第22話
その後、僕たちはアニキさんに案内してもらいながら、修練場を見て回る。
「いやーしかし、君がこの辺りを拠点に活動しているとは知っていたけれど、まさかウーノの街にいたとはね、ちょっとした運命を感じてしまうYO! あ、喉乾いてないかい? りんご味のプロテインと紅茶味のプロテインならあるんだが」
「なんでプロテインしかないんだよ」
「当然、それはここが訓練場だからだYO‼︎」
「答えになってねえし」
「妾りんご味で」
「HAHAHA、オーケーキャンディちゃん‼︎ りんご味だね‼」
愉快げに笑いながらりんごを握り潰しプロテインに混ぜてシェイクするマッスル兄貴。
マオはすっかり気を許したのか、筋肉により調合されるプロテインを興味津々で眺めている。
本当に誰とでも簡単に打ち解けるなあの魔王様は……。
そんな楽しげなマオを見つめながら、姉ちゃんは珍しく悪態をつくようにため息を漏らした。
「はぁ……誤算だったわ。まさか貴方が派遣されてくるなんてね……こんなことなら軍勢を追い払うだけじゃなくて、幹部まで探し出して倒しておけばよかった」
「道中身ぐるみ剥がれて行き倒れた魔物たちを見かけましたが……やっぱり君ですかぁ、まぁ魔物を追い剥ぎするなんて君ぐらいしかいないものNE?」
「ちょっと!? すぐ私のせいにして‼ 人聞きの悪いこと言わないでよ!」
「おや、違ったのかな?」
「今回は……違くないけど……まだ追い剥ぎだって5回ぐらいしかしてないもん‼︎」
十分だろ……というかむしろそんなにやってたのか姉ちゃん。
「やれやれ、君は相変わらずだね……無邪気というか、災害みたいというか」
「あ、やっぱり冒険者の中でも姉ちゃんってそんな感じなんですね」
「ユウ君やっぱりって何かな!? そんな感じって何かな!?」
「もう少し後先考えろってことだよ姉ちゃん。思いつきですぐ暴走するんだから」
「そそそそ、そんなことないもん! お姉ちゃんだって色んなこといっぱい考えてるんだよ‼︎」
「9割方ろくでもないことをね」
「ろく……うわああぁんフレン君、ユウ君がいじめるー‼︎」
「……悪いなアンネ、一ミリも擁護できねえわ」
フレンに泣きつく姉ちゃんであったが、フレンは光の灯らない瞳であっさりと姉ちゃんを突き放した。
「うわああぁん‼︎ 味方がいないよおぉマオちゃああぁん‼︎」
「よしよし、プロテインのむか?」
「いらないいいいいぃ!」
マオに撫でられながら泣きじゃくる姉ちゃんはまるで子供のようで。
そんな姿にマッスル兄貴は呆れながらもどこか優しい表情を向けている。
……この顔、恋心とかじゃないよね? 大丈夫だよね?
「なんだかんだ、うまくやってるみたいだねアンネくんは……君も大変だろう、あの子の手綱を握るのは? お察しするYO」
「ははは……ありがとうございます」
「さて、それは置いておいてだ。君たちはスキルの習得にきたのだろう? 一通り修練場内は回ってみたが、何かお気に召したスキルはあったかな?」
しまった、そういえばそうだった。
筋肉に圧倒されて忘れていた。
「えっ!? えっと、その」
当然、貴方の筋肉の自己主張が強すぎてまともに見てませんでした。
とは言えず思わず僕は口籠ると。
「HAHAHA、そうだよねアンネ君の弟ならここのスキルではちょっと物足りないと感じるかもしれないだろう。けれどここは初級者向けの修練場だからね、勘弁してほしいYO‼︎」
「え、いや、そんな……」
なにやらこちらに都合の良い解釈をしてくれたようでほっと胸を撫で下ろす。
「ふむ、しかしせっかく勇者様が来てくれたというのに、手ぶらで返すのも忍びない
「いやそんなお気遣い頂くわけには……」
いかないです……そう言うよりもはやく、アニキさんはその拳をポンと叩くと。
「そうだ! 特別に私のスキルを習得してみないかい?」
そんな提案をしてくる。
「えぇ……?」
一瞬海パン姿で鞭に打たれる自分の姿を想像して一歩後ずさると。
それと同時にアニキさんの首元に白刃が突きつけられる。
「ユウ君になにさせるつもりかなこの筋肉達磨は?」
「HAHAHA、回答次第では本当に首を切り落とされそうな殺気だね。何を想像しているかは知らないけれど、れっきとした戦闘技能の習得を提案しただけだYO。SSSランク冒険者最硬・・・・・と呼ばれるこの私のスキル。勇者としてもクレイジーペアレントであるアンネ君にとっても、防御系のスキル習得は願ってもないことなんじゃないかな?」
「それは、たしかにアーノルドの言う通りだけど、私海パンで鞭に打たれるユウ君なんて見たくないからね‼︎」
「なんでだよ、海パン勇者なんて絵面的には面白ぇじゃねえかってあいだあぁ‼︎?」
「刺すぞフレン」
「刺した後にいうんじゃねーよこのサイコパス勇者‼︎」
「……君たち、何か勘違いしているみたいだから一応言っておくけれど、さっきのアレは【武闘鞭】のスキル習得に付き合ってあげてただけだYO? 私のスキル習得自体は至って普通の内容だし、海パンじゃなきゃ習得できないなんてスキルは存在しない。僕が海パンなのはただの趣味さ」
むしろそこは何か理由があって欲しかった。
「おいおいユウ……こんな変態に本当にスキル教わるつもりか?」
「そうだよユウくん……私、どんなユウくんでも愛する覚悟はあるけど、海パンは受け止めきれないよ」
フレンと姉ちゃんの言葉はもっともであり、僕は一度断ろうかと考える。
しかしだ。
SSSランク冒険者直々にスキルを教えてもらう機会などそうそうないだろう。
「うーーーーーん……まぁ、海パンじゃないなら……変態は感染るもんじゃないし」
「ユウくん‼︎?」
「よーし、話は決まったね、では早速レッツトレーニング‼︎一緒に筋肉をいじめぬこう‼︎」
真白な歯をこちらに向けポーズを決めるマッスルアニキと、心底嫌そうな表情を見せる姉ちゃん……。
「プロテインうまー、なのじゃ‼︎」
そんなカオスな空間の中、マオのそんな惚けた声が響くのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます