第24話 新たなるスキルと新たなる改造

修練場に来てはや半日、茜色の光が窓から差し込み始める頃。

僕はスキル習得の最後の課題に挑んでいた。


「……行くぞユウ!」


「ああ、いつでもいいよ‼︎」


 修練場にある闘技場の中にて、僕の合図とともにマオは魔法陣を展開する。


「強いのが出ても恨むでないぞ‼︎ とりゃー‼︎」

 

そういうとマオは、召喚術用の黒い魔法陣を浮かび上がらせる。


すると陣の中より中型のアイアンゴーレムが姿を現し、蒸気を吹き上げながらこちらへと迫ってくる。


やはり制御は出来ていないようで、敵意剥き出しでにゴーレムは僕へと拳を振り上げるが。


「遅い……‼︎」


 僕はスキルの発動し、隙だらけのアイアンゴーレムの体に勇者の剣を叩き込む。


『スマッシュ‼︎』


 スキルにより強化をされた一撃は、ざっくりとアイアンゴーレムの胸をコアごと切り裂き、完全に沈黙をさせる。

 

 申し分ない破壊力、そしてスキルが無事に発動したことに一瞬気が緩みかけるが。


「休憩している暇などないぞユウ‼︎ お次はこれじゃ‼︎」

  

 そんな僕を叱咤するようにマオは叫び、さらに魔法を展開する。


 召喚術のための黒い魔法陣ではない、今度は炎を操るための赤い魔法陣を展開するマオ。


 今まではただ霧散するだけであったマオの膨大な魔力が、初めてマオのコントロールのもと魔法陣に吸い込まれていき。

 

やがて一つの炎の塊となって吐き出される。


『ファイアーボールじゃ‼︎』


 初級魔術、されどマオの膨大な魔力によって編み出されたその火球はもはや上級魔法ほどの破壊力と巨大さとなって僕へと迫る。

 

 間違いなくこれが、この修練場での最後の試練だろう。


「いくぞ‼︎『不動如山(うごかざることやまのごとし)‼︎』」

 

 勇者の剣を盾のように構え、ノックバックを無効化するスキルを発動してファイアーボールを防ぎきる。

 

 霧散した炎の熱が肌を撫ではしたが、ダメージはゼロ。

足元を見ても、魔法を受ける前と受ける後で立っている位置が動いていない。


『スマッシュ』そして『不動如山』は無事に発動に成功。


 そして無傷であることという指定された条件も無事に達成……。


恐る恐る僕は隣で監督をしているマッスル兄貴に視線を向けると。

 

「……うん、習得完了だYO‼︎ おめでとうユウくん‼︎」


 マッスル兄貴は満面の笑みでスキルの習得完了を祝福してくれた。


「あっーー……やっと習得できたー、付き合ってくれてありがとうマオ」


 安堵と疲労にその場に崩れ落ち僕は大きく息をつき、マオへと感謝の言葉を送る。


「何、妾もファイアーボール覚えられたし? 召喚術も魔力のコントロールである程度呼び出す魔物のコントロールも出来るようになったのじゃ、連れて来てもらった恩に報いるには安過ぎる対価じゃよ、妾は大満足じゃ」


「そう言ってもらえると助かるよ。 でも、結局今日は『スマッシュ』と『不動如山』しか覚えられなかったな」


「そう欲張るんじゃねーよ。スマッシュも不動如山も、両方とも中級冒険者が覚えるスキルだぜ? 初心者のお前が一日に二つも覚えられたのはむしろ才能だっつーの」


「そうじゃのぉ金髪、お主結局何もスキル習得できなんだからなぁ? えぇ?くやしいのぉくやしいのぉ」


「てめぇ、後で畑に埋めてまな板栽培してやろうか」


「誰が天然物のまな板じゃこら‼︎」


「HAHAHA‼︎ おいおい二人とも喧嘩しちゃだめだYO‼︎」


 仲良く騒ぐフレンとマオ。そして二人を仲裁をするマッスル兄貴。


 そんな様子を見なが僕は近くのベンチに腰を下ろすと、姉ちゃんが駆け寄ってくるのが見えた。


「ユウくんユウくんお疲れ様―‼︎ 頑張ったから喉乾いたでしょ? お姉ちゃんが(魔法で)出したオレンジジュースを飲ませてあげるね? オレンジは疲労回復にいいんだよ?」


「ありがとう姉ちゃん。ありがたくオレンジジュースは貰うけど、自分で飲むから」


「そう? じゃあその間に、お姉ちゃんが汗を拭いて……」


「それもできるから……」


「じゃあせめてタオルを……」


「もう用意してるから大丈夫だよ」


「……ぷー。最近ユウくんちっともお世話させてくれないからお姉ちゃん寂しい」


「僕もいつまでも子供じゃないってことだよ。そろそろ、大人として扱ってくれてもいいんじゃないかな姉ちゃん?」

「ユウくんのお世話をするのに大人も子供も関係ないわ。だって大人になったってユウくんが私の可愛い弟だっていう事実は変わらないんだもの! 正直なところ、ユウくんがしわくちゃのおじいちゃんになってもお姉ちゃんは変わらずにユウくんのお世話をするつもりだし。いやむしろ、食事から移動、おトイレからお風呂まで、ユウくんの全てを管理できる老後こそ本番よ。なんか想像したら興奮……楽しみになってきた‼︎」


