第7話「嫌われた」2/2

 

 スマホの画面を覗き込む。

 昨日、あのあと家に帰ってから森くんにラインで誘ってみた。

『スポーツ大会の種目、一緒にバスケしない?』

 既読はついたけど返信が一切ない。

 朝も挨拶ついでに聞いてみても、「忘れてた」の一言だけ。

 なんか、機嫌悪そうだったし。

 小倉さんも当たり障りない返信ばっかだ。


 もしかして、他の種目と迷ってるとか?


 モヤモヤを抱えたまま6時間目のホームルームがきた。


「スポーツ大会の種目、ひとり必ず一種目は参加してください! 決まった人は黒板に名前を書いてください!」

 体育委員が黒板から離れると、クラスメイトが次々と黒板に書いてある種目の空きスペースに自分の名前を書いていく。

 中には友達の分まで書いていく奴も。

「男子は積極的に複数の種目に参加お願いしまーす!」

 体育委員が壁際に待機しながら言うと、男子たちがブーイングの声を上げる。


「立川ー、どーする? 昨日言ってたとおりバスケにすんの?」

 夏木がオレの席にやってくる。

「うん、そのつもり」


 森くんと一緒にやりたい! 森くんのバスケをしているところを見たい!


「じゃーオレもバスケにすっかな。でも、バレーボールも気になってるんだよなぁ」

 腕を組む夏木。

 迷ってる風を装ってるけど、これは嫌な予感がする。

「矢野はー? なにやんのぉ~」

 矢野の元へ行った夏木。黒板の前でなにやらじゃれ合っている。横顔がニヤニヤし合ってるところを見ると、絶対何か企んでる。

 いや、もう何かやらかしてる。

 どうせ、バレーボールにオレの名前も勝手に書いてるんだろう。


 チラッと森くんに視線を向けると、席に着いたまま頬杖をついて窓の外を眺めている。

 小倉さんにも視線を向けると、ちょうどいつも一緒にいる友達2人と黒板の前にいた。

 種目は・・・バレーボールだ。

 昨日、ラインでスポーツ全般苦手って言ってたっけ。

 バレーボールは立ち位置によってはあんまり活躍しないし、運が良ければほとんどボールに触ることなくゲームが終了する。

 いわゆる、スポーツ苦手な人が悩みに悩んで最終的に選ぶスポーツ。

 バスケやソフトボールと違って、決まった位置から動かなくても文句言われないし。

 そう思うと、バスケだって走ったりはするけど、参加してるフリができるから無難な気もするけど。


「まだ名前書いてない人ー! 早くしてくださいー!」

 体育委員がせかしてくる。

 黒板を見るとだいぶ名前で埋まっている。

 オレも書きに行かなきゃ。

 スクッと立ち上がり、黒板の前へと行く。

 ちょうどチョークを持っていた山田さんから受け取り、名前を書く寸ででピタッと動きを止める。

 

 やっぱり、もう一度森くんを誘おう!


 チョークを置いて、森くんの席へと向かう。

 森くんの前に立つと、クラスがどよめいた。

 本当はみんなの前で誘うのは目立つからやめようと思っていた。だから、ラインや周りに人がいない時に声をかけてたんだけど。

 クラスメイトのささやき声を、今だけシャットアウトして臆病な自分を引っ込める。


 頬杖をやめてオレと向き合う森くん。

 少し上目遣いなネコ目が、今は少し攻撃的に見える。

 オレは笑顔を貼り付けて、

「一緒にバスケやろう」

「・・・やらない」

 きっぱり断られた。

 聞き耳を立てていたクラスメイトからどよめきが。

「もしかして、他の種目と迷ってる? それだったら男子は複数やってほしいって体育委員も言ってたし。オレも他の種目やるし。(多分、夏木が勝手に名前書いてると思う)」

「・・・」

「友達から聞いたんだけど、中学の時バスケ部だったんだよね? 強豪校でレギュラーだって。すごいよ!きっとみんなもーー」

 ガンッ。

 机が蹴飛ばされ、危うく当たるところだった。

「しつこい」

 凄みのきいた低い声。

 殺気立った瞳に強く睨まれ、オレの体がフリーズする。

 シーンと静まり返った教室から出て行く森くん。

 ピシャリとドアが閉まると、クラス中が森くんの話題でもちきりになる。


「やべー! やっぱ、森ってヤンキーだ!」

 矢野が騒ぎ立てる。

「怖かったぁー! 立川くん大丈夫だったぁ?」

 山田さんが声をかけてくる。

「立川! 世話好きにもほどがあるって! 悪い、おれが昨日あんな話したから。あれ絶対、他人の空似だわ! マジ、森やべー奴」

 夏木がオレの両肩をつかんで揺さぶる。

「・・・いや、オレも悪かったんだ。断ってるのにしつこく言ったりしたから・・・」

 笑顔を貼り付けようにも引きつってうまくいかない。声だって震えるし。


 あぁ。

 やらかした。

 バスケ姿見たさに、オレはなんてことを・・・。

 絶対、嫌われたー!!

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