第16話
柊生はゲーム、私は漫画を読んでいた。
ダメだ。漫画の内容が頭に入ってこない。
「ねぇ柊生、そろそろ電車の時間もあるし出ない?」
「うーん。てかさ前から考えてたんだけどももちゃんって泊まりオッケーなんだよね」
「えっなんで?」
「だってさ、あの雪の日店長の家で一晩過ごしてたんでしょ?」
「あの時は緊急事態だったし‥‥」
実際は高校に入った頃から泊まりは普通に許可してもらえている。
「正直言ってほしいんだけど、キスとか迫られたりしたでしょ」
「何言ってんの?そんな事店長がするわけないじゃん」
「だってさ、よく考えてみるとももちゃんみたいに可愛い子と二人っきりでいて何の感情も湧かないなんて有り得ないよ。男なら」
「いやいや、ないから」
今頃になってなんでそんな事言うんだろう‥‥もしかして昨日の事疑ってる?
「それにいくら店長だからって普通家に連れ込むかな?」
「だから、状況が状況だったし歩いて帰るわけにもいかなかったから」
私は動揺を必死に隠していた。
「その時寝てないよね」
「うん、ずっと起きてた」
「ふーん。そうなんだ。ほんとに何もしてこなかったんだね」
「当たり前だよ」
「だからさ、今日うち来ない?」
「今日は緊急事態じゃないでしょ」
「だって俺たちまだキスしかしてないんだよ?俺も男だからやっぱりもっと近づきたいし‥‥」
「でも家は親とかいるでしょ」
「じゃあホテルならいいの?」
「っ!そんな直球で言われても‥‥」
「ねぇお願い。店長とは一晩過ごして俺とはないとか嫌だよ」
どうしよう、今は全然そんな気になれない。でも断り続けるのも無理がある。
そこで私は決心した。
「わかった。でもホテルじゃなくて柊生のうちね」
「ほんと?やったぁ!」
ホテルなら完全にそうゆう雰囲気になってしまう。でも家ならまだ家族の目もあるし強引には出来ないはず。
それに明日は日曜日で学校もないからタイミング的には好都合だ。
「じゃあ一旦お風呂と着替えだけ済ませに帰ってもいい?」
「それは大丈夫だよ、着替えも姉貴のがあるし気にしなくてもいいよ!」
「まだ会った事もないのに気まずいよ」
「本当大丈夫だから!とにかく早く行こ?」
「わかった‥‥」
柊生は本当に頑固と言うか人の話を聞かない、それに私はどちらかと言うと断るのが苦手だ。完全に柊生のペースになってしまう。
ネットカフェを出ると柊生の家までは歩いて20分程だ。途中自動販売機で暖かいココアを買ってもらい飲みながら歩いた。
「ももちゃん、手貸して」
柊生がそう言うので私はココアを持っていない方の手を差し伸べた。
すると、柊生は私の手を握り自分のポッケに入れた。
「何してるの?」
「え?分からない?温めてあげてるの、よくドラマとかでやってるでしょ?」
「あぁ」
「あぁ、って冷たいなぁー。でもクールなももちゃんも好きだよ」
「柊生ってよく恥ずかしがらずにそうゆう事言えるよね」
「正直者だからね、嘘は嫌いだし思った事は言うよ」
「そうなんだ」
嘘は嫌い‥‥か。
「ももちゃんは嘘つかないよね」
「‥‥当たり前じゃん」
その時、私は昨日の冬馬さんとの事が頭をよぎった。
「よかった」
柊生の笑顔が今は私の心を突き刺す。
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