第18話


 日曜日も夕方からバイトの為、昼には家に帰り、昨日の余韻がまだ残ったまま店に向かう。


 店のドアを開けると、その時は珍しくお客さんが入っていなかった。


「おはようございます」


「おはよう」


 冬馬さんの顔を見ると少しホッとする。


 結局その後もお客さんはまばらのまま閉店の時間になった。


「今日は暇でしたね」


 私がそう言いながらテーブルや椅子を拭いていると。


「こうゆう日もあるよ」


 冬馬さんがロールカーテンを下ろし、電気を切った。


 それにしても冬馬さんはあれから何も言ってこない。痺れを切らした私は聞いてみる事にした。


「もう気持ちは落ち着いたんですか?」


「何の事?」


「金曜日の事です」


「あの時は大人気なかったよね。本当にごめんね」


 冬馬さんは申し訳なさそうに言った。


「なんで謝るんですか?」


「だって俺の気持ちを押しつけてしまったし、手も出してしまって反省してる」


「謝らないで下さい。やめないでって言ったのは私ですよ」


「そもそも彼氏がいるももちゃんに言い寄るのもどうかしてるよね。今更だけど金曜日の事は忘れて欲しい」


「忘れられるわけないじゃないですか‥‥」


「えっ」


「あそこまでしておいて忘れてとか自分勝手すぎます」


「ほんとにごめん」


「私の気持ちはどうなるんですか」


「ももちゃんの気持ち‥‥」


「私昨日は柊生の家に泊まりました」


「‥‥そう」


「なんとも思いませんか?」


「そうだね。付き合ってるんだから普通だと思うよ」


「それに柊生としました」


「‥‥‥そう」


「これでもなんとも思いませんか?」


「‥‥付き合ってるんだから‥‥自然な事だと思うよ」


「正直すごく感じました」


「‥‥‥うん」


「ほんとに何も思いませんか‥‥」


「酷いね」


「冬馬さんの方が酷いですよ。無かったことにしようとするなんて」


「そんなつもりはないよ。でも気持ちが暴走してしまうからね、少し冷静になって考えてみた時に自分がした行動は間違ってたって思ったんだ」


「私よくわかりません。自分の気持ちも冬馬さんの気持ちも」


「ももちゃんが悩む事ないよ」


「悩みますよ。私あの時の冬馬さんの姿が頭から離れないんですよ」


「それってどうゆう事?」


「気持ちが揺れてます‥‥冬馬さんに」


「そうなの?」


「まさか二日で違う人と関係を持つとは思ってもみませんでした。比べるのはよくないと頭では分かってるんですけど、冬馬さんの方が私には合うみたいです」


「それは‥‥嬉しいけど、素直に喜んでいいのかな」


「‥‥キスして下さい」


「えっ、ここで?」


「はい、今すぐ」


「いきなりどうしたの?」


「確かめるんです。自分の気持ちを」


「確かめてどうするつもり」


「分かりません。でも今はとにかく冬馬さんとキスがしたいです」


「そんな目で見ないで。俺がももちゃんの事本気で好きなの知ってるでしょ」


「じゃあできますよね」


「どうなっても知らないよ」


「冬馬さんにならどうされてもいいです」


「言ったんだからね」


「はい」

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