プレパレーション

@cakucaku

第1話


 11月上旬、木枯らしが肌に刺さる季節。



 私は桜井もも18歳。



 私には夢がある。

 それはお金を貯めてクレープの店を開く事。その為にクレープ屋で修行をしながらバイトをしているのだ。


「おはようございます」


「ももちゃんおはよう」


 この人は店長の冬馬さん、多分20代前半くらい。初めて冬馬さんのクレープを食べた時美味しすぎて衝撃だった。それで弟子入りしたいって頼み込んで雇ってもらう事に。

 本当はバイトなんか雇うつもりはなかったらしいけど何故かオッケーしてくれて、その時は嬉しかったなぁ。



「今日は忙しいですか?」


「そうだね、俺は少し出掛けてくるから後は任せても大丈夫?」


「はい、大丈夫ですよ」


 私が店を出したいのを知ってるから、出来る事はある程度任せてもらってる。


 よしっ。


 エプロンと帽子を被ると、早速お客さんがやってきた。

 店内でも食べれるが、夜は比較的持ち帰りが多い。

 慣れた手つきで作っていく。バイトを初めてもうすぐで一年だけど、冬馬さんには才能あるねって言われてる。


 いつも学校が終わった後から閉店まで働いて、電車で帰っている。


 時刻は9時を回ろうとしていた。


「もう注文出来ませんか?」


 私が店じまいをしようとしていた時お客さんがやってきた。


「大丈夫ですよ!お伺いしますね」


「よかったぁ。じゃあお姉さんのおすすめ下さい」


「私のおすすめですか?」


「はい!」

 そのお客さんは私と同じ年頃の男の子で、目をきらきらさせていた。

 

「お待たせしました」

 私はお店の人気メニューを作り、その子に手渡した。


「ありがとうございます。それと一ついいですか?」


「なんですか?」


「お店終わったら俺とデートしてくれませんか?」

 その子が慣れた口調で言ってきた。

 

「はい?何言ってるんですか?」


 私はいきなりの事に少し驚いた。


「俺、お姉さんに一目惚れしたんです」


「冗談はやめて下さい。それにお姉さんって、多分年は同じくらいだと思いますけど」


「俺は16歳です。何歳ですか?」


「‥‥18」


「ほら!やっぱりお姉さんでしょ?」


「とにかく!デートはしません」


「分かりました」


 結局その子はしょんぼりして帰って行った。


 一体なんだったんだろう。

 こんな所でナンパされるとは思ってもみなかった私だったが案外悪い気はしなかった。

 それは多分その子が16歳にしては大人びていてとてもイケメンだったからだ。


 彼氏なんてもう何年もいない。

 周りは彼氏だの彼女だの浮かれているが私には夢がある、その為に恋愛なんかしてる場合じゃないんだ。そう言い聞かせてきたけど実際デートに誘われると正直行きたい気持ちもあった。複雑な年頃ってとこかな。


 私が片付けを終える頃には冬馬さんも戻ってきた。


「遅くなってごめんね」


「大丈夫ですよ。まだ電車は何本もありますし」


「すぐ閉めるから駅まで送るよ」


「いつもいいって言ってるじゃないですか」


「いやぁ、それでもやっぱり心配だからね」


 冬馬さんはすごく心配性だ。特に私の事は多分妹のように思っているのだろう。


「もう子供じゃないですしこの時間は人も多いですから」


「分かった。でも怪しい人につけられてるとか少しでも怖くなったらすぐ連絡するように」


「分かりました」


 正直駅まではそれ程遠くないが、冬馬さんは忙しい人だからなんだか悪くて今まで断っていた。それに店以外で二人で歩くのは少し気まずいと思っていた。


「じゃあ気をつけてね」


「お疲れ様でした」


 おー寒い。夜になるとますます冷え込むなぁ。そろそろマフラーとか買っておかないと。そう思いながら駅に向かう。


 改札を抜け駅のホームに降りると退勤後の人で溢れている。

 みんな残業とかしてこんな時間になってるのかなぁ。大変だなぁと考えながら電車を待っていた。


 そして冬馬さんにはとても言えないけどいつも帰りの電車で不思議な事が起きている。

 それは毎回同じ人とぶつかる事だ。

 最初は偶然かと思っていたけど明らかに私に当たりに来ている気がしていた。

 不審に思った私は乗る電車の時間を遅らせたり毎回違う車両に乗ったりしているが、それでもぶつかる。

 

 私は周りを見渡しながら隅っこのスペースを確保できた。


 そして電車から降りようと歩いていると電車内でまた誰かとぶつかった。


 まただ、そう思いその人の顔を見ると、いつもはどこかに向かって一目散に歩き出すのに今日は私の事を見てきた。


「すみません」

 私は咄嗟にそう言ってしまった。


 しかしその人は無言で立ち去っていった。


 見られたのは初めてで鳥肌が立つほど気持ち悪かった。


 明日電車に乗るの少し怖いな。


 

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