第5話

 その後要塞の部屋に戻ったダンとデイブはボルケーノの連中と同じ部屋で夕食をとりながらいろんな話をしたことで2人にもこの大陸の状況が大凡掴むことができた。


 このシグナギ大陸は大きく分けて北半分の獣人領と南半分の人間領とに分かれている。言葉を話せる獣人や魔人が獣人領に住んでおり、それ以外に魔物と呼ばれる動物系の魔物は大陸各地にいるらしい。


「普段は街の周囲にいる魔物を討伐してその魔石を取り出し、あとは毛皮など錬金術や鍛冶の原料となる部位を持ち帰って生計を立てているんだ」


「なるほど。そのあたりは俺達のいたモスト大陸と同じだな」


「獣人は強いのか?」


 ダンが聞いた。


「獣人はどうだろう。ノワール・ルージュなら普通に倒せるだろう。魔人についてはあまり情報はないが獣人よりもクラスが高いく相当強いと聞いている」


「滅多に出会わないのか?」


 デイブがそう言うとボルケーノの連中がお互いに顔を見合わせる。しばらくしてからナイトのジャンが口を開いた。


「去年の初めだったか、ある村が魔人の襲撃を受けて全滅しているんだ。たまたまその場にいたBクラスのパーティも1人を除いて全員がやられた。かろうじて生き残った者ももう2度と冒険者ができない位の大きな傷を受けた。そいつが言っていたんだが魔人がたった1体で村を全滅させたとな。そして冒険者である自分達の攻撃は全く通用しなかった、魔人はAクラス以上の強さだったと言っている。魔人は武器と魔法の両方を使ってきたらしい。その後Aクラスク以上のSクラスというランクが登録された」


「つまりまともに魔人の相手をした奴はほとんど生き残っていないということになるのかな?」


「そういうことになるわね」


 デイブが聞き返した言葉に僧侶のジャスミンが頷きながら言う。


「だから本当の魔人の強さを知っている人間はいないってことになる」


 精霊士のクラウドがジャスミンに続けて言った。


「なるほどわかった。魔人はそのうち会うだろう」


 あっさりと言ったデイブだがその言葉にびっくりするボルケーノのメンバー。


「会うってどうやって会うつもりなの?」


 マリアンヌが驚いた表情のまま聞くと、


「魔人はこの大陸の北の獣人領って所にいるんだろ?こっちから乗り込んでいきゃあいいだけの話だ」


 黙っていたダンが言う。前の大陸でもそうだったが無口なダンが言うと雰囲気が締まる。さっきの模擬戦を見ていたら尚更だ。


 やりとりを聞いていたナイトのジャン。彼はデイブの剣の捌きが滅茶苦茶に早いと思って見ていたら次のダンになると剣の動きすら見えなかった。2人ともこの世界ではAランクよりもずっと上のクラスの実力はあるだろう。そしてダンはデイブよりも更に上に位置する程の剣の腕前だ。俺達はこの2人の足元にも及ばない。


 普通なら魔人を相手にするとなるとAランク冒険者でも二の足を踏む。なのにこの2人は自分達から乗り込んでいくつもりだ。普通なら馬鹿なことは辞めとけと言うところだが目の前の2人が言うと本当にこいつらなら2人で倒しそうだなという気になる。


「ところで」


 とブルーが話題を変えてきた。


「2人は赤魔道士とか暗黒剣士だっけ?とかジョブはどうやって決めたんだ?」


 デイブがブルーに顔を向けた。


「俺達がいたモスト大陸では冒険者になる時にギルドにある水晶を使って体力と魔力の測定をする。どちらも10点満点で結果が出るんだ。普通体力値の高いものは総じて魔力値は低い、逆もしかりだ。そうして前衛ジョブ、後衛ジョブを自分で選ぶ。ただ時々、といっても滅多にないらしいが、俺やダンの様に体力も魔力も平均以上の結果が出ることがある。その場合にはもちろん前衛、後衛ジョブを選んでも良いし、それ以外に中衛ジョブというのがあってそれを選んでも良い。俺はどちらも平均以上あったが魔力の方が高かったから赤魔道士を選び、ダンは逆に体力の方が高かったから暗黒剣士を選んだ。ジョブを決めるとこれもギルドにあるジョブの水晶に触れるとそのジョブの特性が体の中に流れ込んでくるんだ」


