第二章:Occupied Japan

(1)

「待て、待て、待て、待ってくれ〜、今、あんたらに出て行かれたら……」

「でも……国から、すぐに帰国しろ、って言われてて……」

「だから、待って……な……なぁ、少し話し合い……」

「すいません。そろそろ出ないと、帰国の飛行機に間に合わないんです」

 田舎の方に有る、あたしにも、事実上、日本って国が無くなった影響は出て行た。

 むしろ、田舎では町中とは違う影響が出ていた。

 あっと言う間に、ベトナムが「日本に技能実習生を派遣してくれる国」から「日本の事実上の宗主国の1つ」になったのだ。

 当然ながら、お父さんがやってる牧場で働いてるベトナム人技能実習生にはベトナム政府から帰国命令が出た。

 だって、日本は「政府が存在しない地域」になったのだから……。

 あたしと、あの妖怪のせいだけど……。

 どたっ……。

 お父さんは……へたり込んだ。

「あはははは……」

「あ……あの……お父さん……」

 お父さんは座り込んだまま……虚ろな目で失禁しながら……あたしを見る。

「優希……夏休み……終ったら……学校やめてくれんか?」

「はぁ?」

「学校やめて……牧場……手伝ってくれんね?」

「い……いや……でも……」

「日本が……これからどうなっか、判らんとに……勉強して何になると思っととか? とりあえず……牧場手伝って……」

「あ……あの……」

 ところが……その時、別の人の声が……。

「あ……どうも……」

 やって来たのは……隣の牧場をやってる一家のおばさん。

「すいません、ウチ人が捕まってしもうて……」

「へっ?」

「ちょ……ちょっと、技能実習生の人達……その……普段から……撲ったりしとったけん……」

「き……気の毒やけど……おいに何が出来ると……」

「すんませんが、ウチの牛しばらく預かってもらえませんか?」

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