Day7『引き潮』
潮が引いていくように、という言葉があるだろう。サァーッと、足下の潮が沖へ向かって引いていく。海中の砂を巻き上げながら、音も無くいつしか遠ざかっていく。
そういう感じなのだろう。
「――…………」
ふっと、君は一瞬動かしかけた唇を一文字に噤んで、そしてふいと窓辺を向いた。
窓の外に何かあるわけでもない。ただ暗い夜景に、僕らの仏頂面が映っているだけ。
それでも、君は一心に窓を見ている。僕を見ていたくないからだ。
心の中で溜息をつく。始まった。引き潮が。
きっとどこかに予兆はあった。だけど僕は、こうなるまで気がつかない。いつだって。
月の引力によって引き起こされるという引き潮。月は、何も無い、茫漠の大地だという。そんな虚無の手に誘われて、君は無関心の海に誘われる。
僕は追いつけるだろうか。君の心を、想いを、取り戻せるだろうか。
僕も彼女と同じ方向を見た。
星さえ見えない、寒い夜の空だ。
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