31話:聖界の町①
すれ違う女人の視線が、すべて一つの場所に集まっているのが分かる。どうしてか、なんて理由は考えずとも明白だった。
――そうだろう、そうだろう。うちの無風はやっぱり格好いいだろう。
町を歩くのに不自然にならぬよう、
代わって
ただ、あまりにも印象が違いすぎる二人が並ぶとどういった関係なのか読めないらしく、途中何度かこちらを眺める男の視線とぶつかった。しかしそこは蒼翠が『気にする必要はない』との意味を込めてふわりと笑いかければ、相手は慌てた様子で目を逸らすので大きな問題にはならなかった。
が、なぜか無風に「危ないので無闇に
色香ってなんだ、色香って。
色々解せない。
「――で、この町はどうだ? ご
その後、蒼翠は巧みに誘導し、無風を隣陽が住む町・彩李へ移動した。
「ここが『この町で見つからない品はない』と有名な
初めて目にする賑わいのある町並みに、無風を感動してキョロキョロと周りを見回す。
「ここは商いに特化した町だから、都にも負けないほどの人出になるそうだ」
彩李は
しかも今日はちょうど祭りの日だったらしく手作りの
「お、サンザシ飴じゃないか!」
無風と並び散策していた途中で、見覚えのある菓子を見つけると、蒼翠はたちまち子どものように目を輝かせた。
サンザシ飴とはサンザシという姫リンゴほどの大きさの赤い果実を六つほど串に刺し、そこに水飴を纏わせた菓子で、中国では昔からある有名な食べ物だ。
ちなみに
「この飴を一つくれ」
蒼翠は懐から小さな銀塊を取り出し飴屋に渡すと、一番形のいい飴を取りすぐに頬張った。
「うまっ! 無風、これ、すごく美味いぞ」
外の飴はカリッとした絶妙な硬さで固まっていて食感がよく、中のサンザシは酸味はあるが飴と一緒に口にすると中で爽やかな味わいに変化する。サンザシ飴は一串の量が多いから全部食べきれるか不安もあったが、これなら無理なくいけそうだ。
「ほら、お前も食べてみろ。甘酸っぱくて癖になるぞ」
これだけ美味しい菓子なら、やはり可愛い弟子にも食べさせたいと思うのが師匠心というもの。蒼翠は持っていた串を、ほら、と無風の口元に向けた。
「え? あ……えっと、わ、私ですか?」
しかし無風はなぜか大蛇でも見たかのような表情で瞳を見開き、小さな呻き声を上げながら身体を硬直させた。
「なんだ、お前、甘い物は嫌いか?」
「い、いえ……そういうわけでは」
「だったら食べてみろ。ちょっと口の周りが飴でベタつくかもしれないが、男なんだから気にならないだろう?」
「ほら、早く口開けろ」
「は、はい……」
師の命に逆らえない弟子は、真っ赤な顔で視線を右往左往とたじろがせながら口を開くと、控えめに飴を
「蒼翠様っ」
「なんだ? あまりの美味しさにびっくりしたか?」
「あ、貴方というかたはっ……」
「ハハハッ、どうした、サンザシより真っ赤だぞ」
子ども扱いがそんなに嫌だったのか、今にも湯気が噴き出しそうな顔で文句を言う無風を見て大笑いしてやる。
最近身体だけでなく
「でも、こんなに美味しいものがここでしか食べられないのは残念だな」
サンザシ飴を楽しみたいなら、聖界の町に来るしかない。
ただし、ある一つの手段を除いてだが。
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