第5話「友達?」
実はまだ、実感が薄い。
昨日のはオレの都合の良すぎる夢だったんじゃないか、て。
「おはよう!」
「おはよう」
教室がざわつく。
無理もない。
昨日の今日なんだから。
登校してきた森くんに挨拶をするオレを、森くんは目を合わせて答えてくれた。
席に着く森くんを見下ろしながら、嬉しい気持ちをかみしめる。
夢じゃなかった!
妄想じゃなかった!
これが現実だ!
「あれから勉強した?」
何でもない風を装って話しかける。
「まさか。風呂入って寝た」
頬杖をつく森くん。
「それだけ? テレビとかは?」
「んー見ない」
「え? 普段から?」
「ん? うん。あんま見ないかも」
普通に会話が進む。
このなにげない会話に、じーんと感動を覚える。
オレも妹のネネや母さんと同じ、ミーハー属性だって昨日気づいた時はショックだったけど、今はネネや母さんがアイドルにきゃーきゃー言いながらときめく気持ちがわかる。
これが推しへの愛。てやつか。
「おはよう」
小倉さんが登校してきた。
森くんは頬杖をやめて、
「おはよう」
オレもすかさず笑顔を貼り付けて挨拶する。
なんとなくだけど、森くんの小倉さんへの態度がオレと少し違う気がする。なんとなくだけど。
自分の席に戻ると、いつもつるんでくるクラスメイトの矢野たちがオレを囲った。
「朝からマジびっくりした! 金髪の森としゃべってるし!」
「えー、いつの間にぃ」
矢野がおちゃらけて、山田さんがびっくりする。
「思ったより普通だよ。話しやすいし」
笑顔で答える。少しでも森くんの悪い印象が取れるように。
ポンッと夏木がオレの肩に手を置いた。
「さすが立川! ほんっとう立川は誰にでも優しいよなー。クラスメイトだからって放ってほけないんだろ」
「え?」
「そっかー。立川くん、本当に優しい~」
溝井さんが瞳を潤ませる。
「さっすがイケメーン!」
矢野の大きな声に、三人がどっと笑う。
「は、ははは」
合わせてオレも笑う。
あぁ、またやった。
全然笑えないのに、なに、笑ってるんだよ。
ちゃんと否定しろ、オレ。
ふと気になって、周りにバレないように森くんに視線を向けるけど、聞こえてないのか、スマホに夢中だ。
ホッとする。
よかった、聞かれてなくて。
あーあ。
森くんと友達になれたのに、オレはオレのまま。
情けない、オレのまま。
ブレザーのポケットが振動する。
スマホの画面を見ると、小倉さんからだ。
『森くんの髪、見た? 後ろ跳ねてるの発見! 寝癖かな?』
イラストのうさぎがハートをぎゅっと抱きしめてるスタンプ付きだ。
「・・・?!」
寝癖?!
まったく気づかなかったー!!
森くんの後ろ見てないし!
寝癖、見てー!
不覚とばかりに机に突っ伏す。
「え? 急にどしたん?」
笑い交じりに夏木がいじってくる。
また、スマホが振動して小倉さんからラインがくる。
『金髪っていいね。 よく見ないと寝癖だってわからないよ。おしゃれな髪型に見える』
うさぎがニコニコしてる。
あー。
オレも後ろの席がいいー!
同志最高! 小倉さん最高! 心の癒しをありがとう。
情けないけど、急には自分らしく振舞えないオレなんで。
クラスでは極力森くんに話しかけるのはやめることにした。(クラスがどよめくし)
小倉さんともラインのやりとりがメインになった。というか、小倉さんとの会話はほぼ森くんについてだから、ラインのほうがなにかと都合がいい。
クラスではお互い別々に過ごして、放課後は図書室で3人集まって勉強をした。
帰りは森くんと駅まで一緒。
テスト範囲の話をしたり、明日は何の授業だとか、ハマってるアプリゲーの話だとか当たり障りのない会話。
友達だけど、距離感のある友達。
「森くんはオレのことどう思ってんのかなぁ。友達って思ってるの、オレだけだったりして・・・」
頭で思ってることが口に出ていることにハッと気づき、口を手で押さえる。
ついでに周りを確認するけど、廊下にはオレしかいなくてホッと胸を撫でおろす。
理科実験室に教科書を忘れて取りに戻った帰り。
渡り廊下を歩いていると、前方に窓の外を眺めている森くんを見つける。
声をかけようとしたけど、森くんがあまりにも真剣な顔で何かを見ているから気になった。
オレも森くんから離れたところで窓の外を覗き込む。
バスケだ。
体育着を着た男子数人が楽しそうにバスケをしている。
授業前の遊びだ。なんてことない風景。
顔を窓からそらすと、すでに森くんの姿はなかった。
森くん、なんであんな真剣な顔で見てたんだろう。
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