リア充グループは〇〇が近い──③

   ◆



「つ、疲れた……」

「おいおい。筋肉はあるけど体力はねーな、十夜は」

「バスケ部と同じ土俵で考えないでくれます?」



 日頃から走り回ってる運動部と、趣味程度で筋トレしかしてない帰宅部を一緒にしないでいただきたい。

 にしても、制服姿で動き回るもんじゃないな。汗だくだ。

 ベンチに座って休憩していると、太一が俺の前にスポドリを出した。



「あ、ありがとう、太一」

「気にしないで。それにしても十夜、君すごいね。体力お化けの義樹と柚姫によく食らいついてた」

「お化けなのか、あの2人」

「それはもう。学年でもトップレベルじゃないかな。去年の球技大会でも大活躍だったし」

「へぇ」

「へぇって……同じ学年なら、噂くらい聞かなかったのかい?」

「噂話をするような友達いないから」



 そも、噂とか好きじゃない。恋歌の件もあるし。

 事実を口にすると、恋歌以外のみんなが哀れむような目で俺を見てきた。

 やめろ、そんな目で俺を見るな。

 バツが悪くて顔を逸らすと、道谷がぱんぱんと手を叩いた。



「はいはい、人のことをとやかく言わないの。私たちの決まりでしょ」

「大丈夫、そんなつもりはないよ」



 道谷の言葉に、太一が答える。

 ルール……? そんなものがあるのか、このグループ。

 俺と同じ疑問を持ったのか、恋歌が道谷に聞いた。



「決まり? ルールみたいなのがあるの?」

「というより、暗黙のルールね。単純に、人の嫌なことはしないってこと。人には触れられたくないことって、絶対あるでしょ」



 な、なるほど。確かにそれはある。

 人によっては、いじられたくないことを変にいじられて、傷付いてしまうだろう。

 俺だってそういうものはある。恋歌は言わずもがな。



「リア充グループって、そんな所も考えてるんだな……」

「リア充グループ? 何それ?」



 星咲が首を傾げる。

 え、何言ってんのこの子?



「このグループのこと。結構周りからは、リア充グループとして見られてるんだけど……」

「へー、そうだったんだ」

「……知らなかったの?」

「別にリア充とか興味ないからねぇ。あたしたちは好きで集まってて、好きで一緒にいるだけだから」



 それはつまり、真の陽キャは自分たちを陽キャと認識してない、みたいなことか。

 本当にそんなことあるんだな……。



「因みに! あたしは身長をいじられるのが嫌いです! でもいい子いい子撫でてくれたら喜びます」

「オレは顔をいじられるのがイヤです! ヤンキー顔とか言うなコノヤロー!」



 2人ともいろいろとあったらしい。この2人をいじると、マジで潰されかねないから気をつけよう。

 道谷は……。



「何かしら十夜くん?」

「ナンデモナイデス」



 道谷に関しては、絶対触れちゃダメ。特に男の俺は。

 話を逸らすように、太一に目を向ける。



「太一に関しては、何もなさそに見えるけど。イケメンだし」

「はは、そう言ってくれると嬉しいけど、僕は勉強が苦手でね。絶賛改善中だけど」



 なんと、意外だ。爽やかイケメンの太一でも、勉強が苦手なのか。

 今まで絡んだことがなくて気付かなかったけど、みんないろいろな悩みを抱えてるんだな……。

 なんて思ってると、みんなの視線が九鬼に向かった。



「え。わ、私も……?」

「そりゃあそうだろ。腹割って話さないと、知らないうちにそのことに触れられちまうぞ? オレらは知ってても、十夜と横島は知らねーんだからよ」

「ぐっ。久我くんのくせに正論を……」

「オレのくせにってどーいう意味だ!?」



 義樹がショックを受けたような顔をする。

 こういういじりに関しては、ルール上セーフってことか。いろいろややこしいな。



「えっと……まあ、私は過去には触れられたくない、かな」

「過去?」

「うん。聞かないでね」

「わ、わかった」



 なんとなく、重い話になりそうな予感がした。

 まあ触れたらいけないことなら、絶対触れないけどさ。



「さ、さあっ、私たちは言ったんだから、次は常澄くんと恋歌ちゃんの番だよ!」



 俺たちか……別に触れてほしくないところはないんだよな。

 オタクってのも事実だし、陰キャなのも事実。友達がいな……少ないのも事実だ。

 特にそこを触れられて、俺が傷付くこともない。



「俺は特に。ありのままの自分が好きだから」

「おぉっ! とーやくん、かっけー!」



 星咲が顔を輝かせて拍手を送ってきた。そんな褒められることじゃないんだけど……。

 と、みんなの視線が恋歌に向いた。

 恋歌は顔を真っ赤にして、俺の背中に隠れてしまう。



「う、う、ウチ、は……その……」

「あー、みんなごめん。恋歌は人見知りで、注目されることに慣れてないんだ。だから暖かく見守ってやってくれると、助かる」



 恋歌を守るように少し前に出ると、みんなは納得したように頷いた。



「レンたん、見た目は派手派手なのに注目されることに慣れてないって、ギャップ萌えがすぎるで」

「ふふ、可愛いじゃない」



 ほ……よかった。みんながいい奴で。

 昔は周りからの風当たりが、本当に酷かったからな……。


 小学生は良くも悪くも純粋だ。

 純粋で良くも、純粋に悪くもなる。

 人見知りの恋歌は、自分の意見が言えないことに周りからからかわれた。

 そのことが原因で余計人見知りが加速したんだっけ。


 これがきっかけで、少しでも変わっていってくれたらいいな。

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