはご主人様と呼び飼い犬のように尽くしていたと思うと嫉妬と義憤に胸が焦げそうになる。
「出てきてやったぞ! 要求はなんだ!?」
部下の男が腕を斬られてのたうち回っているのに特段怯む様子もない。
悪徳なれど大商会のドンだけあって胆力は人一倍か。
『こっちの要求はひとつだ。オルガを俺によこせ。主従契約を解除しろ』
「なんだと?」
オルガを救うと決めた時から彼女の【運命】からの解放は目論んでいた。
力を失っても俺が守ると言ったことは嘘じゃない。
だけど、彼女の力もまた不幸な境遇で共に生き抜いた相棒みたいなもんだ。
できれば手元に返してやりたいと思うのは人情だろう。
「…………そんなことで良いのか?」
『え?』
エドワードはキョトンとした顔をした後、ゲラゲラと笑い出した。
「ガハハハハハハハハハハ!! 何を要求するかと思えば役立たずの犬コロを譲ってほしいだと? そんなものお安い御用だ。『我が猟犬オルガマリーとの主従契約を破棄する』! これだけだ! ワシの一存で簡単に破棄できるし犬の了承はいらん! やれやれ……こんなモノ金で買えるというのにわざわざ暴れおって!」
「こんなモノ?」
「そやつはなあ、国のお偉方がワシから金を受け取る代わりに寄越してきたモノだ!! たしかに珍しい【運命】を持ってはいるが代わりはいくらでも買える!」
俺は恐る恐るオルガの表情を窺った。
唇を固く結んで溢れ出しそうな感情を堪えようとしている。
一方、マジックミラーの向こうのエドワードは下手に出ているのか媚びた笑みを浮かべている。
「そんなことよりもワシと手を組まんか? それは装甲馬車か? どういう仕組みで動いておる? ワシと組めば巨万の富が————」
『やっぱ、爆破するわ』
俺はオートマインの時限装置を起動した。
さらに、もう一機も放ち加える。
「なぁっ!?」
『3分後には爆発するからさっさと屋敷から逃げた方がいいぞ。じゃーねー』
俺はギアをリアに入れ屋敷から抜け出すと旋回して猛スピードで走り去った。
しばらくして後方でボンッ! と花火が爆ぜるような音がしたが、振り返らなかった。
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