第23話 爺、呼び出される
職員に案内されたのはギルドの奥。それなりに質の良さそうなソファーが置かれた応接間であった。
イリヤとシリウス。並んでソファーに座った彼らの対面には壮年の男。職員の制服を纏ってはいるが、年老いながらも筋骨隆々とした体躯で厳つい顔つきに髭を生やしたその姿はなかなかに威圧感があった。
「わざわざ呼び立てて済まないな」
「い、いえ! お構いなく!」
どうにもガチガチに固まっているシリウスを、隣に座るイリヤは妙なものを見るような目を向ける。髭面の壮年が部屋に入ってきてからというものずっとこの調子だ。
「初にお目にかかる。俺はジグム。このヘルヘイズの猟兵ギルドを預かっている者だ」
「し、シリウスです! こ、こっちは相棒のイリヤ──です!」
「どうやら最近は頑張っているようだな。とはいえ、伸び盛りの頃が一番危うい。気をつけると良い」
「あ、あ、ありがとうございます!」
ものすごくどもりまくっている。
「お前さん、何でそんなに緊張しているんじゃ?」
「知らないの!? いやまぁ知らなくて当然なんでしょうけど! この人は、かつてはヘルヘイズで最強って言われていた猟兵なのよ! ヘルヘイズで活動している猟兵の憧れなのよ! それにギルドマスター! ここで一番偉い人なのよ!」
興奮と緊張が混ざり合ったテンションで捲し立てるシリウスに、イリヤは少しばかり圧倒されてしまう。もしかしなくとも、シリウスもその憧れを抱いている猟兵の一人なのだろう。
「そんなに持ち上げてくれるな。俺など運良く生き永らえただけの、今では剣も触れないただ老いぼれだ」
捲られた袖から覗く右腕には、生々しい傷跡があった。左腕にも幾多の傷が穿たれている。まさに歴戦の勇姿という出立だ。
「しかし──話には聞いていたがまさか本当に子供が来るとは思っていなかった」
ギルドマスター──ジグムは訝しげな視線をイリヤに向ける。二十にも見たない若者も猟兵には多くいるが、さすがに十代前後の少年は滅多にいない。ジグムの反応も至極当然だが。
「こう見えて、さっきから固まりまくってるこっちの相方よりも歳上じゃぞ。信じるかどうかはそっちに任せるがな」
「……なるほど、見た目通りでないということは承知した」
イリヤの言葉を全面的に信じたわけではないが、『訳あり』ということで己の中に落とし所を設けたのだ。一組織を任されている者としての器量はあるようだ。実際には、ギルドマスターよりもさらに歳上であろうが、とりあえずそれは今はいいだろう。
相変わらず緊張しっぱなしのシリウスをとりあえず放っておき、に問いかける。
「それで、お偉いさんがわざわざ別室に呼び出して何のようなんじゃ?」
「実はお前たちに仕事を頼みたい」
「ギルドマスターが直々に……私たちに仕事を!? 本当に!?」
驚きながら勢いよく立ち上がるシリウス。どこまでも反応が大袈裟だ。
「話が進まんからちと落ち着け」
「ふぎゃんっ!?」
めんどくさくなったイリヤがシリウスの臀部から伸びる黒毛の尻尾を引っ張る。彼女は尻尾を押さえ赤面しながらシリウスを睨みつけるが、ジグムの手前それ以上は何も言わずに渋々とソファーに座り直した。
「それで、儂らに何をさせるつもりじゃ」
「その前に一つ確認しておきたい。──
「────はぁ……あんまり喧伝してほしくはないんじゃがな」
おそらくはドラゴンを売却した時に対応した職員から伝わったのだろう。彼を責めるつもりにはなれない。たった二人でアレだけの量を運び込むとなると、逆にそれしか説明のしようがない。むしろ上長に報告するのは自然の流れだ。
溜めてからゆっくりと息を吐くと、イリヤは胸元から赤い宝石の嵌められたペンダントを引っ張り出す。それが淡く光ると彼の手には瑞々しい果実が出現していた。
ジグムは僅かに目を見開くが、納得したように頷いた。
「特別に守秘義務があるわけではないが、希少な魔術機を持つものの反感を買うのはギルドの損失にもつながる。内部で知っているのは俺を含む一部の職員だけだ。もちろん、彼らにも固く口止めをしてある」
「なら結構」
しゃくりと果実をひと齧りするイリヤ。咀嚼し飲み込んでから改めて切り出す。
「
むしろ、
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