第8話 実戦
大岩を消滅させた後、師匠と共に
「師匠、昨日最後に使った技は何ですか?」
「ふむ。あれは己の霊性を高めて剣気と化し、刀に乗せ放つことで刀が届かない場所を斬ったのだ」
「霊性を高めて剣気と化す……」
「先ほど大岩を斬ったとき、お主も使ったであろう。それの応用だ」
そう言われてみれば何となく理解ができた気がする。黒滅刀はかなり長い太刀であったが、それでも百二十センチ程度であった。だが、斬った大岩は見上げるほどの高さがあり、奥行きも相当なものだった。物理的には一刀両断できるわけがない。
「良いか修太朗。お主は剣の才はそれ程でもない。だが、補って余りある心の強さと集中力がある。それを生かせばあの技を身につけるのは時間の問題だ」
「心の強さと集中力……」
「
「技を出すときに口にする……」
「要は己の心に点火するのだ。今からこの技を使うぞ、と。そうすることで幾度も繰り返した修練が湧き出るかのように己の刀を包み込む。あとは振りぬくだけだ」
そんな話をしているうちに
「さて、修太朗よ。今からあそこに斬りこんでもらう。斬りこめば分かるが、離脱するには技を使い、周囲の小鬼を瞬時に蹴散らすしかない。つまりは技を身につけねば自力では脱出できないということだ。見ておいてやるから覚悟が定まれば行ってまいれ」
修太朗は肺から全てを絞り出すように大きく息を吐いた。正面に見える小鬼を見据え、
小鬼が段々と迫ってくる。小さく思えた異形の存在が近づくにつれてやけに大きく感じられた。
先頭の小鬼と目が合う。その
「すまない……」
思わずそう呟くと、修太朗は真一文字に
「南無……」
心の中に湧き上がる罪悪感に無理やり蓋をして祈る。手に残る感触を振り払うかのように手首だけで
小鬼は敵ではなかった。否、既に武力という意味では小鬼など全く相手ではない。問題は
斬り下げて、斬り上げて、斬り払い、突く。
淡々と機械的にも見える動作で動きながら、徐々に修太朗はやりにくさを感じていた。
小鬼は武器を持たない。ゆえに
敵の群れに正面から斬りこむ。正面の敵が減ることで意図せずとも群れの内部に入り込む。そうすれば正面以外にも敵が存在することになる。横にも背後にも敵がいる……。気付けば修太朗は円を描くように足を
だが、圧倒的に小鬼の数が多い。修太朗を中心とした異形の同心円は次第にその厚みを増しつつあった。
「技を使わないと脱出できないって、このことかよ」
次第に密度が増す円の中で修太朗は幾度となく師匠の技を出そうと試みた。しかし、大岩を斬った時のように集中する時間がない。次から次へと襲い来る小鬼を斬り捨てねば捕まってしまうからだ。
未だかつてないほど刀を振り続けた。もう既にどれだけの時間を小鬼の群れで過ごしているかもわからない。修太朗の全身から湯気のような熱気がほとばしる。
「もう一度、試してみるか」
そう決めると今までより大きく踏み込み、さらに大きく
修太朗が自分の霊性を高めて剣気と化そうと集中した瞬間、足元が揺らいだ。
集中しようとした瞬間に視野が狭まったようだ。僅かな足元の窪みに
「
師匠の声が聞こえた……。
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