「なるほど、つまり2人は剣はもちろん魔法も使えるということ?」


 マリアンヌの言葉に頷く2人。


「剣はダンの方がずっと上だ。そして魔法は俺の方がダンより威力が高い。前の大陸でもこっちと同じでパーティは5名程で作るのが基本だ。前衛と後衛でね。そして俺達の様な中衛ジョブにはパーティで席がない。ソロでやるか俺たちの様に中衛同士で組んで動くかしかないな」


 デイブが説明すると皆納得した表情になる。そっちはどうなんだい?と逆にデイブが聞いた。


「ジョブが最初から限られているんだ。ナイト、戦士、狩人、シーフ、これが前衛ジョブ。そして後衛は僧侶と精霊士しかない。この中から選ぶことになるんだが、こっちの水晶では魔力だけを測定する。魔力が少ないと自動的に前衛ジョブから選択するという事になっている」


「シーフってジョブはあっちの大陸にはなかったな」


 デイブが言った。その後もお互いに情報交換をして冒険者についての理解を深めていった。話が途切れたところで、


「この大陸の状況はおおよそ分かった。それでだ。俺達はこの大陸に飛んできたが前の大陸のランクなんてのは通用しないってのは知ってる。だからまず冒険者登録から始めないといけないんだよな」


 デイブが言うと周りがと確かにいう表情になる。


「あんた達が拠点にしている街で冒険者登録はできるのかい?」


「もちろん。ギルドのシステムは同じでしょう。そこで登録をすれば良いわ。明日にはここを出てモレスビーの街に戻るから戻ったら私たちが一緒にギルドに顔をだしてギルドに説明してあげる」


「そりゃ助かる。冒険者の登録さえしちまえば後は自由に動けるだろうしな」


 デイブとマリアンヌのやりとりを聞いていたクラウドが言った。


「マリアンヌ、この2人はFクラスからスタートって事はないだろう?」


「もちろん。私からギルドマスターに話をしてCクラス以上でカードを発行してもらう様に依頼するつもり。流石にいきなりAクラスってのは難しいだろうけどね」


 マリアンヌは実際にダンと模擬戦、まぁ模擬戦にもならないほどの力の差はあったが、をしていて実力は把握している。目の前の2人が自分達よりもずっと上の実力があるってことを。


 ただギルドの規則も知っているマリアンヌ。どう頑張ってもCクラススタートがいいところだろうとは思っていた。


「あとは金だな。こっちの通貨を持たないと」


 デイブが言うとマリアンヌが


「Aクラスのトロルの魔石を3つ持ってたでしょ?それをボルケーノが買い取るわ。それでとりあえずの現金にはなると思う」


「なるほど」


 そう言ってデイブが魔石を3つ渡した。僧侶のジャスミンがここの通貨で魔石代金を払ってきた。見ていると魔法袋からお金を取り出していた。この大陸にも魔法袋はある様だ。


「ジャスミンは私たちのパーティの金庫番をしているの」


 ジャスミンはお金を払いながらこの大陸の相場について2人に話をした。聞いている限りはモスト大陸の各都市と物価はそう変わらない様だ。ただAクラスの魔石の代金は2人が想像していたより高めだった。


「このクラスの魔石は余り手に入らないの。ノワール・ルージュの2人は変に思うでしょうけどこっちではAクラスの獣人を倒せるのはAクラスのパーティのみ。Bクラスのパーティになると1パーティじゃ倒せない。だからAクラスの魔石は買取価格が高くなるの」


 ジャスミンの話を聞いて2人ともに納得する。目の前のボルケーノもヴェルスやレーゲンスに来ればせいぜいランクAの中位クラスだ。この大陸はどうやら冒険者のレベルはモスト大陸よりも低めだ。


「あんた達は獣人のAクラスを相手にする時はどうするんだ?」

 

 ダンが聞いた。それにはマリアンヌが答えた。


「正直ボルケーノの5人で1体を倒すのがやっとよ。盾で受け止めながら周囲から攻撃する。Aクラスの相手が複数体いるときつくなるわね」


 そう言ってからマリアンヌは続ける。


「ただ貴方達ノワール・ルージュなら2人で倒せるでしょう。私たちよりずっと強いからね」


 ダンは話を聞いていておおよそのこの大陸の魔物の事情を掴む。ランクとクラスという言い方の違いはあるものの強さの表示は敵も味方もモスト大陸と同じだ。


 夜要塞の中で2人を話をして状況を確認しあう。冒険者のレベルはモストよりも低そうだなということと獣人領にいる魔人ってのを相手にしないと強くなれそうにないってことがわかったと確認しあう。

 

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