「……今姉ちゃん興奮って言ったよね?」


「……言ってないよ?」


 視線をそらして吹けもしない口笛をふく姉ちゃん。

 マッスル兄貴が衝撃的すぎて忘れかけていたが、姉ちゃんも負けず劣らずの変態だったことを今更思い出した。

 

 なんで僕この人が好きなんだろう……。


「……はぁ、まぁいいや。そういえば僕の修練中、席を外してたみたいだけれど、姉ちゃんも何かスキルを覚えたの?」


「もちろん‼︎ ユウくんを守るためにスキルはいくらあっても足りないからね‼︎ ユウくんの役に立ちそうなスキルを覚えてきたよ‼︎」


「へぇ……ちなみにどんなの?」


 僕の役に立つ……という言葉に思わず好奇心をくすぐられて聞き返すと。

 姉ちゃんもそれに気が付いたのだろう。

 

 何かを閃いたかのような悪戯っぽい笑みを浮かべて距離を詰めてくる。


 目前に飛び込んでくる姉ちゃんのたわわな果実がいつもより大げさに揺れた気がする……あれ、姉ちゃんもしかして今日……下着つけてない?


「んふふ、ユウくんはお姉ちゃんのスキルが気になるのかな」 


「え、へ? まぁ」

 

 ごめんなさい正直もう他のことに興味が移っちゃってました。


「しょうがないなぁ〜‼︎ そしたら特別に教えてあげましょー‼︎ ちょっと失礼」

 

 そういうと不意に姉ちゃんは僕の手を取る。


「えっ? ちょっ、何を……」


「はーい、力抜いて手を自然な感じに開いてねぇ」


「え? こ、こんな感じ?」


「そうそう、……うふふ、大きくなったねぇ。本当にあっという間にこんなにたくましくなっちゃって、ユウくんのいうとおり……昔とは大違い」


 くりくりと指先で僕の掌の上にハートマークを書いていく姉ちゃん。

 

くすぐったい上に恥ずかしい。

 

「ちょっ、ね、姉ちゃん……くすぐったいよ」


「うふふ、ごめんごめん。それじゃあいくよ?『肉体改造‼︎』」


 そうスキルを発動すると、同時に姉ちゃんの指に光が灯り、その光が体の中へと入ってくる。


「え? 何今の?」


 肉体改造って……そこはかとなくいやな予感がする言葉に僕は思わず問うと、姉ちゃんは微笑みながら親指を立てる。


「せっかくだからお姉ちゃんも新しいことに挑戦してみようと思ってね? 修練場で色々と実験してみたらなんと、人間の体も改造できるようになったのです‼︎ どうどう? お姉ちゃんすごいでしょ‼︎」


肉体改造ということは、筋肉の量が増えたとかステータスが上がったということだろうか? しかしなんだろう、何かが変わったという実感があまり湧かない。

 

 思わず僕は自分の手を見つめると。


 ……瞬間、右腕が巨大化、獣の腕のように白い毛が生え、鋭く鋭利な爪が伸びてくる。


「んななな‼︎? なんじゃこりゃあぁ‼︎?」


「どうしたユウ……ってうおぉお‼︎? なんだその腕‼︎? どこからもらってきたその病気‼︎」


「病気じゃないわ失礼な‼︎」


 僕の叫び声に、マオと喧嘩をしていたフレンは振り返り失礼な台詞とともに腰を抜かす。

 このままこの腕を叩きつけてやろうか。


「これは人狼の腕か……しかもこの腕……」


「またアンネくんだね? 今度はいったい何をやらかしたのかナ?」


「ふっふーん‼︎ ユウくんの腕をヴェアヴォルフの腕に改造(いじっ)てみたの‼︎ 腕力による破壊力はまず間違いなく最強の魔物だから、攻撃力や再生力も段違い‼︎ もちろん急な改造は体に負担がかかるからまずは腕だけだけど。 それだけでもそこらへんの魔物なら勇者の剣を使わなくても一網打尽だよ‼︎」


「いやいやいやいや、何勝手に僕の腕いじくってるのさ‼︎? なんなのこの禍々しい感じの腕‼︎? これじゃ勇者じゃなくて魔王だよ‼︎」


「そんなことないよ。 内なる闇を押さえながらどんどん体を魔物化させながら戦う勇者ってなんだかとってもロマンじゃない‼︎ 暗黒面の危険な欲望と正義を貫く勇者の心……まさに、闇の力と光の力の二つがあわさりは最強に見えるのよ‼︎」


「その説明じゃと、おぬし自身が暗黒面ってことになるのじゃがそれはいいのか?」


「それはそれで……ロマンかも‼︎?」


「しまった、此奴バカじゃ!?」 


「ばっ……マオちゃんヒドイ‼︎?」


「酷くないよ真っ当な意見だよ‼︎ もうダークサイドでもなんでもいいから、早く元に戻してよ‼︎ こんな腕じゃ外にも出られないじゃないか‼︎」


「だ、ダメだよ‼︎ これはユウくんの護身用なんだもの‼︎ それに安心して、日常生活に支障をきたさないように、一応ユウくんの意思で自由に元に戻せるようにはしておいたから。きっと制御には時間がかかると思うけど……地道に訓練をがんばろうね‼︎安心して、訓練中はお姉ちゃんが身の回りのお世話をしてあげるから‼︎」


「それが狙いかこのバカ姉があああぁ‼︎」


 黄昏時、突如出没した一匹の怪物(ぼく)の咆哮が修練場に響き渡る。


 スキルを習得し魔王討伐に一歩近づいたはずなのに。

 勇者からははるかに遠のいたような気がする、僕なのであった。

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