第31話「もっと近づきたい」2/2
テスト最終日の月曜。
「あー、やっと終わったー」
誰も通らない渡り廊下のベンチにもたれながら座る。
高校最初の期末テストはなんとか乗り切った。
予想がはずれてなければ赤点はまぬがれているはず。
うちでやった勉強会は特に何事もなく終わった。
距離が縮まったのかどうかさえわからないほどいつも通りだった。
ただ、小倉さんに日本史を教えてもらっている森くんとの距離がやたら近いことが気になった。(物理的な距離)
そのあともオレなりにいろいろ行動を起こしてみたけど(ラインとか一緒に帰ったりとか)たいして進展もなく・・・。
そもそもオレは男なんだし、森くんが男を好きじゃない限り恋愛対象から外れてるわけで。
いや、そんなこと言ったらオレだって基本男が好きなわけじゃないし。
「どーやったら好きになってくれるのかなー」
オレと同じで頭を撫でたら好きになってくれるのかなってなわけないか。
本当に、どうしたらいいんだ。
ぼんやり窓の外を眺めていたらだんだん眠くなってくる。
まぶたが重くなってきて、睡魔に負けた。
ふと目が覚め、肩に重みを感じながら起きる。
「やべ、寝てた! ん?」
右肩に森くんが寄りかかりながら寝ていることに気づく。
「えぇ! いつのまに森がいるの?!」
オレの声にも動じずグーグー寝ている。
肩から伝わる森くんの体温が暑苦しい。
夏木だったらさっさとどかすけど、そんなことしたら森くんの睡眠を邪魔することになる。
暑いけど我慢。
我慢? いや、嬉しい。いや、心臓が持たない。
森くんの寝顔に心臓のドキドキが激しくなる。
今にも口から出てきそうだから寝顔を見るのはやめることにした。
今なら、物理的な距離はゼロだ。
でも、オレが望んでるのは心の距離。
「ンッ」
森くんの漏れる声にオレの心臓が飛び跳ねる。
今すぐこの場から走り去り出したい衝動をグッとこらえる。
森くんに視線を向けると、閉じていた口がかすかに開いている。
こんな時に限って小倉さんに借りた『例のあれ』の内容を思い出す。
小倉さんの友達がオレと森くんをモデルにして描いたという恋愛漫画。
絵がめちゃめちゃうまくてびっくりしたけど、内容もいろいろびっくりした。
他にも小倉さんの友達がおすすめしている男同士の恋愛ものも借りて読んだけど・・・中学の時に友達と見たエロ雑誌よりすごかった。
あれが過激じゃないって普段小倉さんはどんなの読んでるんだよー!
借りた漫画のせいで、森くんが夢の中に出てくるし、久々にパンツ汚すし最悪だった。
漫画の内容のあれこれが頭の中でどんどん思い出され、顔がどんどん赤面していく。
両手で顔を覆いながら、心の中でつぶやく。
落ち着けオレ。落ち着けオレ。落ち着けオレ。
「ンーッ」
知ってか知らずか、森くんがまた声を漏らす。しかも、頭でオレの肩をグリグリしてくる。(なぜ?!)
理性、理性、理性、理性、理性、理性、理性、理性、理性!
平常心、平常心、平常心、平常心、平常心、平常心、平常心!
数分経って、やっと落ち着く。
森くんは相変わらずぐっすり寝てて起きない。
「どうしよう。さすがに起こした方がいいよな」
スマホを見ると、まだ昼の1時半だ。
テスト期間は午前授業だし、お弁当もない。
校舎内も静かだし、さっきから人が通らないし、とっくに下校時間はすぎてる。
これからは部活の時間だ。
森くんの寝顔を見てると、もうちょっとこのままでもいいと思えてくる。
そっと森くんの柔らかそうな金髪に顔を近づけ、唇で毛先に触れる。
オレを好きになってよ。
肩から、唇から、オレの体温から、森くんに伝わればいいのに。
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