第4話

 村長と一緒に掃除をすることになった黒斑と卯之助は、本殿の東側にある開けた場所の雑草を抜いています。

「黒斑。包丁草には気をつけろよ」

「包丁草ってなんだ?」

 卯之助は包丁草を抜いて、実物を見せながら説明しました。

「葉っぱの横側にトゲトゲが付いてて、遊んでるとよく足に切り傷ができるんだ。すぐ切れるから、こいつは全部引っこ抜くぞ」

「分かった!」

 黒斑は元気よく返事をして、同じ形をした葉っぱを根っこから抜きます。たまに飛蝗ばった蟷螂かまきりを見かけると、雑草抜きを放り出して追いかけます。卯之助は黒斑がさぼっていないか、時々目を開かせていました。

「卯之助、黒斑、雑草抜きは終わったかえ?」

 村長が竹箒を持って様子を見にきました。御神木の下は落ち葉が一つの場所に集められて、すっかり綺麗になっていました。

「あともうちょっとー」

 卯之助が答えました。黒斑は人間の姿であるとはいえ汗が止まりません。

「卯之助ー。もういいのではないか? 体が乾涸ひからびてしまいそうだ」

 黒斑が弱音を吐いても、卯之助はその手を止めません。村長はいつの間にか竹水筒を持ってきていました。

「卯之助、もうその辺で仕舞いにしなされ。水を飲んで休むといい」

「水だー!」

 卯之助より先に黒斑が村長から竹水筒を受け取りました。それから卯之助もきりのよいところで雑草抜きを止めて、本殿の階段に座り込みました。すると汗が一気に噴き出して、顔にはいくつか滴が伝っていました。

「ありがとう、村長」

 三人で本殿の階段に座って休憩します。一息ついたところで、卯之助は悪い物ノ怪のことについて訊ねました。

「村長、なんで悪い物ノ怪は俺っちを狙っているんだ?」

「さあのう。おらもそこまでは知らん。もしかしたら、恨みを持ったまま現世を離れたのやもしれんのう」

「物ノ怪って恨みを持つと怖いのか?」

「怖いも何も、人間とて強い恨みを持てば生き霊が生まれて、そいつに付き纏われるんじゃぞ? まあ、卯之助にゃ関係ねえ話かのう。ほっほっほっ」

「か、関係なくねえだろ!? 今だって俺っちは狙われてるんだろ? その悪い物ノ怪ってやつによ!」

「だからおいらが傍にいて守ってやるんだろ?」

 からかうように村長は笑いました。卯之助は黒斑を見て少し頼りなさそうだと思いましたが、一人ではないことを思うと安心しました。

 村長は自分の家に帰ろうと立つと、晴れているのに雨粒が落ちてきました。

「こりゃあとんだ『狐の嫁入り』じゃあ」

「急げ急げー!」

「水は嫌いにゃー!」

 黒斑は驚いて猫又の姿に戻ってしました。雨はすぐざーざー降りになって三人ともびしょびしょになってしまい、村長の家まで走って帰ります。

「おめえたち、風呂入れ」

「嫌にゃー! こんなのぶるぶるすればすぐ乾くにゃ!」

 黒斑はどうしても水に触れるのが嫌で、毛から滴る水を玄関で思いっきり飛ばしました。それは傍にいた卯之助に当たり、さらに濡れました。

「黒斑やめろー! お前も風呂入れー!」

「嫌にゃー!」

「おめーらー!」

 二人が走り回るたびに床が濡れているのを見て、村長は二人を風呂に押し込み床を拭きました。

「黒斑とやらが無邪気で良かったわい」

 村長は黒斑の様子を見て確信しました。それは黒斑が悪い物ノ怪に落ちる心配がない、ということです。

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