雪兎
ピーター・ウィッグネンという男の突然の来訪に、アサミは動揺を隠すことができなかった。それに、ピーターが軍の関係者ということが分かったのも、なんだかショックだった。
そんなアサミの心情などつゆ知らず、先程まで怒りの表情しか見せていなかった取調官はピーターの方を向いて慌てて敬礼をした。
「ウィッグネン殿……!い、いらしていたのですか!」
その言葉の答えは、ピーターが手を挙げることで示し、自分の言葉を続けた。
「ところでこの取り調べ、私がやってもいいですか?」
その言葉にはアサミも驚きを隠せなかった。
「えぇ!?ウィッグネン殿が、でありますか!?」
「はい。良いですね?」
「え、えぇ。お気をつけて……」
先程までの熱量はどこへ行ったのやら、取調官はあっさりと席を離れ、扉の前まで行くともう一度敬礼をして出ていった。
代わりに目の前にはピーター・ウィッグネンが座り込んだ。
「━━意外と偉い方だったんですね」と、アサミは吐き捨てるように言った。
「えぇ、まぁ。そうですねぇ」
未だにこのピーターという男には慣れない。頭の中でどこか恐怖感を覚えてしまうのだ。彼は至って平然でいるつもりだろうが、私にはその顔の笑顔が、
「そうかしこまらないでください。私はあなたに質問があってここに来たのですから」
「━━もうなんで
「あははっ、そんな野暮なことは言いませんよ。あの取調官は少し頭が固かっただけですから」
「……じゃあ、何が聞きたいんですか?」
一瞬、静寂がこの場を駆け抜けた。まるでピーターがその質問への誘導が成功したのか、ピーターの笑みが少しだけ強まった気がした。
その静寂を破るようにピーターは口を開いた。
「……やはり、あなたは話していて実に面白い。では、早速話を聞かせてもらいましょうか。まず、あの『スノウラビット』には、しっかりとしたプログラムは積まれていませんでしたね?」
「……『スノウラビット』?」
知らない単語が出てきたので、アサミは聞き返した。
だが、聞いてはいるものの、なんとなく頭では理解していた。
「あぁ、そうでしたか。そういえば言っていませんでしたね。『スノウラビット』。あの
スノウラビット。
確かに、機体の見た目を思い出してみると、『尖った兎のような耳』、『輝くような純白』、『赤と金の
全て、スノウラビット━━そう、雪兎と呼ぶにはあまりにも酷似したデザインの機体に乗っていた事に、アサミは今気づいた。
「それで、再度質問させていただきますが、スノウラビットにはしっかりとしたプログラムは積んでいませんでしたね?……まさか、自分で組み直したのですか?」
「ま、まさか!私にそんな事できませんし、プログラムも確かに簡易手なものしか組まれていませんでしたよ……?」
「そうですか……」
ピーターは顎に手を当ててうつむいた。
(あのプログラムであそこまで動けるとは思ってもいませんでした……これは良い意味で
しかし、ピーターはここまで考えているにも関わらず、アサミはほぼ無意識で、限られた条件の中、あそこまでの高度な動きをしているとまでは流石に思い至らなかった。
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