第6話 僕は姉ちゃんとデートする
始まりの街〜ウーノ〜中央部に位置するセントラル商店街。
魔王の影響が少なく魔物も少ないこの地域は物の往来が早く、加えて魔物被害による損失のリスクが小さいため自然と交易が発展してゆき、東西南北中央とそれぞれに設置された交易所の利益から発生する交易税が、街の運営の九割を賄っている珍しい街である。
その中心となるここセントラル交易街では、各地から取り揃えられた珍しい品物や他では手に入らない生鮮食品を取り扱う店が所狭しと軒を連ねており、各地の名産を目当てに商人や貴族といった様々な人間が街を歩いている。
この場所では全てが平等である……それがこの商店街のルールであり方針だ。
そして今日、姉ちゃんに連れられて僕が今日やってきたのは。
絹や綿、麻を使用した商品が立ち並ぶエリアの中でも特に女性に人気が高い名店。
【ブラ・パンティエール】である。
「って……下着売り場かよ‼︎?」
思わず町中で声を上げる。
だが姉ちゃんは「何か問題が?」とでもいいたげに首を傾げた。
「実はねぇ、最近なんだかまた胸がきつくなってきちゃって……いつもは適当に選んでたんだけれど、これを機にしっかりとしたものを買おうと思うの。やっぱり安物の下着はダメね、すぐに縮んじゃうんだもん。それに、針金が入っているものだと肩が凝っちゃって、もう少し動きやすいのが欲しいんだ」
肩が凝るのも下着が縮むように感じるのも、貴方のデカメロンが日進月歩膨張しているからだ……といいたいが恥ずかしいので口に出せなかった。
「いや、それはわかったけれどもなんで僕をここに?」
「だって、せっかくちゃんとしたの買うならユウ君が可愛いって思ってくれるもの買いたいもの。 色々着て見せるから、ユウ君が気に入ったものを選んでね‼︎」
なん……だと?
一瞬の内に脳内に広がる世界各国津々浦々千差万別の下着を身に纏い妖艶にポーズを決める姉ちゃん達。
もちろん僕は女性の下着姿など直視したことなどあろうはずもない思春期真っ盛り。
過分な妄想により描き出される過激な下着姿の数々から分かる通り、見たくてしょうがないしなんなら着替えも覗きたいが。
「おっぱ……いや、そ、そんな。恥ずかしいよ……」
そこは花も恥じらう15歳。
素直になれない愚かさ、そして誘惑と羞恥の間から、我ながら聞くに絶えないほど弱々しく頼りない拒絶の言葉がこぼれ落ちる。
おっぱい。
「なんで? この前まで一緒にお風呂入ってたのに?」
しかしそんな僕の心情などお構いなしにサイズの合いそうな下着をかかえ試着室へと入る姉は、理解できないといいたげに服のボタンをひとつ外して小首を傾げる。
自分も通った
「ふふっ、どうしたの赤くなっちゃって? もしかしてお姉ちゃんの下着姿想像してドキドキしてるの? エッチだなぁユウ君は……うふふっ、それじゃあユウ君は、そこでお姉ちゃんのことをたっくさん考えててね?」
蕩けるような甘い声と共に、試着室のカーテンが閉まる。
体が熱くなり、このままで良いのかと思春期特有の羞恥心が必死に叫ぶが、そんな声は破裂しそうなほど早鐘を打つ心臓の音にかき消されていく。
薄い試着室のカーテンから聞こえる衣擦れの音。
いつも一緒にいるはずなのに……こんなこと想像しちゃいけないはずなのに。
このカーテンをひとつ隔てた先で、姉ちゃんはふ、服を脱いで……しかも、下着姿を……。
【緊急クエスト、緊急クエスト‼︎ 街の近くに巨大な魔物が接近中。冒険者はそれぞれ西門に集合されたし‼︎ これは訓練ではない、繰り返す‼︎ これは訓練ではない‼︎】
そんな中、街中に警報が鳴り響き、各地に設置された拡声の魔石から冒険者ギルドのギルドマスターの声が響く。
「これは……緊急警報? 聞くのは久しぶりだけど」
「大変‼︎? 下着探しどころじゃないよユウ君、急いで向かわないと‼︎ 危ないからお姉ちゃんから離れちゃダメだよ‼︎」
「え゛ッ‼︎?……あ、そんな……」
姉ちゃんは慌てたようにそう叫ぶと、律儀に下着を魔法で元の場所に戻すと、僕の手を引いて現場へと走り出す。
ほっとしたようなどこか残念なような……魔物への殺意のような。
複雑な気持ちを交えた真顔で、僕は西門へと向かうのであった。
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