第35話 目を覚ましたのは
十一月が訪れた。
そんな中、十一月初旬に高等学校卒業程度認定試験を受験予定の涼は、勉強に追い込んでいた。
一日最低でも四時間を目安に。とはいえ、息抜きも大切だと感じ早く勉強を終わらせた日には戦略シミュレーションゲームをやることもあった。
「涼? 高認大丈夫?」
そんな中、心配になり時折涼の部屋を訪れるのは涼の母親。勉強面に関しては全く心配していないのだが、問題は体調面である。
既に十一月となり、若干寒くなってきていた。
温暖な静岡県はあまり寒くはないのだが、問題は寒さというよりも寒暖差。寒暖差が激しくなれば当然ながら体を壊しやすくなり、ましてや涼の身体はほぼ小学生である。体を壊さないように注意して気を使わなければならないのだ。
「大丈夫だよ。普通に合格するよ」
しかし、学力的なことを聞かれたと思っている涼は自信ありげに豪語した。
だが、涼の母親は首を横にふる。
「いや、そうじゃなくて。体調管理はしっかりしときなよって話。碧人くんも、風邪引いたんだし最近はやけに寒くなってきたからね。早く寝なさいよ」
「大丈夫。早めに寝るよ」
そう言うと、涼はリビングへと向かいコップに温かい麦茶を注ぎ一息つく。そしてすぐに部屋へと戻り、机の上に置いてある大量の参考書を見た。
高認を取るには十分すぎるものだ。
しかし、高認はあくまでも通過点であることを忘れてはならない。最終到達目標は、大学に合格することなのだから。
そんなことを考えるが、涼はとあることを思いついた。
「そういえば碧人どこの大学行くんだろ?」
共通テストまで残り十四か月半しかない。一年時でさえ既に希望大学を決めた生徒が多かった経誼高校である。さすがにそろそろ本命の本命大学のことを決めていないと、教師から早く決めるように言われているはずだ。
そう思い、スマホで涼は碧人にメッセージを送った。
『第一志望の大学どこ?』
するとすぐに既読がつき瞬く間に返信が来た。
『
八部大学は、近畿地方にある国立総合大学だ。旧帝国大学には及ばないものの、旧帝国大学に匹敵する難易度を誇る大学である。
涼でさえも、八部大学の名前はさすがに知っていた。
「八部大学か……いけるかな」
経誼高校の中でも、比較的上位に食い込まないと難しい大学だ。涼からしてみれば、ただでさえ勉強していない時間が長いのだ。本気で勉強しなければ受からない。
「もう少し勉強するか」
親からはもう寝たほうがいいと言われたが、八部大学を受験するのであれば話は別である。呑気に寝ている暇などない。高認を受験すらしていないが、既にその先のことを開始しなければならないのだ。
寝ようと思っていた所だが、急遽予定を変更し勉強机に向かう。
そんな中、突如スマホが光った。
メッセージが来たらしく、送り主は碧人であった。
『今大丈夫か?』
せっかく勉強机に向かったのだが、突然のメッセージにより涼の集中力はすぐにスマホへと向いてしまった。
『大丈夫だけど』
そう答えると、すぐに返信が来た。
『勉強は順調? もうそろそろ高認だけと気分は?』
『高認合格はほぼ確実だし、あまり心配してない。ただ、それよりも大学に行くから異世界に行ってた分の遅れを取り戻すことで必死。そっちは? 最近帰りが遅いようだけど。それと風邪治った?』
ここで話をし続けても勉強できるわけではないし、遅れが取り戻せるわけでもない。無意味な会話よりも、涼としては碧人の体調が心配だった。
『テストの成績が奮わなくて毎日放課後先生から教えてもらってるよ。風邪はほぼ治ったけどまだちょっと咳とか痰は出る』
碧人は土曜日の勉強会の後、テストへと挑んだ。英語以外は平均点は取れたため満足だが、英語の点数は目標点には及ばなかったのだ。そのため、平日は放課後に。土曜日も朝から個人授業となることが決まったのだ。
『というか、涼は風邪とか大丈夫? 俺のうつってない?』
幸いにも、涼は碧人の風邪はうつらなかった。そして既に接触してから数日経っているのに発症しないということはもう感染リスクはもうないだろう。
『大丈夫。何の問題もない』
『そうか。ならよかった。それじゃ』
涼と碧人のメッセージの応酬が終わると、すぐに涼は勉強を再開した。
一方の碧人はというと、テストから解放されたということと、放課後に英語教師から授業を受けたという勉強した感により特に勉強する気になれなかった。
しかし、寝るには時間がもったいないという感覚があったためリビングへと向かいテレビをつけた。
テレビでは、気象予報士が今後の天気を解説していた。
「今週の天気ですが、土曜日から日曜日にかけて静岡県西部では巨大な雨雲が発達し、一時間に五十ミリを超す大雨が降る可能性があります」
静岡県西部にだけ、局地的に大雨が降るとのことだった。気象予報士は、土砂災害や河川の氾濫についての警告もしている。
「涼大丈夫か……?」
碧人はそんなことを考えつつ、天気予報を眺めていた。
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